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第13話 交わった人生の交差点




 俺の持ち物の謎は納得の上で解決したらしい由実は、昔のメンバーに話題を変えてきた。


「ねぇ。ほかのみんなとは連絡あったりしたの?」


「俺はないけど、親はあったみたいだよ。ほら、植田なんかは向こうで同じ会社だったから」


「ああ、植田君ね。大学受験で帰ったと思ったけど」


「そうそう。まぁあそことも色々あってさ」


 どうしても異国での少人数のコミュニティになってしまうので、本来ならばどうでもいいようなこともお互いに比較対象になってしまうことも多い。


 親同士のプライドなどもそんな一つだ。


 俺が現地で生活していたとき、彼があとからやってきた。


 親の職制としても彼の家の方が上だった。そんな事から、普段の生活の中で何となく俺の中に彼に対する劣等感を持っていたのは事実だ。


「俺たちが大学に入った年かな。なんか会合があって会ったらしいんだな。植田の親父さんが、息子が帰国子女枠でW大の経済学部に入ったと言ってきたらしい」


「そんなの別に言わなくたっていいじゃない。植田君のお父さんも大人気ないと思うなぁ」


 彼女は、恐らく当時から俺たちの確執があったことを感じていたのだろう。


「いや、それには続きがあってさ。うちはN大ってのは知っていたらしいんだけどね。学部までは知らなかったんだよ」


 そう、学校全体で言えば世間一般の認識は彼の入ったW大学の方が評価が上だ。


 しかし、両家の親ともエンジニアの端くれというのが今回のミソだ。


「うちはN大の理工学部ですと言ってやったらしい。そしたらさ、黙っちゃって、それからは一切近寄ってこなかったって」


 高校受験で帰国し、理系を目指す。英語というアドバンテージを捨てることは正直マイナスからだったと思う。


 工学系ならばどちらも国内有数のレベルだ。


 平凡な自分がエンジニアを目指すためにはこれしかなかった。


 そして、狭い大人の世界ではそれが決定打になってしまったらしい。文系と理系という越えられない壁。


 これまで事ある毎に言いたい放題だった家族を黙らせるには、この事実だけで十分だった。


「こうやって仕事をしてると、そんなものがバカバカしくなってくるときもあるけどさ」


「でも、あのとき頑張ったんだもん。それくらいご褒美あってもいいよね。まさかの立場逆転だったんだね」


 俺が帰国したあとのことはいくつか教えてもらっていたけれど、植田の話題が出ることはなかったと思う。彼女にとっても苦手なタイプだったのかもしれない。


「そうかもしれないけどね。俺は佐藤の方がすげぇと思うよ。あそこで一人頑張っていたなんてさ。俺には出来なかった」


 あの日、それぞれの道を歩き出していたけれど、お互いに一生懸命に進んできたのだから。それが偶然からまた一つの交差点にたどり着いたというのが今の俺たちなのだろう。


「佐藤……、俺さ……」


 昨日と同じように手を繋いだ由実に話しかける。


 返事はなかった。


 昨日とは違って、嬉しそうに微笑みながら、すでに寝息をたてている由実の手をそっと握ってやった。


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