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最終話 世界で一番幸せなのは……

 ううっ、身体中が痛い。

 目を開けるとベッドの上。

 

 頭を少し上げて辺りを見渡す。

 どうもここは病室らしい。

 部屋の隅に置かれたソファではお母さんが寝息を立てている。


「気づいた様だな」


 身体があまり動かないので視線を動かしベッドの傍に立つ男性を確認。

 中年のおじさん。確かこの人はお父さんの友達で同じ猟団に所属していた……


「サイラス……さん?」


 そうだ、サイラスさんだ。

 口数が少ないけど犬が大好きな優しいおじさん。


「無茶をしたな。だがお前のおかげで大勢が救われた」


「ボク……生きてる?」


「ああ。何とか一命はとりとめた。1節くらい寝てたぞ?」


 うわ、1節も!?


「あのゴーレムは……」


「頭を撃って破壊した。お前が無茶してダメージを与えてくれていたから一発で仕留められたよ」


 そうか。

 最後にトドメを刺した攻撃はこの人が……


「あまり親を泣かすな。リゼット達は勿論、あのナナシまでが泣いてたんだぞ?」


「お父さんが……」


 サイラスさんはお母さんが眠っていることを確認すると何かを決意した様に話始める。


「少し俺の話を聞いてくれ。俺はお前の親父、ナナシと同じく転生者だ。まあ、生きた時代は少し違うがな」


 サイラスさんが転生者?


「俺はかつて軍人だった。祖国を侵略してきた敵兵を大勢殺した。ついたあだ名が『白い死神』だ」


「死神……」


「そう、俺は死神だった。だけどその事に後悔はない。国を守る為に戦ったしやれと言われたことを可能な限り実行したまでだからな」


 サイラスさんが『死神』って呼ばれていたなんて……


「たとえ血で汚れた手だったとしても前に進むしかない。それが生きているものの務めだ。だからその命、もっと大切にしろ。わかるよな?」


「うん……」


「よし。聞かせたかったのはそれだけだ。それじゃあ、ナナシ達によろしくな」


 言うとサイラスさんは少し微笑み部屋から出て行った。

 それから間もなく、お母さんが目を覚まし……


「アリス?」


 ボクが意識を取り戻していることに気づき駆け寄って来た。


「アリス!わかる!?お母さんがわかる!?」


「うん。わかるよ。お母さん……」


「良かった、アリス…………ぐっ……ぐすっ……ぶええええん!!!!」


「うぇ!?ちょ、お母さん。鼻水!鼻水が垂れてる!顔に、顔にかかってるよ!!」


 この後、かけつけた家族たちは悉くボクの手を取って泣き出した。

 鼻水を垂らしたのはお母さんだけだったけどみんなにかなり心配を掛けちゃったみたいだ。


 先ほどサイラスさんが言っていた通りボクは1節眠り続けたらしい。

 その間、何度か心臓も止まったらしい。

 いや、よく生きていたな自分。


 あの事件での犠牲者は奇跡的にゼロだった。

 ボクが戦っている間に負傷者が救出され素早く治療が出来たらしい。



 目覚めてから1週間後、ボクは車いすをお母さんに押してもらい病院の中庭に来ていた。

 戦いの代償としてボクは右腕の自由を失っていた。

 折れた上であれだけ無茶をしたからなぁ……

 それと同時に、『チェシア』も消えていた。

 何度か鏡の中に呼び掛けてみたが返事はない。

 もしかしたらチェシアが助けてくれたのかもしれない……


 歩くのはその内出来る様になるらしいけど寝たきりだったから筋肉が落ちていてまだしばらくかかりそうだ。

 だからこうやって車いすに乗っている。


「やぁ。アリス」


 中庭ではエミールが待っていた。

 彼とは目が覚めた日にも会っているがその時はゆっくり話が出来なかった。

 お母さんがボクの肩を叩き席を外してくれる。

 これで2人きりだ。


 しばらくの沈黙の後、エミールが口を開く。 


「あの、実は俺……故郷へ帰らなくちゃならなくなったんだ。元々、親父に無理を言ってこっちに異動させてもらったから……」


「そっか。やっぱり君が首都に異動してきたのって、ボクを追いかけてきたからなんだね」


「元々親父から色々お父さんの話とかは聞いててさ。それでその娘が来たって聞いて……それで、ひとめぼれしてしまって」


 てっきりあの時はナンパの類かと思ってたよ。


「はは、ちょっと照れるかな……」


「あの、それで……君自身が今そんな状態になってる時にこんな事を言うのもどうかとは思ったんだが……その、一緒に住むかって提案。ちょっと変えて、それで俺の故郷に来て一緒に暮らさないかって……」


「それって……」


「勿論、君が不自由な部分はきちんと支えるし、後それにえっと……ああ、ちょっと待って。色々考えて練習したのに全部すっ飛んじゃって………」


 やれやれ。

 面白いくらいにうろたえるんだから……

 

「エミール。ちょっとこれ、開けてくれる?」


 ボクはひざ掛けの下に隠しておいた革袋を取り出しエミールに差し出す。


「え?あ、ああ……」


 エミールが革袋を開け取り出したのは指輪だった。


「アリス……これって……」


「いいよ。君について行く。でもただの同居とかじゃなくてさ、結婚しよう」


「お、おおお……、マ、マジか!うぉぉぉ!!」


 声をあげたエミールはその場にへたり込んでしまった。


「うぇっ!?だ、大丈夫!?」


「わ、悪い。ちょっと力抜けちゃって……正直、フラれてしまうって思ってたから…………あ、あの、罰とか当たらないよな?ちょっと怖くなってきたんだけど……」


「うぇへへ、もしかしたら当たるかもね」


「えぇぇっ!?」


「嘘だよ。死にそうになった時にさ、君の顔が浮かんだんだ。それで、死にたくない、離れたくないって思ったから……」


「お、おう」


 だから会うまで1週間待ってもらった。

 その間に母親3人と姉妹5人を交えてどんなプロポーズをするか練ったから。

 まあ、これもナダ女性の伝統というやつだ。


「ところでエミール。プロポーズの返事、まだ聞いてないよ?」


「あっ、そ、そうか!勿論、受けるよ。俺も君と結婚したい」


「フフッ、良かった。それじゃあさ、一つわがままがあるんだけど……」


「いいよ!ひとつところふたつでもみっつでも聞いてやるよ!一体どんなわがままだ?」


「それはね……」


□□


 それからボクは『ルイス猟団』を辞めエミールと結婚すると彼の故郷へとついて行った。

 本来なら慣習にのっとってエミールがレム家に入るのだが敢えてボクが嫁入りすることにした。

 今の名前はレーギュラン・レム・アリソン。

 旧姓をミドルネームにした。


「なぁ、アリス。お前のわがままって本当に『これ』でいいのか?」


「うん。『これが』いいの」


 目の前にある家を眺める。

 ボクが出した条件。

 それは住む場所の事。


 この家はかつてお母さん達が4人で暮らしていた想い出の場所。

 長く空き家になっていたがしっかりとした造りなので改装を加えれば十分に住める。

 入り口に自分達の名前が刻まれたプレートををかける。


「うぇへへ。いい感じ」


「ああ。何ていうかさ、お前が嫁さんになってくれるなんて俺は世界一の幸せ者だな」


「うぇへへ、残念だけどそれは違うよ」


 夕焼けが2人を照らし、影が伸びていた。


「君は世界で2番目、だよ」


――

転生者サイラスの正体について

本人の台詞からお気づき方もいるかと思いますが。


シモ・ヘイヘ

1905年12月17日 - 2002年4月1日

フィンランドの軍人でありスナイパーとして史上最多の確認戦果542名射殺という記録を持つ。

色々とチートな伝説が残っている人。


本当はもう少し前から登場させておきたかったのですが上手く伏線を張ったりできなかったのでこういう登場になりました……


――

【後日談】

レーギュラン・レム・アリソン

レーギュラン・エミール


親たちの想い出の地に移り住んだアリスは剣を捨てエミールとの間に3人の子どもを設ける。

右腕が不自由な事を感じさせない程に活発で子どもを育てながら夫を支えた。

また、教会によく足を運び。自身が殺めた人達の為に祈りを捧げたという。

彼女の死後、夫が発見した手記には「幸福な時間をありがとう」と震える字で書かれていた。

――


三女アリスの物語、これにて完結です。

以後はキョウダイの物語にゲスト出演くらいはするかと。


評価やブックマーク、感想など頂けたら嬉しく思います。

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