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04 令嬢は両親と結婚のお話をします

 そしてある日のこと。

 私はとある歓待の席にいました。


「僕の為に、このような席を設けて頂き恐縮です」


 道孝はそう言ってにこやかに笑います。

 その洗練された立ち振る舞いに、穏やかで優しい物言い、何も知らない方は『さすが名家の御曹司』と思う事でしょう。

 しかし私は知っています。

 この方はその日のうちに複数の女性から平手打ちされるような失礼な行いも平然と出来るのです。


「大した持て成しも出来ませんのに、そのように仰られると、こちらが恐縮してしまいます」


 そう言って歓待役のお父様が苦笑いとも取れる笑みを浮かべました。

 目の前にはお正月でも使わない様な、あでやかに彩られた重箱に盛られた数々の料理がならんでいます。

 そんな器、我が家の何処にしまってあったのでしょう?

 お持て成し料理としては定番である、鯛料理やら海老料理などなどなどが美味しそうな匂いをさせていますね。

 っていうかお父様、私でも食べた事が無いような料理が沢山あるんですけど?

 ウチの財力でここまでの料理を提供したお父様の苦労は推して知るべきもありません。


 でも……。

 確かに並べられてる品々は確かに私から見れば豪華なお料理に見えます。

 しかし、それはあくまで『我が家』に取ってはであり、この目の前の御曹司に取ってはどうなのでしょう?

 って考えるまでも有りませんね。

 きっとこんなの食べなれているに決まっています。


「いえ、そんな事はありませんよ。とても美味しくて驚いています」


 しかし、そんな気配を微塵にも感じさせない道孝の振る舞いはさすがですね。

 そう言いながらも、人に好意を抱かせるような笑みを浮かべ、美味しそうに料理を食べています。


 なぜこのような席を設けているかと言うとですね。

 早速道孝から両親に挨拶がしたいと連絡があったのは翌日の事でした。

 そして私がその事を両親に伝えた結果、ちょっとした騒ぎになったのはまた別のお話。

 かくて、なんやかんやがあった結果、道孝の来訪日に合わせて、このような席が設けられたのでした。


 そして我が家のささやかなお持て成しが一段落した所で、いよいよ本題に入ります。


「もうすでに聞き及んでいるかも知れませんが、僕は智子さんを妻に迎えたいと思っています。ぜひご両親にもお許し頂きたい」


 そう言って道孝は頭を下げました。


「頭をお上げください、道孝さん。本家の御曹司が私達のような一族の末席に軽々しく頭をおさげになる必要はありません」


 その姿を見たお父様は、慌てて道孝に頭をあげるように即します。


「……ですが、本当にこの娘で宜しいのですか?こう言っては何ですが智子には次期公爵妃に相応しい十分な礼儀作法が教育出来たと思ってはおりませんし、その、ご当主様は本当に反対されていないのですか?」


「はい。それは既に智子さんにお話した通り、結婚相手の選択は僕に一任されておりますから。父から何かを言われる可能性はありませんよ」


「そう……なのですか」


「それに結納品についてもこちら側で全て用意いたしますので心配する必要はありません。こう言っては何ですが、そちらで用意されるのは少々厳しいとお見受けしますから」


「そう……ですか。ご配慮感謝いたします」


 そう言って今度はお父様が頭を下げます。

 本当はお父様も口惜しいはずです。

 娘の結婚式に何も出来ないんですものね。

 でも本家の意向に逆らえるはずも有りませんものね。


「智子、お前も本当にそれでいいんだね?」


「はい、お父様、お母様、私は道孝さんと結婚する事に異論はありません」


 本家の意向に逆らえるはずも無いのは分かってはいるのですが、やっぱり形式と言うのは大事な物です。

 道孝がお父様に結婚の許しを得て、双方同意の元に結婚する。

 そう言う手順が必要なのです。


「そうか、本家の御曹司のような立派な方と結婚出来るなんて、智子は本当に幸運に恵まれたな」


「そうですよ、でもね、これだけは忘れないで。私達は智子がどんな方と結婚しようが、貴女が元気で幸せなら、私達もそれで幸せなんですよ」


「お父様、お母様……」


「だからね、必ず幸せになるんですよ」


 お母様のその言葉に、お父様も「うんうん」と頷きます。


 あれ、可笑しいですね、私の目からなぜか涙がこぼれてきました。


「道孝さん、色々と至らない点もあると思いますが、この娘を……智子を宜しくお願いいたします」


 そう言って、お父様は再び頭を下げました。


「はい、私も智子さんが幸せになるように努力いたします。……それで、急なお話だとは思うのですが一週間後には智子さんは我が家にきて貰おうと考えています」


「えっ!?」


「本当は今日にでも、と言いたいのですがさすがにそれは無理でしょうし、それで構いませんか?」


「そ、それはまた急なお話ですね……」


「先程言った通り、結納品などは必要ありませんので、智子さんが身一つで来てくれれば問題ありません」


「……分かりました」


「では智子さん、また一週間後に」


 そう言って道孝は私に顔を向けます。

 その時私は見てしまったのです。

 ニヤリと笑ったその顔は、何やら意味ありげで……笑顔には似つかわしくないとてもとても恐ろしく扇情的な顔に見えたのでした。

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