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02 令嬢は次期公爵様の手を取ります

 今なんっておっしゃいましたか?


『僕と婚約者になってよ』


 みたいな言葉がきこえたよーな?

 私があっけに取られて押し黙っていると、さらに言葉が投げかけられます。


「あ、若しかして君、きまった相手がいるの?」


 居たらこんな所に来てるわけないでしょ!

 と叫びたい気持ちを必死で抑えます。


「い、いませんけど……」


「だよね、居たらここにいるわけないし。相手を探していたんでしょ?なら丁度良いじゃん」


「こ、この場では即答できません」


 相手は仮にも一族の御曹司です。

 ぶっちゃけると、藤原一族においては、当主様の意向が絶対なのです。

 この方は現当主様では無いとはいえ、次期当主がほぼ決まっているといわれてる方、無下に断るわけにもいきません。

 私は一族間の力関係については詳しくありませんが、我が藤原家では一族間での権力争いが、日常茶飯事だと聞いています。

 父はそんな権力争いから身を引いて……といえば聴こえが良いのですが、末端の末端なのであまり関係が無い、というのが実情でした。

 あー、やだやだ。


「ふむ、意外に慎重だね」


「はい、両親に相談しませんと……」


 私は、なるべく表情を変えずにそう答えます。

 こういう時は事務的に対応するのが一番なのです。

 ……無礼に思われてないわよね?


「でもまぁ、その辺りの事は気にしなくていいよ。僕の方から君の両親には説明しておく」


 目の前の男性、次期当主様の藤原道孝は笑みを浮かべながら、そう囁きます。

 この男性は、表面上は非常に社交的に見えますし、顔も良い方だと思うのですが、絶対騙されてはいけません。

 なにせ、このような場で平然と『言霊』を使うような男性なのです。

 良い人がそんな事をするわけないのです。


「で、でも――」


「それにね、こう見えても僕は一族で権力がある方なんだ。君のご家族にも色々としてあげる事ができるけど?」


 私を上から下までじっとみつめると、道孝は小さく微笑みを浮かべます。


「僕が言うのもなんだけど、ウチの一族って結構保守的じゃない?君の父親が君の母親と結婚したことで、有形無形に関わらず良くない目にあってきたんじゃないかな?」


「それは……」


 たしかにウチは一族では貧しい方だと思います。

 使用人も一人しかいませんし、自宅も平均的な庶民の家の数個分って所でしょうか。

 数個分って言っても庶民の家は精々二部屋しか有りませんからね。

 それでも庶民からみたら羨ましく思われるのかもしれません。

 ですが公爵家一族としてみれば底辺の暮らしなのです。


「……本当に両親に色々していただけるのですか?」


「勿論だとも、花嫁の実家を支援するのに文句なんて言わせないさ。……で、どうする?」


 そう言ってニコニコと、見ようによっては胡散臭い顔で私をみつめながら、私に手を伸ばしました。

 私は迷いました。

 両親に良い暮らしをさせてあげたい、という気持ちはあります。

 で、目の前の道孝は確かにハンサムといって良いでしょう。

 立ち振る舞いも洗練されているように見えます。

 でも……どうしても胡散臭い感じが否めません。

 と言っても、次期当主様ともなるとボンヤリしている人には務まらないだろう、とは想像がつきますが……。


 出来れば両親のような恋愛結婚をしたかったのはありましたが、元々ウチの一族は他家の方から良く思われていませんし、そうそうお互いに惹かれ合うような出会いがある確率が低いのです。

 と、なると一族から適当な相手を見繕ってって事になりますが、そうなると父の立場がネックになります。

 一族に外国の血を入れた父は、距離をおかれているのです。

 つまり私は一族からも相手が見付からず、行き遅れになる可能性も高いのです。


 私はもう一度、目の前の道孝をじっとみつめました。


 うーん、やっぱり顔はいいのよね。

 私の理想とはちょっと違うタイプだけどさ……。

 そして、家柄については文句無しの百点です。

 なにせ次期公爵様ですからね。


『いいじゃない。理想を上書きしてこの男性とゴールインしちゃいなよ』


 という囁きと、


『まってまって、よく考えて、どう見ても胡散臭いよ』


 という囁きが同時に頭の中に響きます。

 私は数秒逡巡したものの、結局は――。


 私は、差し出された手に自らの手を重ねました。

 細くて長く、そしてしなやかな指。

 しかし、手のひらは硬く厚い。


 へー、と私は関心しました。

 それは退魔師としての修練の痕跡です。

 やっぱり、見た目通りのお坊ちゃんってわけじゃないのですか。

 そんな事を思っていると、


「ふーん、君も見かけによらず硬い手をしてるね」


「……私も一族の末席として足手まといにならないよう、修練を積んでいますから」


 と、一応真面目さをアピールしたその時です。

 道孝は両手で私の手を包み込むと、


「うん、これは修練を積んでいる者の手だね」


 そう言って、そのままグイっと私の手を引っ張ったのです。


「あっ……」


 私は突然の事に大きくバランスを崩して、道孝に倒れかかり、ぎゅっと抱きしめられると、


「君となら、僕と一緒に良い夫婦になれるかもしれないね。でもちょっと抱き心地は悪いかな?」


 そんな失礼な事を言われたのでした。

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