出会い 2
のんびりと更新しています。出会い編の2話めです(о´∀`о)
色々と表現するのは難しいですが、戦う女の子というのはいいですネ♪ 書いてて楽しいです♪
~出会い 2~
そこからは、驚愕の連続だった。
あんなに小さな身体のどこに、身の丈ほどもある鋼鉄製の巨大ハンマーを振り回す力があるのか。
浮かんだ疑問と有り得ない現実に頭が混乱しかけていた私の耳に、連続で飛び込んできた音。
それは、押し潰されるようなグチャッとした鈍い音ではなく。
全くの正反対どころか、予想の遥か斜め上を行く、気の抜けるような何とも言えない間の抜けたそれだった。
高速で振り下ろされた巨大ハンマーが、間髪入れずに二人のならず者の脳天を直撃したと同時に響いた音は、これまた高速の『ピコ! ピコーン!!』という有り得ない音だったのだ。
「え……?」
「今の、って……?」
思わず呆然と呟いたのは、私だけでなくシアも同じ。
「ピ……ピコピコハンマー……?」
「だよ、ね……?」
隠れているよう言われていたはずの私たちだったけれど、驚愕のあまり無意識のうちに立ち上がり、驚きで目を見開いたままフラフラとその場から足を踏み出していた。
残った二人の女の子から制止の声はかからなかった。
それどころか、クスクス笑いながら私たちの少し後ろをついてきているようだった。
二人も一緒に出てきたということはもう隠れなくても大丈夫なのだろう。
そう思った瞬間、更に有り得ないことは続いた。
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁッ!!」
「いてぇ……!! いてぇよぉ……!!」
なんと!
巨大ハンマーで打ちつけられた(?)ならず者たちが、時間差で叫び出し、地面の上をゴロゴロとのたうち回り始めたのだ。
「うっさい! シャラップ!」
……と、そこで更に振り下ろされる巨大ハンマー。
やっぱり脳天に直撃し、違和感しかない『ピコーン、ピコーン!』という気の抜けるような音が出る。
「あ……あべべべ……」
「うぅ……あ゛……」
どうやら全身が痺れているらしく、ならず者は立ち上がれないようだ。
喋ることもままならないのか、今はもう苦しげな呻き声しか発せられていない。
『フンッ!』と鼻で笑うように上半身を反らしながら巨大ハンマーを肩に担ぐ『エマ』と呼ばれた子は、まるで生ゴミでも見ているかのような目付きでならず者たちを見下ろしている。
「……口ほどにもない。これならダンジョンに出る魔物の方がよっぽど手応えがあるよ」
それは存外に、ならず者たちのことを『弱い』と言っているも同然で。
どうりで全く動じていないはずだと納得するも、やっぱり有り得ない光景を連続で見ているだけに頭の中は混乱の真っ只中だ。
「お見事でした、エマさん」
「お疲れ、エマ」
「……ん。ありがと、ミラちゃん、レイちゃん」
駆け寄った二人の女の子に声をかけられて、ニッコリ笑顔で振り返った『エマ』という女の子の視線が私とシアを捉えた。
じっと私たちを見つめてくる目が緩く弧を描く。
「お姉さんたち、大丈夫でした?」
明るい調子でそう問いかけられ、反射的に頷いていた。
「あの……」
「ん?」
「どうもありがとう。あんなに危険なならず者を相手に、その……」
「あなたも、危険な目に遭うかもしれなかったのに……」
下手したら、私たちの代わりに捕まっていたかもしれない。
その可能性があったことを読み取った彼女は、一瞬だけ軽く目を見開いた。
けれどそれは本当に一瞬で、再びその目は緩く弧を描いた柔らかいものへ変わる。
「全然平気。さっきも言ったけど、ダンジョンの魔物よりも手応えなかったし。っていうか。こういうバカ多いんだよね、この時期になると」
「えっ?」
「この時期?」
「うん。この『クララット』の町では、天竜の月の半ばにチャリティーバザーを中心とした催しがあるんだ。その時期に合わせて催しの間限定で色々な地域から出店を出す人が集まってくるんだけど、人の出入りが多くなる分、そこに紛れてこういったバカがチラホラ出てくるんだよ」
呆れたように言う女の子の口調から、こういうことに慣れきっていることが伺えた。
「お姉さんたちがこのバカ二人に追いかけられているのにレイちゃんが気づいてね? それで、この町の自警団のおじさんやお兄さんたちに知らせて、私たちだけで先行して追いかけてきたってわけ」
「そうだったの……」
「うん。普段は平和で安全な町なんだけどね。やっぱり催しというお祭りの期間は浮かれてバカやらかす人も増えるし、他所から入ってくる人に紛れて入ってくる犯罪者もたま~にいたりするから、警備には念を入れるようにはしてるんだけど……」
それでも追いつかないくらいに人の出入りが激しいのだと言う。
「でも。お姉さんたちが無事でよかった。慣れ親しんだ町で事件が起きるなんて、やっぱり悲しいもんね」
そう言って、ふにゃりと情けないような表情で笑った彼女に同意するかのように、二人の女の子が両側に寄り添う。
「そうよね。私がエマと出逢うことになる切っ掛けを作ってくれた町だもの。私だって悲しい。ケイだって、きっとそう言うに決まってる」
「ええ。全面的に同意いたします。長く慣れ親しんでいる町ですもの。犯罪で溢れるなんて、決して許されることではありません」
両側からキュッと抱き締められた『エマ』という女の子は、お礼を言うかのようにそれぞれの女の子の手に軽く交互に触れた。
「あなたたち三人はもしかして……」
「幼なじみ……?」
随分と仲の良さそうな様子と、この町に慣れ親しんでいるという言葉から、幼少の頃から付き合いのある関係だと思ったのだけれど。
「ん~……」
「幼なじみ、か……」
「そういう風にも言える……の、かも……?」
「そだね。たぶん、そんな関係なんだと思う、私たち」
キョトンとして、一瞬悩んで、また笑う。
そんな三人の女の子は、よくよく見たらお揃いの服を着ていた。
本当に今更気づいたのだけど、同じデザインの色違いの服を着ているのだ。
黒無地のショートパンツに白いシャツ。
羽織っているジャケット風の丈の長い上着は、貴族男性が夜会で着るスワロウテイルの夜会服に似たようなデザインだ。
被っている帽子は少し大きめサイズのキャスケット。
上着と帽子は同じ柄で、『エマ』と呼ばれた子はダークレッド、『ミラ』と呼ばれた子はモスグリーン、そして『レイ』と呼ばれた子は少しくすみがかった黄色───金糸雀色をそれぞれ基調としたタータンチェック柄の、どことなくシックでオシャレな雰囲気が存分に醸し出されているものだ。
そして足元は編み上げタイプのハーフブーツという格好。
三人とも腰に小さなポーチを巻きつけている。
パッと見た感じ、一瞬男の子と間違えてしまいそうな服装にも見えるけれど、間違いなく三人とも女の子だ。
どうしてわざわざ男の子に見えるような格好をしているのかは分からないけれど。
「ふふっ。本当に仲良しなのね」
「実は私たちもそうなのよ」
三人揃って抱き合ってキャッキャとしている様が微笑ましくて、つい今までの状況も忘れて笑ってしまった。
それは私の隣に立つシアも同じで、まるで妹たちを見ているかのように優しい目で三人の女の子のことを見つめている。
「お姉さんたちも幼なじみなの?」
「ええ、そうよ」
キラキラとした笑顔で訊ねてきた『エマ』という女の子に、笑顔で頷く。
「もう十年以上の付き合いになるのかしら?」
「そうね」
今世で言えばこその十年以上の付き合いだけれど、実際にはもっとだ。
前世を含めたら今世と合わせて何年くらいの付き合いになるのだろう。
確か前世では小学校の三、四年生の頃に出逢って、それからの付き合いとなるからかなり長い。
あの頃のシンシア───前世では逢坂心という名前だった───と出逢えたからこそ『俺様な王子様と意地っ張りなお嬢様』との喧嘩ップルストーリーが生まれて……そして。
不本意ながらも人気となったあの乙女ゲームが、そのストーリー───……というか、登場人物のみだけど───を大元として誕生したのだ。
そのことを思い返し、溜息が零れそうになった私の腕に、そっとシアの手が触れた。
思わず顔を上げ、何でもない風を装って笑うも、きっとシアには私の心情などお見通しだろう。
伊達に長い付き合いではないのだ。
「ねぇ、あなたたち……えっと、エマちゃんとミラちゃんとレイちゃん……で、合っているかしら?」
「はい! エマです!」
「ミラです」
「レイです」
どこかで聞いたような名前なんだけれど、ハッキリとは思い出せず。
でも目の前の三人の女の子たちの名なのだからと、改めてそれを確認するために問いかけると、三人とも笑顔で名乗りを上げてくれた。
そう言えば、助けてもらっておきながらまだ自己紹介もしていない。
先に女の子たちの方から名乗ってくれるなんて、本当に年上として情けなく思う。
「あなたが、エマちゃん」
身の丈ほどもある巨大な鋼鉄製ハンマーを軽々振り回すという、想像もつかない大胆な立ち回りを見せてくれた勇敢な女の子。
覗き込むようにじっと見つめると、柔らかく弧を描いた目と視線が絡んだ。
琥珀を溶かし込んだような蜂蜜色………という不思議な色合いの瞳。
どこかで見たことがあるその不思議な色は、自然と懐かしさを思わせて胸の奥をキュッと締め付ける。
「はい。エマです」
絡んだ視線を外すことなくニッコリと笑ってくれる、勇敢でかわいい女の子。
「それから。あなたがミラちゃん」
私の手を引いて、物陰に隠してくれるという瞬時の判断で動いてくれた、状況把握能力に長けた女の子。
最高級のルビーにも負けないほどの色合いと輝きを持った、緋色の瞳。
今にも泣き出してしまうのではないかと思わせるほどに潤んだこの瞳も、やっぱりどこかで見たことがあるものだ。
「はい。ミラと申します」
いつまでも見つめ続けていたい。
そんな風に、どこまでも人を惹きつけて止まない、魅力的な瞳を持つ礼儀正しいかわいい女の子。
「そして、レイちゃん」
飛び出しそうになった私を、冷静に制して留めてくれた、とても落ち着いた女の子。
前世で馴染み深い、とても懐かしい安らぎの黒を纏った力強い瞳。
光の加減で時折現れる紫は、まるでブラックダイヤモンドからアメジストへと徐々にその姿を変えていくようで、神秘の一言に尽きる。
「はい。レイと言います」
ただただ懐かしい。
名残惜しいほどに離れがたい、側にあるのが当たり前だった色を持つ、クールでかわいい女の子。
「自己紹介が遅くなってしまいました。私の名はマチ……」
「オラァ!! いつまでチンタラしてやがる!!!」
「たかが女二人連れ去るのにどれだけ時間かけてんだ、クズどもが!!」
「……ッ!?」
「!!」
助けてくれた三人の女の子たちに改めて自己紹介をしようとしたその瞬間。
突如それを遮ってこの場に乱入してきたのは、先程のならず者たちの仲間───それも、親玉と思われる男と他数人。
「あ……あぁ…………」
「あぁ……マチルダ……」
割り込んだ怒声を耳にしたその瞬間、再び恐怖に支配された私とシアは、ただただ震えながら抱き合い、崩れるようにその場にへたり込んでしまった。
早い話が、恐怖のあまりに腰が抜けてしまったのだ。
追われていた時は二人だけだったならず者に仲間がいて、その数は今確認できるだけで軽く五人はいる。
今度こそ、逃げられない。
叫ぶことも、動くこともできず。
私とシアは抱き合ったままギュッと目を瞑り『どうか神様……』と、祈ることしかできなかった。
一緒にいた三人の女の子たちの様子は……残念ながら分からない。
それを覗うだけの余裕は、この時の私たちにはなかったのだ……─────
ピンチを脱したと思ったらまたまたピンチ、ってか(^^;;