戦があるらしい
天文8年閏6月14日
9か月近く放置してしまった。・・・なんか毎回この書き出しだと馬鹿みたいだな。かと言って日記ってどうやって書き出せばいいんだろう。いや、どうせ誰にも読まれないんだからどうでもいいか。でも読まれないからこそちゃんと書いてみたいよな。
今月は閏6月。こういうのも昔の時代に生まれ変わったんだなって気がする。閏月なんて前世ではちらっと聞いたぐらいだ。しかもそれがある年は12月までじゃなくて13月まであるんだと勘違いしていた。馬鹿でー。何でそんな勘違いしてしまったかな。
それはそうと、なんだかそろそろ戦があるらしい。らしいというのはあってもまだ先の話だからだ。そんな話を聞くたびに戦国時代に転生したんだなあって気分になる。相手は那須修理大夫高資。父親の壱岐守政資と敵対していて、今回は父親の方の手伝い戦だ。いつだったか親子喧嘩しているところがあるって書いたな。左衛門大夫が言うには宇都宮・佐竹も援軍を出すらしい。那須の親子喧嘩は正直どうでもいいけど、近所の佐竹と仲良くしているのはいいことだ。ご近所で仲良くないと面倒事ばかりになるもんな。特にそれが次の世代に引き継がれるのは最悪だ。俺が家督を継ぐまでは仲良くしておいてほしいな。最終的には倒す予定だけど。
戦が近いとしても子供の俺の生活はあまり変わらない。異母兄はどうなのかは知らないけど。この間初めて会った。顔は俺とは似ているのかな。今度左衛門大夫に聞いてみよう。今日の雰囲気では俺を嫡子として認めてくれているような感じだった。
話をしてみるとなんだか気の弱そうな人だった。それとマザコン気味だったな。あれ、だめだ。なんか話しているとイライラする。これからはちょくちょく会おうって言ったら母がいいと言ったらとかぬかしやがったんだぞ。マジイライラしたわー。お前は何歳だよ。
もちろん母親にも言い分はあるはず。庶長子なんて家督争いの火種になりかねない。変なことを言って家督を狙っているなんて思われたら命にかかわる。それで母親があれこれ口出ししていたんだろう。ただ単に子離れ、親離れできていないだけかもしれないけど。
これまで会わなかったのは正解だっただろう。左衛門大夫は家督を継いだら一門衆として補佐してくれるだろうって言っていたけど、あれはどうも合わないわ。けど仲悪いと他の大名が変なことしてくるかもしれないし。親子と兄弟の違いはあるけど、那須のようにはなりたくないわ。
補佐と言えば昨日会った少年の方が期待できるな。昨日は近くの寺社にあいさつ回りのようなことをした。小田家は関東八屋形と呼ばれ、正式に屋形号を称することが許されている数少ない大名のひとつだ。そしてかなり長い間この地を治めている。そのため領地の寺社とはかなり関係が深い。
戦国時代の寺社は宗派にもよるだろうが、多少なりとも僧兵を持っている。また影響力も現代より圧倒的に大きい。そのためいろいろ顔合わせをして少しでも仲良くしておかないといけないんだ。政治家が選挙のために地元の有力者と会うようなものかな。
そこで俺と同じくらいの子供に会った。誰か忘れたけどうちの家臣の息子らしいんだが、これがまたなかなか頭がいいんだよ。名前は天羽源鉄。さすがに前世の記憶持ちと比べると劣るだろうけど、同世代の子供の中では確実に頭一つ以上飛び出ているだろう。しかも性格もよくてさ、イケメンなのよ。誰だよ、天は二物を与えずなんて言ったやつは。さすがにそれ以上は天も与えなかったのか、四男ということで出家することになったらしい。だけどかなり勿体ないよな。という訳で拾うことにした。
左衛門大夫にはめっちゃ怒られた。犬や猫じゃないんだから簡単に拾うなと。いちおううちの家臣の子供だからいいと思うんだけどな。あとの面倒事は左衛門大夫に押し付けておいた。ぶつぶつ文句を言いつつもさっさと源鉄が俺の小姓をするための根回しをしてくれた。
あいつも優秀だよな。ほんと今のところは家臣に恵まれているよな。これなら常陸統一も夢じゃないかな。いっそ北条とともに関東を二分する大大名を目指してみるかな。夢があっていいねぇ。あ、それだと北条と全面対決になってしまうんじゃないか。それはそれでだめだ。加減が難しいところだな。そもそも周りは北条・佐竹ほか強敵ぞろい。家臣に恵まれていた史実の氏治が何度も居城を追われるわけだよな。