乗馬のお時間です
天文7年5月1日
日記をつけ始めてさっそく1月もさぼってしまった。誰だ、続きはまた明日なんて書いたやつは。三日坊主ですらない。自分の集中力はこんなものだったのかとがっかりしているところである。ただ言い訳させてもらえるのであれば書くことがないのだ。家督を継いでからならば書くことも多いだろうが5歳児の日常なんてだいたい毎日同じだ。これを読んでいる人に8歳の事の記憶があるならば思い出してほしい。だいたいの人は小学校に通って毎日似たようなことをしていただろう。
今日は剣術と手習いをした。今日は孫子を読んだなんて毎日書いても面白くない。たぶん日記というのはその日に起きた印象に残っている事柄を書くものだと思う。だから一月も書かなくてもいいんじゃないかなぁ。うん、きっといいに違いない。だってまた書いているじゃないか。どんなに間が空いたとしても続けることが大事なんだ。うん、そう思うことにしよう。
さて、言い訳はこの辺りにして今日のことを書こう。今日は乗馬の鍛錬をした。前世ではどこかの牧場かどこかで何度か馬に乗ったことがあるがあれは数に入れなくていいだろう。馬の大きさが違うし。
前世で馬は今より小さかったと聞いていたが確かに小さい。ポニーよりは大きいかな。だがこの時代の人も小さいから特に違和感はない。うちの父親も小田氏の中興の祖なんて言われているが小男である。小男がポニーに乗って軍扇を使って兵を動かしているのかと思うとなんだか笑えてくるな。
俺からしてみれば、ポニーでもかなり大きく感じる。だって5歳だもん。馬に乗るのにも一苦労だ。最初は自分で乗ろうとしていたがやっぱり無理だった。結局、馬には爺が乗せてくれた。前世の記憶を持っている身としてはかなり恥ずかしかったな。見た目は子供、中身は大人というのもなかなか大変らしい。かの名探偵の私生活はどうしているのかな。話ができるのであればぜひしてみたいものだ。
それにしても馬を操るというのは大変だな。全然いうことを聞かないし、振り落とされないようにしがみついていないといけないし。これ5歳児にさせるようなことじゃないだろう。落ちたらどうするんだ。児童相談所に訴えてやる。ないけど。前世で競馬の騎手が簡単そうに乗りこなしていたけど、今考えるとやっぱすごいな。マジ尊敬するわ。
そのあとは流石に危ないと思ったのか爺と一緒に乗った。加齢臭がくさかった。早くあんな状態から逃げ出すためにも乗馬を完璧にしないと。それと戦で危ないときに逃げ出すことができるからな。命大事に。当面の目標はこれだな。天下統一なんてむりむり。できれば戦にも出たくないよ。だいたいこの体はあの小田氏治だ。戦のセンスのかけらもないだろう。いや、もしかしたら俺が頑張ればいけるかな。でも勉強嫌いだしなぁ。だいたいこの時代の文字はよくわからん。なんて言うんだっけ、草書体?崩し字?どっちか忘れたけど何を書いているかよく分からない。定型文になると余計分かりにくいんだよな。なまじ前世の記憶があるせいか、なかなか上達しない。逆行転生物の主人公はどうやって覚えたのか教えてほしいな。
そんなことをやっている間に周辺の周りの情勢はきな臭くなってきた。北条と小弓公方との仲が悪くなってきているらしい。小弓公方は今の古河公方の叔父にあたる人で、先代の時の戦のゴタゴタの中で独立?した人だ。そのせいで古河公方とは犬猿の仲。先代の古河公方に協力した父としてもあまり仲良くしていない。
一方、絶賛勢力拡大中の北条は扇谷上杉の領地の切り取りや江戸湾一帯の内紛・敵対に口出ししていく。それを脅威に感じてきたのか、小弓公方は北条最大の敵扇谷上杉を支援。さらにその様子を見た古河公方も北条と同盟を結ぶ。おかげでいつ戦が起きてもおかしくない状況だ。
ちなみに他人事みたいに書いているが小田は特に関わるつもりはないらしい。というか別のところで戦を起こそうとしている。乱世とはまたよく言ったものだな。あちこちで戦が起きている。この言葉を考えた人に褒美をあげたいね。
戦の原因は那須の親子喧嘩。小田は宇都宮・佐竹と共に父親の方に味方している。理由はたぶん結城が息子の方に味方したから。好き嫌いで戦を起こしちゃうなんて乱世だなぁ。いや、たぶんちゃんとした理由はあると思うけど。いつどこでも近所同士の仲は悪いものだ。さすがに人の家の争いに積極的に加わりたいとは思っていないみたいだから念のためって感じで、向こうが攻めてこない限りは今年中の戦はないかな。
俺としては戦をするなら北条に援軍を送ればいいのにと思う。せっかく戦が起こるのは明らかで古河公方が北条についているんだから、古河公方の味方をしている小田が援軍を送っても違和感はないのに。そこをきっかけに北条と仲良くできるかもしれない。もったいないなぁ。俺が意見を言ったってまだ8歳だもんな。子供はつらいよ。