わーいおだだ・・・ってそっちかよ
はじめまして。
天文7年4月1日
小田小太郎。今日から日記を書くことにする。
うーん、日記の書き出しってこれでいいのかな?前世で日記なんて、小学校の時の絵日記ぐらいだし。どう書けばいいのかわからないな。ま、いいことにしよう。どうせ誰も読まないだろうし。
今日から書き始めるがその前にこれまでのことを振り返っておこう。さっきも触れたように俺は前世の記憶を持っている。死ぬ直前のことは覚えていないがそっちの方がいいだろう。交通事故とかだったら死ぬ直前の記憶なんてただのトラウマだ。きっとトラックが転生させてくれたに違いない。そして気が付いたら赤ん坊になった。
あの時は焦ったな。何せ自分よりはるかに大きな人が何人もいるんだ。初めは巨人ばっかりの異世界にでも転生したかと思ったよ。でも数日が経って周りの様子を見ると異世界ではなく戦国時代に逆行転生したことが分かった。それが分かった時にはかなり興奮したね。俺は日本史の中でも戦国時代が好きだったんだ。ま、好きと言っても知識はそれほどなかったけどな。
そうなるとここがどこなのかが俄然気になってきて今まで以上に周りの会話を集中して聞いているとどうやらここが『おだけ』だということが分かった。特に今世の親父は「おだけの男として恥ずかしくない男になるのだぞ」なんて話しかけられたときは心の中で狂喜乱舞していたよ。
だけどさ、現実はそう上手くいかないようでさ。周りの話は結城だとか佐竹だとか北条だとかが多かったからなんだかおかしいなと思っていたらここは尾張国じゃなくて常陸国らしい。つまり織田じゃなくて小田だったんだよ。しかもその時聞こえた年は享禄4年。確か武田信玄が当主になったのが天文何年かで、享禄は天文より前だったはずだから俺は結城・佐竹・上杉・北条にサンドバッグにされながらも不死鳥の如く蘇り、最後は秀吉に領地を全没収される戦国最弱とも名高い小田氏治に転生した可能性が高い。
正直なところ俺は小田氏治の事はそれほど詳しくない。だってさ、関東の大名といえば北条か佐竹でしょ。小田とかその引き立て役でしかないでしょ。ま、歴史好きとしては戦国時代に転生できただけでもありがたいんだけどな。にわかだけど。
最初の数年、つまり今までは特に何もできなかった。そりゃそうだよな。ただの幼児だよ。その間に親父が死んだりなんだりして当主なったりするならともかく今はただの幼児だ。むしろ幼児の俺の言葉に耳を傾けその指示に従うような家だったら先が心配だわ。あれ?なぜかブーメランな気がする。ま、いいか。
そういうわけで普通に武家のの嫡男らしいことをしていた。文字の手習いとか剣術の鍛錬とかをしていた。ていうか木刀での剣術怖すぎ。もう避けるので精一杯だった。攻勢に出るとか無理無理。竹刀っていつの時代にできるんだっけ?まだだろうなぁ。作り方わからないし慣れるしかないのかな。
一応転生者らしいことをしようとしたんだけど周りがなかなかさせてくれない。特に硝石を作ろうとしたら「小田家の嫡男が馬糞の中になんてとんでもない」と言われてあえなく中止。現代の農法を教えようとしたら「小田家の嫡男がそのようなことを気にしてはいけない」と言われて農民に会う前に爺に捕まった。あ、爺というのは傅役ね。あのジジイ小言ばかりでほんとうざいわ。名前は忘れた。だって小説みたいに諱で呼び合わないんだもん。官位で呼び合うから正直頭に入って来ない。まぁ、顔さえ覚えておけばなんとかなるだろう。
内政チートができないならせめてこれから起こるであろうことをそれとなく伝えようかと思ったが、よくよく考えたらこの時期の関東の歴史とか全く知らん。あれ、河越夜戦はこの頃だっけ。もう少し歴史の授業を聞いておけばよかったな。興味あったの尾張の織田だったし。
ところで今の小田家の周辺の情勢は北に佐竹氏・江戸氏、東に大掾氏・鹿島氏、西に古河公方・結城氏、南に千葉氏・原氏などがいる。
まず北の佐竹氏だが現当主は佐竹中興の祖と言われている佐竹義舜の息子の義篤だ。この人の事はよく知らない。この人の母親は俺の叔母さんらしい。今度手紙を書いてみよう。ちょっと前までは配下の江戸氏が自力で常陸国南部に力を伸ばそうとしていたらしい。確か今の当主の息子か孫が鬼義重こと佐竹義重が生まれるはずだ。正直こっちに来るんじゃねぇと思うが回避は難しいだろうから生まれて家を継ぐまでに何とか守りを固めたいな。
結城氏は小田家の宿敵と言ってもいい。永正の乱の時に敵味方に分かれてから時々戦を仕掛けているがあまり勝てていない。俺の代まで縺れ込むだろう。いやだなぁ。
鹿島氏は塚原卜伝の家の本家だな。それ以外は知らん。子供の情報収集能力には限度があるのだ。大掾氏はもっとわからん。なんか国人連合のトップって感じなのかな。配下の国人は南方三十三館とか呼ばれている。叩くならここからかな。
古河公方は名門だな。関東公方の嫡流で親父が先代の擁立に力を貸していたので仲はいい方だと思う。どうやら北条の娘が嫁いでるらしいから古河公方を通じて北条と仲良くなっておきたいな。関東で生き残ろうとする以上北条との友好関係はあった方が絶対いいはずだ。上杉と敵対することになるかもしれないけど何とかするしかないな。あれ、河越夜戦って古河公方と北条との戦いじゃなかったっけ。戦国時代って意味わかないな。
千葉は衰えつつある名門だ。家を割ったり家臣を粛清したり小弓公方に振り回されたりと大変らしい。たぶん仲良くしていればこっちに攻めようとは思わないだろうな。そんな暇があるとは思えないし。原氏はちょくちょく戦をしている。この間は負けたらしい。美濃の土岐氏の分家という名門でもあるそうだ。周りの敵の中では潰しやすそうな方かな。ていうか親父、喧嘩売りすぎだろ。
さて、近隣の情勢はこんなものか。初日だしこのあたりで終わっておこう。続きはまた明日。