第2章 サークル(1)
時間なんて思う以上に早く経っていて、あれから10年が経った。互いが出した答えが1つの「運命」であると僕は今も思っている。当時あれ程悩んだことも、今になると1つの思い出。数あるアルバムを彩る写真の1つ。多分当時はそんな風には思わなかっただろう。
今日、僕は1つ夢を叶えようとしている。ほんの小さく些細なもの。あの時の僕なら笑ってバカにしたかもしれない。しかし、世の中はそんなに簡単じゃないと思い知らされ、それでも自分なりにやり続けた結果だと思うと、やはり嬉しい。そして誇りである。全部が全部思い通りなんかじゃないが、少なくとも「現在」は「Happy」だと思う。
もし違うタイミングで出逢っていたら・・・もっと時間があったら・・・あの時も変わってただろうか?心の重なりも違っただろうか?今になって思う。
浜辺に行ってから2週間・・・僕は愛さんにもらっていたバレンタインのお返しを探していた。彼女からのものはもちろん嬉しかったし、お返しも準備していた。ただ、今年は愛さんからのプレゼントもあった。別に手紙が入っているとかではなかった。たった2切れのケーキと飲みに行ったバーでのお酒・・・でもとても嬉しかった。
僕は海が好きな愛さんのために「ハワイの本」をあげた。そこに沢山のメッセージを書き込んだ。
ホワイトデー2日前、僕は愛さんと愛さんのマンションの下で待ち合わせして、プレゼントを渡した。当日はお互いに大切な人との時間があったのはわかっていたからである。仕事帰りながら僕は疲れなど忘れていた。包みを開けて、本を取りだし、しばらく時間がたって愛さんはとても嬉しそうな表情を浮かべた。そして
「ありがとう!さすが亮や。めっちゃ感動やし。」
僕も最高の表情で応えた。
「でしょ!!よかった〜。手を入れすぎて心配だった」
「そんなことないよ!むしろ発想が凄いよ!めっちゃ嬉しい!早速飾らなきゃ。来て!」
そういうと愛さんは僕の手をとってエレベーターに乗った。そして部屋に招き入れた。考えてみれば愛さんの部屋に来るなんて初めてだった。部屋には愛犬とそのゲージ。少し荒れた感じがまた僕は親近感があって嬉しかった。
「汚くてごめんねぇ。どこに飾ろうか?」
「えっ?そのために?」
「うん。あっ、この辺りいいかも・・・」
そう言ってベッドの近くの棚に、僕からのメッセージが見えるように開いて置いた。
「彼氏大丈夫?」
「ええやろ。大丈夫!むしろきっと忘れてる」
「あはは〜マジ?そういえばケーキめちゃ美味しかったよ!」
「ほんまに?めちゃ嬉しい!彼氏にはあげてないんやけどね。よかったわ〜。手作りバレンタインなんて数年振りだったから、ちょっと渡すとき緊張しちゃったし」
「ははっ。そっか。愛さんも女の子だしね」
「っぽくないけどね」
「そんなことないんじゃん?ケーキすっげぇと思ったし」
「ありがとう。なんか亮は元気くれるなぁ」
「そうかな?それなら幸いだ」
「亮は夢も自分もしっかり持っててすごいと思う」
「愛さんもじゃん?」
「う〜ん・・・何の為に生きたいのかが明確になったって感じかな。前の仕事してた時は気付かなかったけど」
「素敵なことだと思うよ」
「ありがとう。亮は将来が楽しみだよ。見ていたいって思うし、きっと何かするんだと思う」
「そうかな?できるかわからないけど、やっぱ自分の夢は実現させたいかな」
「そういうとこイイと思うよ」
「ありがとう」
(愛さんの生きる意味・・・何だろうか?彼氏?夢?わからない。でも、愛さんはやりたいことが多い。きっと愛さんのことだから人を『大切』にできうようなことなんだろう)
「前も話したけど私は昔『彼氏』って存在を死って形で失ってるじゃん?その時は立ち直れない気がしてたけど、こうして生きていて、今も楽しい。優しいタイプじゃないけど、少しは人の助けになりたいかな。」
「そっか」
「うん。いつか結婚して、子供が出来たとき、優しくて芯の強い子にしてあげたい。」
「それが生きる意味?」
「今のとこはね。彼氏かもしれないし、別の誰かかもしれない。でも、亮や仲間とは一生つるんでいきたい」
「嬉しいよ。きっとそういれると思うし、絶対そういよう!」
「あっ、うち来週から四国行って来るよ」
「そうなんだ。大学時代の仲間?」
「うん。ついでに死んだ彼の墓参りもしてくる」
そう話した愛さんの表情は明るかった。きっと互いに違う世界も持っていて、それが支えにもなっている。僕が交わっているのはほんの一部かもしれない。それでも、僕らは一生の限られた時間の中で交わった。きっと一生つるんでいけると感じた。
「気を付けてね!楽しんできて」
「ありがとう!」
「あっ、餞別はないけど」
「あはは〜いいし。お土産買ってくるわ!今回は一緒に由希ちゃんも連れていくんだ」
由希ちゃんは同じバイトの後輩。二十歳の女の子だが、しっかり自分を持っている明るく、人見知りをしないタイプの子だ。由希ちゃんは高校卒業後フリーターをしている。高校時代の友達はあまり好きじゃないらしく、今はあまり関わってないそうで、それを知った愛さんが仲間を増やしてあげたいと考えたらしい。
「そっか。じゃ、愛さんも余計に楽しめるね」
「うん!マジ楽しみだよ」
僕はこの旅行に参加できないのが少し寂しかった。というより羨ましかった。もともとあちこちに遊びに行くのが好きで、四国は行きたい土地だっただけに僕も参加したかった。この時久しぶりに「大学時代に戻りたい」と感じた。