(4)
そもそも僕は元々そんなに起用ではない。周りから見れば器用なイメージがあるらしいがそんなことはない。起用に見せているだけだろう。それに起用なら今のような状況にも陥らなかっただろう。
ある時僕らはまた海に出かけた。他愛のない初春の季節。僕らはまた浜辺で話をした。
「やっぱ海はいいっすね!」
「だねぇ。本当に癒されるわ〜」
「あっ、今日は月が綺麗だ」
「ホントだ!!俺下弦の月好きなんだ」
「そうなんだ。って、それ何なん?」
「う〜ん・・・説明しずらいなぁ。とりあえず今見えてるやつみたいなんだよ」
「あはは〜なるほど」
内心やばかった。僕の好きになってしまうシチュエーションを全て抑えられた。まるでわかっているかのような感じ・・・僕の「好き」をことごとくやってくれる。もしかしたらこれが「波長が合う」ってことなのかもしれない。
「そういえば最近彼氏の話しないね。」
僕は何か話を変えたかった。内心どこかで「恋愛」してしまうのが怖かったのだと思う。
「う〜ん・・・正直あんま会ってないし、あんま連絡とれんし、正直結婚とか考えてるのかわからんのよねぇ」
「愛さんは結婚したいの?」
「う〜ん・・・今の人かどうかは別として、うちは早く結婚したい願望あるからねぇ」
「そうなんだ」
「うん」
正直そこで「彼と」と言ってもらえたら楽だったと思う。
「このままいったらやばいわぁ〜どうなるんやろ?」
「さぁ〜俺はわからないよ」
「あはは!そうだよね!でもそしたら結婚できる気がしないなぁ〜」
「あはは〜マジ?じゃ、10年後お互いがフリーだったら俺がもらうわぁ」
精一杯の冗談とマジの間。ちょっと後悔した。
「マジ?10年は長いやろ!5年だな」
「マジ?じゃ〜5年後俺と愛さんがフリーならね」
「いいねぇ!じゃ、その時は頼むわ。でも亮がフリーとは思えないわ〜」
まさかの返事。笑って「ありえんやろ」と言われるような気がした。僕の心の暴走。相変わらず後先考えてない。僕の「情熱」に少し油を注いだ。そしてこれが僕らの最初のあてのない約束。
しばらく浜辺にいた後、僕らは車に戻った。そんな時に限って流れたバックミュージックは流行の歌。好きになってはいけない人への歌だった。ちょっとした沈黙。僕の頭の中は妄想パラダイス。次の日の仕事のことなんかお構いなし。そんな時
「夜景見たくない?」
「えっ?急にどうしたの?」
「いいとこ知ってるんよ!」
「いいけど・・・時間大丈夫?明日予定早いんじゃないの?」
「平気!行こう?」
「いいよ。どこ?」
「確か・・・」
そういってナビを愛さんは打ち出した。ちょっと遠距離ドライブ。愛さんは「好きな人に実は積極的になれない」と後輩から聞いていた。
(これはどっちなのか・・・?)
「今度犬飼うんだけど一緒に見に行ってくれない?」
「いいよ!行こう!良い店知ってるし」
「マジ?亮平気なん?」
「うん。余裕!!」
(やはり恋愛感情とかないのだろうか・・・)
「亮といるの楽で楽しいわ。わがまま言ってごめんね」
「全然!楽しくいこうよ!」
「ありがとう。亮が彼氏なら喧嘩もなくて、楽しいんやろうな。彼女はきっと幸せ者や」
「そうかな?」
「そう思うよ。彼氏に見習ってほしいわ!」
「きっとお互い様かもよ?」
「かなぁ・・・?うちはいいと思うけどなぁ。亮みたいなタイプ好きだし」
思い起こせば愛さんから誘われたことはあまりなかった気がする。少し誘いのニュアンスは出していたような気がするが、決め手は僕の返事だった。果たして今はどちらなのだろうか・・・
車の中僕はふと感じた。働きだして約1年、なんやかんや愛さんには助けられた。もしかしたら僕はもう既にどこかで愛さんへの想いを募らせていたのかもしれない。今は正直苦しいけど、僕は支えられてた。
今更だけど・・・
「ありがとう」
僕は呟いた。
「ん?」
「何でもないよ」
「気になるし〜」
「ホントなんでもないよ。つくづく有り難いって感じただけ。」
「あはは〜よくわからんわぁ」
(ホントありがとう。あてのない約束も今の感情も、全部愛さんがくれたよ。初めてマジでふいに一緒になってもいいかもって感じちゃったんだ