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僕の心はまさに「冷静と情熱の間」だった。ただ単純に愛さんとの時間を望むようになったと思う。逆に愛さんもよく「誘い」の連絡をもらっていた。素直に嬉しかった。しかしながら、僕は僕の感情に反発した。ただそれは決して「否定」ではなかった。
愛さんは僕の3つ年上。僕は愛さんの右腕のような仕事をバイト時にはしていた。だから僕にとっては尊敬できる人であり、育ててくれた人でもある。それなりに愛さんのことは理解しているつもりでいる。もちろん僕の知らないことは多いし、結局「彼氏」ではないのは決定的だった。それでも「うち亮といるときは楽だわ。頼りにしてると思う。基本的に亮みたいな奴好きやし」と言われたことが僕には誇りだった。
社会に出て「新人」と呼ばれ、正直嫌になったりもしていたが、それでも愛さんに言われたことや、相談に乗ってもらったことが支えだった。
そんな中僕が感じてしまったのが自分の「感情」であり、「愛さんとの将来」だった。僕は「愛さんとなら一緒にいてもいいかな」と想ってしまったのである。「不覚」と言えばそうだが、決して嫌でなかった。むしろ、それは微かな願いに似たものでもあった。そして同時に僕は気付た。お互いが望んだとしても、その裏にある多くの傷を大切な人達に負わせてしまうことと、その重さに。そして僕はわかった。僕は「好き」になっていることと「この恋は叶えない恋」ということを・・・。きっと他の多くの人から見ればおかしな話かもしれない。それでも僕はそう感じてしまった。逃げているといわれればそうかもしれないし、否定はできない。ただ、将来よりも「現在」を選んだ。同時にその先にある「最初に描いていた未来」を守りたかった。ただ、愛さんがどう思っているかなんて僕は知る由もなかったし、そんな術を持っていてもきっと使えない。そんな風に感じたのは初めてだった。それも僕の「戸惑い」を生んでいた。「素直」になれたら楽かもしれないし、「叶える」ことに挑めば悪くはない。むしろ僕がそんな相談を受けたら「可能性に促す」方だったと思う。後悔しない方を選べたら良いと言ってくれるなら、僕のしたチョイスがその答えであることにかわりはないだろう。現在を守りたいというのが僕の「今」の後悔の無いチョイスなのだと思う。