(2)
社会人初の夏は僕にとって特別だった。おそらくかけがえのない始まりだった。
その頃僕は「店長」でなく「愛さん」と呼ぶようになっていた。それは特別な意味はなかった。ただ、「店長」でいつまでも呼ぶのも気が進まなかったからだった。特別な意味にならないのには単純に僕には「彼女」がいて愛さんにも「彼氏」がいたからである。それでも僕らは遊んでた。多分、僕にとっては一番楽しかった。それは一番気楽で、波長が合うからだったと思う。
ある時僕は愛さんと二人で夜の海に向かった。互いに彼氏彼女の話をしながらドライブを兼ねて2時間・・・全く飽きなかった。むしろ今まで通り。互いに恋愛の感情なんて生まれない、クールでホットな仲間。ただ僕はその後に気付くことになった。
砂浜に着き、僕らは歩いた。しばらく歩いた所で、僕らは腰を下ろした。何を語るわけでない。ただ黙って月を眺めていた。そして星の綺麗さに気付いた。
そもそも人が恋に落ちる瞬間など他愛のないことだと思う。むしろ突然過ぎるくらい突然。
二人黙っていると、波の音が大きく聞こえた。まるでどこかの国に来たかのような感覚。そんな中愛さんは語りだした。それは愛さんの切ない過去の恋物語だった。ただ、今それを引きずっているわけでなかった。むしろそれが愛さんの力になっているように気がした。その一方でそんな愛さんの心に触れた僕は何か脆い世界を見たような気もした。もしかしたら僕が触れてはいけなかったのかもしれない。その話を終えた愛さんと目が合った瞬間に僕は得体のしれない物が生まれたのを感じた。多分ほとんどの人はそれを「恋」と呼ぶのかも知れないが、僕は認めなかった。なぜならそれを認めてしまえばこの一生続けられる仲間を失ってしまうのがわかったからである。