急所は痛い
閲覧ありがとうございます。
しばらくはシルの視点が続きます。
アッシュ様がアルの名前を言った途端、後ろに控えていた兵士達が押し寄せてきて私とアルはあっという間に引き離されてしまう。
そのまま外へ出されそうになるのをクラウド様が腕を引っ張ってくれる。
「クラウド様、これはどういうことですか?」
「俺にもわからん」
クラウド様は本気でわからないらしく戸惑った顔でアッシュ様を見ている。
「ふ、形勢逆転だ。遂に捕らえたぞ。アル・キーヴァー」
アッシュ様が捕らえたアルを嬉しそうに見下している。
アルは抵抗することなくアッシュ様の様子を窺っているようだった。
「何とか言え!この犯罪者!」
アッシュ様がアルの顔を殴った。
「やめてっ!」
叫ばずにはいられない。
私はかけよりアルを守るように抱きしめた。
「やめてください。アルは何も悪いことなどしていません!」
「シル……」
「喋らないで、口がの中が切れてる」
「小娘どけ。ソイツは犯罪者だ。全てはソイツの陰謀だ」
この人、何を言っているの?
アルが何をしたというの?
それよりもこの感じ、まるでクラリス様が断罪イベントを起こそうとした時と似てる。
「アッシュ、この者達はずっと俺と一緒にいた。片時も離れていない!」
「そんな事はわかっていますよ」
「だったら今の行いはスピティカル国の恥となるぞ!」
「恥?どこの骨かも知らない他国の庶民を勝手に城に招き、『光の使者』様の周りを偵察させる殿下の方が恥ではありませんか?」
「何だと?」
「殿下の行動は『光の使者』様に対しての冒涜です。今ここで悔い改めねばあの方は傷つき、悲しみ、本当に『闇の使者』になってしまう」
無茶苦茶だ。
クラウド様だって色々考えてこうしているのに、何をこの男は偉そうに語っているのか。
「ふざけないで!スピティカル国時期王の側近がこんなに愚かだったなんて知らなかったわ!」
「シル、いい。話しても無駄だ。こいつは……っ」
アルの殴られた所が赤く腫れてきている。
早く手当てをしなければ。
私は縛られたロープを外そうとした。
「触るな!小娘!」
アッシュ様に掴まれ、投げ飛ばされた。
「シルっ……!」
叫んだアルをアッシュ様が蹴りを入れる。
「やめて!」
私は起き上がりながらアッシュ様を止めに入った。
「離せ小娘っ!」
「アッシュ、離すのはお前の方だ。そうでなければ貴様を捕らえるぞ!」
クラウド様がアッシュ様の腕を掴んだ。
クラウド様は本気で怒っている。
けれどアッシュ様の表情は変わらない。
「捕らえる?この私を?殿下自らですか?」
アッシュ様の笑い声が部屋に響く。
それは恐ろしく私を不快にさせた。
「殿下、勘違いされていませんか?今、罪を犯しているのはこの者達と殿下です!」
「何だと?」
「殿下は『光の使者』様を疑っている。それがどれほど罪深い行為かわかっていない」
「それとこれは話が別だ」
「いいえ、違います。この者が殿下をたぶらかしていたのは明白なる事実。だからこそ、皆立ち上がったのです」
兵士達は虚ろな表情で剣を抜いた。
これは自分の意思じゃない。皆操られているんだ。
「そもそも私は見ました。この男がメイドを突き落としたのを」
「何だと?」
「こいつは高度の魔法が使えます。自分の分身を作るくらいわけもない。何故ならこいつは『闇の魔法』の使い手だから……」
「そんなわけないでしょうが!!」
アッシュ様の言葉に私はキレる。
体制を変え、アッシュ様の急所を思いっきり蹴り飛ばした。
「ぐはっ………」
これには流石に真っ青になり苦しそうにするアッシュ様。
エレナお姉様直伝の急所蹴りを食らってすぐに動ける男はいない。
私は教えて貰った当時を思い出す。
『いい、シルヴィ。心を許した男以外には女を見せちゃダメよ?』
『何で?どういうこと?』
『男は皆狼だからですよ、お嬢様』
『狼?人じゃないの?』
『いや、一応人なんだけど、表現でちょっとね……。マリエッタもどこでそんな言葉を……。まあいいわ。男はね、時に危険な生き物なの。シルヴィは賢いし、それはわかるわね?』
『うん。お父様と、お兄様、それからお家にいる男の人以外は皆危険!前にお父様が言ってたもの』
『……、間違いはないけどそれはそれで再教育が必要な案件ね……』
『?』
『ううん、何でもない。とにかく、そんな危ない奴等に万が一捕まったらこうするのよ!』
『エレナお姉様、かっこいい~!』
そう言ってマリエッタと二人で教えて貰ったっけ……。
まさかこんな形で役立つとは思わなかったわ。
「うわ、ひでえ……」
一人の兵士が我に返ったかのように声を上げた。
見ると何故か皆真っ青。
そして同じようなポーズをとって急所を守っている……。
いや、別に一人一人攻撃したりしないし、ガードしなくても……。
やだ、クラウド様も何でそんなに引いてるの?
アルも固まってるし……。
それは実に不思議な光景だった。
「こ、小娘……、貴様……」
何とも惨めな格好でアッシュ様が声を振り絞りながら私を睨んでくる。
「アッシュ様、正気にお戻りください。今の貴方様はおかしいです!」
「うるさいっ!」
剣を抜いたのを見た私は反射的に後ろへと飛んだ。
「もういい。このままここで処刑してやる」
そう言ってアッシュ様はアルへと視線を向ける。
それはとても人とは思えないほど恐ろしく氷つくような目つきで……――。
読んで頂きありがとうございます。
まだ引っ張るのか!?という突っ込みが自分にあるのですが、まだ引っ張ります。
良ければ次もよろしくお願いいたします。