真実と疑い
閲覧ありがとうございます。
今回は早めの更新です。
視点は変わらずシルです。
「クラリスの身体を調べた者だと?」
クラウド様がそんな事を知ってどうする?と言わんばかりの表情で私を見る。
「まさか、お前クラリスの懐妊を疑っているのか?」
ピリッとする空気の中、私は無言で頷いた。
ここで否定してしまったら意味がない。
「子どもは神秘的な存在です。誰かの都合で現れたり、消えたりはしません」
「それはわかっているが……」
クラウド様がため息混じりで答える。
「クラウド様がカードを頼ってみようと思ってしまうのは仕方がないことです。ですがシルの言うことは正論です」
「そんなことくらい、わかっている!」
アルの容赦ない突っ込みにクラウド様は机を叩いた。
「俺もクラリスの懐妊など信じてはいない!」
勿論カードの事も。
そう言いながらクラウド様は大きなため息をついた。
「だがそこが問題なのだ」
意味がわからない。
信じていないなら動きようはいくらでもあるはずだ。
わざわざシルヴィアに近づく事もこんな回りくどいことも必要ない。
私とアルは首を傾げた。
「そもそもクラリス懐妊を知ったのは、俺がかけた魔法を解き後遺症がないか念のために調べたことだ」
「ああ、クラリス様が『光の使者』だからですね」
「そうだ。あの場ではシルヴィアを守る為だったとは言え、相手は仮にも『光の使者』だ。今回の事で彼女が『闇の使者』になったらそれこそ取り返しがつかない」
聞き覚えのあるワードに私はああ……と目眩がした。
このワードは知っている。
『闇の使者』とはいわゆる闇落ちのこと。
主人公が闇に落ちて全てを闇に変え、幸せではなく不幸を招こうとするのだ。
そう。つまりはゲームオーバーへのフラグ。
主人公が闇落ちする時、好感度が高い攻略キャラクターが助けに来てくれたら一発逆転ハッピーエンドに、誰も助けてくれなければそのままゲームオーバーになってしまうのだ。
勿論私がプレイした時は序盤中の序盤。
攻略云々の前だったため、そんな人がそもそもいなくて呆気なくゲームオーバーになったのだ。
思い出すだけで悲しい。
というか、ゲームオーバーした時の記憶は鮮明に出てくる私って……。
「シル、どうしたの?顔色が悪いけど……」
アルが気がついて声をかけてくれる。
今なら……、もし私が闇に落ちるようなことがあればアルが助けてくれるのかな?
ふとそう思った。
「シル?」
不思議そうに見つめてくるアル。
きっとアルなら「当然助けるに決まっている」と言ってくれる気がした。
「平気だよ。ちょっと嫌なことを思い出しただけ……」
そう言うとアルは「そう?」と安心した素振りを見せながらも手を握ってきた。
それはまるで離さないという意思の表れかの様に……。
顔を上げるとクラウド様が「もういいだろうか?」と言うような冷めた目でこちらを見ていたので、慌てて続けてくださいと伝える。
「解除魔法は問題なく行われた。身体にも異常は見られないはずだった」
「はずだった?」
「検診をしていた医者の一人が突然発狂し、まるで悪魔でも見たかのような形相で飛び出してきたんだ」
「それは、ちょっと怖いですね……」
アルが引き気味に答える。
私も何か想像したくない。
「ちょっと怖いなんてくらいなもんか。『ご懐妊!クラリス様が陛下とのお子をご懐妊!!』と大声で叫びながら城を人間業とは思えぬ早さで駆け巡り、塔の上から飛び降りたんだぞ?」
うわ……。
「飛び降りた医者は当然即死。他に同席していた医師達はその場で謎の自決」
「そんな……」
「俺はあの時のクラリスの姿は忘れない。あれは『魔女』だ。医師達の血を浴びて笑っていた」
一瞬で部屋の空気が凍る。
怖い。
普通に考えて怖い。
「だが他の者の話を聞くとそう見えたのは俺だけで、他の者にはクラリスは恐怖で固まっていたと言うんだ」
だからクラウド様は葛藤した。
自分だけが幻覚を見ていたのではないかと……。
「死んだ医師がクラリスが懐妊したと叫びながら城内を駆け巡った為、隠すどころではなくなった。再度調べようにも、信頼できる医師は皆自決。その事が原因で誰も調べようとはしない」
わかる。
皆結局は自分の命が大切なのだ。
でもそれはおかしいことじゃない。
当然のことだ。
「せめて父上達が身に覚えがなければよかったが……」
寝込んでしまったと言うことが、それを肯定してしまう結果となったわけね。
「メイドから聞いているかもしれないが、何名かが行方が記憶ごとわからなくなっている。情報がない為彼らの捜査も進んではいない」
全て八方塞がりってことね。
「その時にこのカードが目に入った。俺は嘘だろうが何だろうがかけてみようと思った」
だからクラウド様はシルヴィアと婚約しようとしたわけだ。
カードの予言通りになればよし、もし無理だったとしてもジャイル国との絆は強くなる。
スピティカル国にとってはデメリットは少ない。
「だが結局は返事がくるどころか、アルフィードによって拒まれる始末」
そりゃそうだろう。
アルフィード様だってわけあって私と婚約したり、破棄したりしたのだから。
まさかクラウド様が食いついてくるなんて思いもしなかっただろうけど……。
「そんな時に協会に毒が放り込まれ、死者が出た。俺には既にクラリスが『闇の使者』になったとしか思うことができない」
項垂れるクラウド様。
これは『光の使者』を崇めてているからこその問題よね。
それが『闇の使者』なんてものになったらパニックどころじゃない。
しかもそれが自分の国で……。
「あの日、たまたま町でお前達に出会った時、これが最後の希望だと思った。クラリスが望んでいる人材を俺が先に見つけ、しかも『耐性』をもっていたのだから……」
クラリス様の魅了魔法 にかからない可能性がある上に彼女の望んだ人材。
成る程、是が非でも味方につけたかったと……。
「それで庶民である私達に滞在城の秘密を暴露したり、望みを可能な限り叶えると言ったり、マックスと知り合いだったシルを特別に面会させたりと優遇したのですね?私達が逃げないように……」
「そうだ。そして今ここまで話しているのはお前達がここを去ろうとしている気がしたからだ」
うわ、何となくバレてたんだ……。
「お言葉ですがクラウド様」
アルが前に出る。
「何故そこまでして私達に拘るのですか?」
「それは今話ただろう」
「そうではありません。本来であればクラウド様がそのような事を気に病まずとも、側近のアッシュ様が動くべきだと申し上げているのです」
私は思わず「あ……」と声を出す。
そうだ。
本来ならばクラウド様はそんな事をする必要はない。
でもアルも人の事を言えないと思うけど……。
私がジッとアルを見ていると「俺はちゃんと最低限話しているぞ」と小声で返される。
心を読まれたと焦るものの、顔に出ていたのだろうと反省した。
シルヴィアと違ってベールがないのはこう言う時に不便だったりする。
「そう言えば、クラウド様はアッシュ様に秘密ごとが多いですよね?さっきのカードの事といい……」
クラウド様の肩が揺れた。
自覚はあるらしい。
「別に側近だからといって全てを打ち明ける必要はないでしょう。ですが他国の人間である私達と話す時くらいは万が一に備えて仕えさせる。そういうものだと思いますけどね……」
アルの言葉にクラウド様はため息をつき、両手を上げる。
「参ったな……、降参だ」
「別に追い詰めるつもりはなかったのでその言い方は違うと思いますが?」
「いや概ね当たってる。それを否定する方が難しい。結論から言うと俺はアッシュも疑っている」
「疑う?」
「ああ、舞踏会の日姿を見せなかったあの日からアッシュはどこかおかしい」
「具体的にどこが?」
「さっき言ったろう?思い込みが激しいというか、戦闘的でまるで別人だ」
アルが「やはり……」と頷いた。
「相変わらず腹を下すのは変わらない。だが、今までのアッシュなら俺の意見は尊重したし、勝手なこともしなかった」
「勝手なこと?」
「クラリスを一部だが自由に出歩けるようにしたのも、マックスという男を一方的に捕らえ、決めつけた言い方で死罪を望み、お前達に危害を与えようともした。そして……」
「そして?」
クラウド様が口を開きかけた瞬間、扉が開いた。
私達は扉の方を見る。
「ここにいたか、ネズミ野郎」
「アッシュ?!何のつもりだ。今大事な話を――」
「お黙りください!」
アッシュ様がクラウド様の言葉を遮った。
「今しがた、一人のメイドが死にました」
「メイドが?」
「はい。東の塔から飛び降りました」
東の塔?
それってマシャールさんと待ち合わせしている場所じゃない?
嫌な予感がする。
「東の塔だって?あそこは医者が飛び降りた場所だから今は封鎖されているはずだが?」
「ですが事実です」
そう答えるアッシュ様の目は恐ろしかった。
殺気に満ち、とても初めて会った時の印象はない。
「メイドの名前はマシャールと申します」
なっ!
私は声をあげないように口を咄嗟に押さえる。
今の時間は午後11時。
約束の時間には早い。
いやそれよりも何故マシャールさんは封鎖されている塔をわざわざ待ち合わせ場所に選んだのだろう?
「ですがご安心ください。犯人は既に判明しております」
「何だと?」
「犯人はその男。アル・キーヴァーです」
アッシュ様はどや顔でアルを指差した。
読んで頂き、ありがとうございます。
できればここはトントン拍子に更新していきたいと言うのが本音ですが、はてさてうまくいくかどうか……。
閲覧、及びブックマーク、毎回ありがとうございます。
少しでもおもしろくなるように頑張ります。
では、次回も良ければよろしくお願いします。