選ばれた理由
更新遅くなりました。
中々進まず申し訳ありません。
「シル、良く似合ってるよ」
「何だその時代遅れな服は……」
着替えが終わり元の部屋に戻った時の二人の反応は全く正反対だった。
「実はこれには色々ありまして……」
私は苦笑いをしながらクラウド様に返事をし、アルを見た。
「アルの服、とっても良く似合ってる」
アルは「ありがとう」と答え、私の服をジッと見つめる。
そして満足そうに微笑んだ。
「俺とシルの服、ペアルックみたいだな」
「え?」
私はそう言われて自分の服とアルの服を見比べる。
確かにアルの服と私の服は似ていた。
付き人だからだろうか?
いやいや、アルはもっとフランクでいいはず。それなのにアルは私に合わせたかのようにかっちりとした服を着ていた。
「まさかアル、私がこういった類いの服になることを予想してたの?」
「それは秘密。知ったら面白くないだろ?」
そう言って自分の胸元をツンツンと指差した。
明らかにこれは狙ったんだと私は判断し、私の頬が熱くなった。
アルはこうなることを予想してわざと私の胸元に複数の『印』をつけたんだ。
「おい、俺はこんな服にしろと言った覚えは……」
「お待ち下さいクラウド様、これには訳が……」
クラウド様が私に文句を言おうとした時、メイドが慌ててクラウド様に耳打ちをする。
きっとこの『印』、『キスマーク』の事を話しているんだろう。
何だか急に恥ずかしくなって私は聞こえない振りをした。
クラウド様はメイドから聞き終わると気まずそうに咳払いをする。
アルを見るクラウド様の目が明らかに「図ったな?」と言っていた。
アルはそんな事痛くも痒くもないのか余裕の笑みをクラウド様に返していた。
そして私の肩にわざとらしく手を置いた。その動きはまるで『わかったのなら俺の女に手を出すな』と言わんばかりだ。
ふと、アルの腕に違和感を持った。
「アル、その腕……」
「ほう、気がついたか」
何故か返事はアルではなくクラウド様がした。
「シルを待ってる間にちょっとね……」
アルが私の頭を優しく撫でながら答えた。
その含みのある言い方は聞かない方がいいということだろうか?
でもそう言われたら気になるのが人というものである。
「残念ながらお前の恋人は聞きたいようだな?」
クラウド様が意地悪そうな顔でアルに問いかけた。
仕返しのつもりなのかもしれない。
「シル、聞いてもあまりいいものじゃないよ?」
「それでも私は知りたいわ」
私がそう答えるとアルはちょっと感動したような顔をして私を見つめた。
そんなに嬉しいものかしら?
私が首を傾げているとクラウド様が大きな咳払いをした。
「もう問題はないし、俺が特別に教えてやろう。お前が着替えている間に解除魔法を使った」
「解除魔法を?」
クラウド様は解除魔法が使えたのね。それなら陛下とお妃様を魅了魔法から解放する際に私がわざわざ使わなくてもクラウド様にしてもらえばよかったのに……。
そんなことを考えているとアルが私の耳元で「王族なら誰でも解除魔法は使えるよ。でもその威力には個人差があるけどね」と囁いた。
つまりクラウド様は使えるけれどあまり得意ではないということか。
だからアルフィード様は私に使えるか聞いたのね。
確かにアルならば私の魔力がそれなりにあるのをお父様から聞いていた可能性は高い。
お父様、親バカだもの、自慢したのねきっと……。
あれ?でもアルフィード様は?
さっきの話ならアルフィード様も解除魔法が使えるはずなのに敢えて私を指名したってこと?
何で?
アルフィード様も苦手とか?
いやいや、アルフィード様ほどの魔力を持った人が解除魔法がクラウド様以上に苦手とは思えない。
何か理由があるのかもしれない。
「こら、人が話している時にこそこそ話すな!聞く気があるのか?」
「あります、あります。申し訳ございません。続けてください」
不機嫌そうに言うクラウド様に心のこもっていない返事をした。
明らかにそれはバレていたのだろう。クラウド様はため息をつきながら口を開く。
つまりそれでも話したい気持ちが勝ったわけだ。
「お前の恋人の腕にあったあの魔法陣、それはあの神官がかけた呪いだ」
「呪い?神官が?」
「そうだ。あの神官に奴隷の烙印がつけられていた」
「奴隷?!」
奴隷って世間一般で知られるあの奴隷のことであってるわよね?
乙女ゲームにおいてそのワードはいいの?
私の反応に満足そうな顔をするクラウド様。
「安心しろ。あの神官は回復に長けている。祝福と呪詛は相反する。アイツ程度の魔法なら俺の解除魔法でも簡単に解除できる。まああの神官のやつ間違って烙印していたようだから無理に解くこともなかったのだがな」
いや、そう言う事は聞いてない。
それに間違えてるのは当然だ。アルが模してつけたのだから。
それにしても奴隷の烙印とは物騒な話である。
もしアルがかけられていたら、今頃どうなっていたか想像もできない。
そう思うとすぐに指摘しなかったクラウド様が許せなくなってきた。
「なぜ、すぐに仰っていただけなかったのですか?」
「メイド達から少し聞いただろう?今や王宮にいる殆どの人間がクラリスの魅了魔法にかかっていると」
「ええ、まあ……。だからクラウド様は魅了魔法に耐性がある人間を集めていると……」
「その通りだ。耐性があれば引き込まれることもない。だがそれはクラリス達にとって好ましくないようでな」
「好ましくないって……。魅了魔法にかからないなら奴隷にしようってことですか?随分極論じゃありませんか?」
「だが事実だ」
「理解できません」
そこまでして自分の力をつけたいというの?
主人公としてそれはどうなんだろう?
「それか本当なら仮にも『光の使者』と言われているのに、呆れた行動ですね」
アルが険しい顔つきでクラウド様を見た。
クラウド様は言葉に詰まる。
「お前達の意見は最もだな。そしてクラリスはこのままでは『光の使者では無い者』になってしまう」
「どういうことですか?」
「『光の使者』の反対『闇の使者』になるってことだよ」
私の質問にアルが答えた。
クラウド様は「よく知っているな」と感心しつつも、その表情は険しいままだ。
「俺達としては、クラリスが『闇の使者』にならぬよう早急に対策をとった」
「それが魅了魔法の耐性を持つ者を集めるということですか……」
「そうだ。こちら側の人間を増やし、折を見て魅了魔法にかかった者達に解除魔法をかけていく……、予定だった」
「予定だった?つまりまだ実行されてないと?」
「ああ」
「何故です?クラウド様の魔力に問題がそこまで落ちているのですか?」
「失礼だなおい」
アルの言葉にクラウド様は突っ込みを入れた。
「俺の魔力は関係ない。今魅了魔法にかかっている者は解除魔法そのものが効かないんだ」
「解除魔法が効かない?」
そんな、まさか。
私が冷や汗を流していると、アルが少し考えてからクラウド様を見た。
「そこまでクラリス様は闇に落ちている。クラウド様はそう考えているのですね?」
「ああ。お前の言うとおりだ」
「俺達をクラリス様の付き人にしようとしたのは何故です?耐性があるからだけではありませんね?」
「……、そこまでわかっているのか。中々鋭いな」
クラウド様は怪しく笑みを浮かべた。
「そうだ。お前達をクラリスの付き人に決めたのは俺じゃない。クラリス自身だ」
読んでいただきありがとうございます。
また、誤字の指摘ありがとうございました。
とても助かります。
次の更新は早めにできるように頑張ります。
もしよければ次もお付き合いください。