甘いのは主人公だけじゃないらしい
更新遅くなりました。
今回は少し甘さを意識しています。
苦手な方はスルーしてください。
「そろそろ5分たつな……。魔法の効果が切れる」
アルはそう言って体を離した。けれどアルの指は私の髪を絡ましてクルクル遊び始める。
「言ってることとやっていることが違わない?」
「違わない。俺はただシルの髪がサラサラで綺麗だなと思ってるだけだよ」
嘘だ。
私の直感がそう言っている。
「歯の浮くような台詞言わないで。すごく嘘っぽい」
「嘘じゃないよ。本当にそう思ってる」
アルの目は真剣だ。
私は返す言葉が見つからず黙るしかない。
そんな私をアルはクスリと笑い絡めていた髪にキスをした。
私は思わず赤面する。
私は主人公じゃない。
主人公じゃないけど、この甘いものは何?
「あのさ、ずっと思ってたんだけど、アルってスキンシップ多いよね?」
舞踏会の時もそうだ。アルフィード様は私にこれでもかと触れてきた。
もしかして何か意味があるのかもしれない。
アルは動きを止めた。
「迷惑?それとも嫌?」
「そうじゃなくて何か違和感があって……」
アル……もとい、アルフィード様は私を見てくれている。それはわかる。わかるけど、その奥に他の誰かを見ている。そんな気がしてならないのだ。
「それは俺が信じられないってこと?」
アルの顔つきが変わった。
怒ってるわけじゃない。そうじゃないのに何故か身体が強ばった。
それに気がついたアルは悲しそうな顔で私の髪に触れる。
「ごめん。怖がらせた」
悲しそうに笑うその姿に胸が張り裂けそうになる。
どうしてそんな顔をするの?
どうしてこんなに胸が苦しいの?
「シル?」
「ごめんなさい。違うの。アルは怖くない。怖いのは私の心。気持ちだよ」
アルは返事をしないで私の頭を撫でた。その手はとても優しい。
「アルが私に触れる度にアルは違う人を見てるんじゃないかって気がするの。アルの優しさはその人の為にあるんじゃないかってそう感じて……」
段々声が震えて涙が出てきた。
人を好きになるとこんな風になってしまうのだろうか?
こんな風に独占したいと思ってしまうものだろうか?
ダメ。
そう思うけれど止まらない。
だってこのままアルフィード様が主人公に取られるなんて、そんなのは嫌だ。
わかっている。こんな気持ちでいたら私は本当に『悪役令嬢』になってしまう。
それでも彼を渡したくない。
そのくらい私はアルが好きになってる。
「これは随分な勘違いをされているな」
アルがクスクスと笑う。
私は笑い事ではないとアルを睨んだ。
するとアルの顔が私の真横に近づいた。
「そんなに心配しなくても、俺はシル(シルヴィア嬢)一筋だよ」
その言葉に私は顔を赤くした。
アルはやれやれと手をあげる。
「そもそも俺が君を何年想い続けてると思ってるんだい?君を手に入れるために必死に努力して必死に耐えて、やっと手にしたんだぞ?簡単に離すものか」
「で、でも……」
婚約の反古を求めたじゃない。と言いかけたけど、アルに遮られる。
「俺の気持ちよりシルの命の方が大事だ」
確かに命あっての人生だ。
それにその行動の原因は『黒薔薇のカード』からの脅迫。
アルフィード様の意思じゃない。
わかっている。わかっているけれど……。
「傷ついたわ」
私の答えにアルが「ごめん」と謝る。
「あの時、あんなにも苦しくなるなんて思わなかった。貴方に拒絶されて本当は気が狂いそうだった」
「俺もだよ」
アルが私を抱き締め、そして額にキスを落とした。
「でもあの時はそうするしか方法がなかったんだ。ごめん」
私は黙って頷いた。
私にこんな一面があるなんて気がつかなかった。
別に今まで男の人と関わらなかったわけじゃない。マックスのように告白っぽいことを言われたこともある。
けれど、アルフィード様の様に心が揺れることがなかった。だから気がつかなかったし、気にも止めなかった。
シルヴィアがこんなにも独占欲が強い人間だったなんて……。
「このままだとアルに主人公が近づいてきたら私は悪役になりそうだわ」
そう言うとアルの眉が寄る。
アルには主人公なんてわからないのかもしれない。
「俺にとってのヒロインはシル、君だけだ。シルと結ばれる為なら俺は全てを捨ててもかまわない」
そう言って私を更に強く抱き締める。
まるで逃げ出さないようにするためのように。
「覚えておいた方がいい。君よりも俺の方が独占欲が強い。そして君を手に入れる為ならどんなことでも俺はする。例えそれが非道、外道と呼ばれようとも関係ない。俺はそう言う男だ」
「嬉しいけど、私はアルが非道で外道になるのは嫌かも」
私が真顔で答えるとアルは少し安心したように息を吐いた。
「シルがそう望むならそうならないように気を付ける。だから俺の側にいて?」
私は小さく頷いた。
やっぱり落ちるならこの人がいい。
でもアルをクラリスにだけは取られたくない。
もし彼女がアルを、アルフィード様を本気で狙うなら私は立ち向かおう。
それによって私が『悪役令嬢』と呼ばれようが構わない。
私は強く思った。
「また変な事考えてるだろ?」「いたっ!」
アルは私のおでこに軽くデコピンをしてきた。
「シルは心配し過ぎなんだよ」
「だって、私こういう気持ち初めてで……」
「俺だって初めてだよ」
そう言うとアルは何かを思いついたのかニヤリと意地悪そうな顔になった。
「良いこと考えた」
「何?」
「動かないで。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢して」
そう言ってアルの顔が私の首に近づく。
「っ!」
ピリッと痛い感覚がした。
何が起こっているのかわからない。
アルが触れているところが熱い。
何?これはキス?
「嫌だったら叩いてね」
そう言ってアルは今度は私の前ボタンに手をかけ胸元が出るか出ないかくらいに服をはだけさせた。
「ちょっ、ちょっとアル?何を……」
「いいからいいから」
私は何が何だかわからない。
嫌だったら叩いてねと言われても嫌というより恥ずかしい場合はどうすればいいのだろう。
パニックになっているとアルの手が鎖骨付近に触れた。
身体がビクンと跳ねる。
「大丈夫。すぐ終わるから」
すぐ終わるって何?
何が始まるの?
そんなことを思っているとアルが触れた所にまたキスをした。
ピリッと痛みが走る。
さっきから一体何だというのだろう?
何をされているかわからないけれど、恥ずかしさは感じる。
私は手で口を抑え、目をギュッとつぶった。
そんな私を気がついてか気がつかずか、アルは反対側の鎖骨へ移動しキスを落とす。
そうやって何度かアルは同じ事を繰り返した。
ゆっくりと、でも丁寧に動くその動きに、段々頭の中がフワフワとしてくる。
ふとアルが私の胸元に近づいた時だった。
「アル!ちょっと待って!これ以上は無理!」
私は慌ててアルの頭を抑える。
するとアルに手首をガシッと掴まれた。
「ここで最後だから、我慢して」
「我慢って?ひゃぁっ!」
アルの唇が胸元に当たる。
嫌だったら叩いてって言ったのに、嘘つき。
そう思っていると手首を掴む力が弱まった。
「ごめん。怖かった?」
アルがそっと私の頭を撫でる。
何故かアルに頭を撫でられると許したくなってしまう。
これはマズイ。かなり重度な病気かもしれない。
「今は怖いより恥ずかしい…」
「ごめん。でもどうしてもしたかったから……」
そう言いながらアルは丁寧に服のボタンをかけなおしてくれる。
何をしたかはわからない。
わからないけど恥ずかしい。
「シル、あのさ……」
アルが何か言いかけた時だった。
「待たせたな!」
クラウド様が勢いよく入ってきた。
「ん?二人とも何かあったのか?顔が赤いぞ?」
クラウド様に言われ私達は顔を見合わせる。
確かに赤い。
私はともかく何故アルが赤いんだろう?
「まあいいさ。それよりも服を用意したから別室で着替えてこい」
クラウド様がそう言ってパチンと指を鳴らすと後ろから数人のメイドと執事達が現れる。
私達は言葉を発する前に別室へと連れていかれるのだった。
読んで頂き、ありがとうございます。
個人的にはなかった甘いわ、恥ずかしいわでどうしてくれようか……と悶えていたのですが、いかがだったでしょうか?
少し苦手な部分になるので、多少の言葉足らずはご了承ください。
では、次も良ければお付き合いください。