もう止まらない
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それから私とクラウド様は何かを話すことなく黙ってアルが来るのを待った。
それはとても長く、とても気まずい時間だった。
ノックする音が聞こえて、扉が開く。
「アルっ!」
私はアルを見た瞬間に駆け出し、アルに飛び付いた。
アルは少し驚いた顔をしたけれど私の頭を優しく撫でてくれる。
それがとても心地好く今まで感じていた気持ちが一気に吹き飛んでいった。
「失礼致します」
アルの後ろから神官らしき男性が現れ、私達を冷たい眼差しで見た。
そして何も無かったかのようにクラウド様の元へ近づいて行く。
感じの悪い人だと思っていると何やらこちらを見ながらコソコソと話し始める。
残念ながら口元が隠されていて何と言ってるかはわからない。
「アル・キーヴァー、腕を見せろ」
アルはクラウド様に言われて腕を出した。
クラウド様は何かを確認するかのようにアルの腕をまじまじと見てから大きく頷いた。
「ではお前達に新しい服を用意しよう。しばしここで待て」
そう言って神官の男性と共に部屋から出ていってしまった。
アルはそれを黙って見送った。
「行ったかな?」
アルがそう呟くと私とアルの口元に魔法陣が現れて消える。
「これは?」
「名前もない魔法だよ。俺のオリジナル。どんな魔法だと思う?」
いたずらっ子のように言うアルに私は「うーん」と考えた。
今の魔法陣は私とアルの口元に出た。
と言うことは、対になっている可能性が高い。
アルは古代魔法の知識があるし、今の状態を考えると……。
「声を聞こえなくする魔法、みたいな?」
「ご名答。流石シルだね」
アルはパチパチと手を叩いた。
「そんな魔法を作るアルの方が凄いわよ」
「そうかな?でもこの魔法、魔力の割には自分を含めて二人しか使えないし、長時間はもたないんだよな」
「時間制限有りの魔法なの?」
「うん。5分くらいしかもたない」
「じゃあ、それを過ぎたら?」
「丸聞こえ。後、一度かけたら自力では解除できないから時間が来るまで他人には口パク状態」
うーん、聞けば聞くほど使えるか使えないのかよくわからなくなってきた。
「シル」
「ん?何?」
「クラウドに何かされなかった?」
「何かって?」
私が尋ねるとアルは「迫られたとか、脅されたとか……」と心配そうに言う。
「もしかして、それが気になってわざわざこんな魔法をかけたっていうの?」
私が聞くとアルは罰悪そうな顔をした。
余裕がありそうな雰囲気はしてるのに……と、私はクスクス笑いながらアルの腕に自分の腕を絡めた。
「心配しなくても何もなかったよ。ただ話をしただけよ」
そう言って私はクラウド様とのやり取りを簡単にアルに話した。
アルは安心したように「そうか」と頷いた。
「そう言えばさっきの神官がアルの腕を治してくれたの?」
私の質問にアルは「うん、表向きは」とにっこりと笑った。
表向き……ってことは、裏向きは違うと言うことだ。
「神官にも何かの古代魔法を使ったの?」
「流石、察しがいいね」
アルは嬉しそうに答えた。
その顔はいたずらっぽいというレベルを越えて確信犯と化している。
「あいつ俺の腕に何か仕掛けようとしたから、ちょっと記憶を操作してそれっぽくしてみたんだよ。だからこいつはダミーさ」
そう言ってアルは腕を見せてくれた。
目を凝らしてみると、ほのかに魔法陣が見えるような気がする。
「何か、手慣れてるって感じね」
「事実、慣れてるからな」
アルは肩を透かした。
さらりと怖いことを言うけれど、それはアルが今までそういうのを何度も経験してると言うことだ。
「私、今までうまくやってきたと思ってたけど、アルを見てると何て甘かったんだろうって自己嫌悪になりそうだわ」
「シルはそれでいいんだよ。ダーンだって愛娘をそんな危険な場所には送り出さないさ」
そう言いながら私の頬に触れた。
頬をなぞる指が熱い。
アルが私の耳に触れた時だった。ピクッと体が反応した。
「シル、その反応可愛い」
その言葉に更に体の熱が上がる。
どうしたらいいのかわからない。
わからないけど、嫌じゃない。寧ろ心地好い。
ふと、アルの手の動きが止まった。
「アル?」
私が声をかけると突然アルは私を引き寄せて抱き締めた。
「これ以上可愛い顔を見せるな。止まらなくなる」
耳元で囁かれ私は顔から火が出る程に恥ずかしくなった。
でも嫌じゃないと思ってしまう私は既にどうかしてしまっているのかもしれない。
私は手をアルの背中へと回した。
「ああ、何で今いるのが王宮なんだ……。これ以上手が出せないじゃないか……」
アルが心底残念そうに私の肩に頭を埋めた。
そんなアルの言葉の意味をわからないほど私は子どもじゃない。
『……』
いや、いつもならわからないか……。
現実に戻された気がして一瞬で熱かった頬が冷めていくのがわかった。
多分、これはアルだからわかるんだ……。
そう感じた。
そして改めて思う。私はアルを……、アルフィード様が本当に好きなんだと……――。
読んで頂きありがとうございます。
少しは二人の世界がかけたかな?と思いつつも、何だか少し寂しい気が……。
そんなこんなで次もよろしくお願いします。