悪役令嬢だけは勘弁して欲しい
まとめるのに時間がかかり、更新が遅れました
「お嬢様?大丈夫ですか?」
マリエッタに声をかけられ私はハッと我に返る。
何でここで王子様という単語が出てきたのだろう。
どうしても状況が飲み込めなかった私は頭を抱えながらマリエッタに質問した。
「確かに今私は舞踏会には出るとは言ったけど、何故私がそこでアルフィード様のパートナーにならなければならないの?」
「それはお嬢様が素晴らしいからですわ!」
鼻高々に答えるマリエッタに目眩を覚える。
そもそもこの侍女の頭の中では私を過大評価しすぎだったのを忘れていた。
「お父様の手紙にはアルフィード様の事なんて一言も書いてないかったわよ?」
「もし書いていたらお嬢様は承諾なさいますか?」
「するわけないでしょ!王子様とパートナーになったらすぐに帰れないじゃない!」
「……、突っ込まれるところはそこですか?」
マリエッタが呆れた顔をした。
けれど私が言ってることは間違いじゃない。
そこらへんのどうでもいい貴族ならともかく、第二王子相手が相手とならばそれなりの対応は必須だ。
ジャイル国の第二王子アルフィード・キルス・フォルゼリア様。
私は直接お会いしたことはないけれどお父様の話では頭が良く、好青年らしい。
確かに他の王子達とは違ってアルフィード様は浮いた話も聞かないし、真面目だし国の発展の為に全力で動かれているのは私も知っている。
正直言ってめちゃくちゃ気になる人だ。
実際はどんな人なのだろうと思うし、どちらかと言えば会ってみたい。
でもお近づきになりたいわけじゃない。
というか、私はアルフィード様に会える立場じゃない。
「断るなんて勿体無いですわ。アルフィード様はお嬢様と年も近いですしとってもお似合いだと思います!」
「マリエッタは私を買い被り過ぎよ。年が近いっていってもアルフィード様は今おいくつだっけ?」
「確か21だったかと……」
「それなら貴方の方が近くない?」
「私、お嬢様以外の年下に興味ありませんので」
「あーそー……」
私は腕を組んで馬車の天井を見た。
こんな上から目線で思うのもおこがましいけれど、登場のタイミングからアルフィード様は攻略対象のキャラクターだと思うべきだ。
前世の記憶がなければ未だしも、思い出してしまったこの状態ではできるだけそういう人と関わらない方がいいと思う。
何故なら今の私は『シルヴィア』という侯爵令嬢。
そう私は『令嬢』なのだ。
そこへ乙女ゲームとの相性最悪の前世の記憶がもし絡んできたりしたら……。
どう考えても自ら悪役令嬢になりにいくようなものだ。
そう思って私はしばらく沈黙した。
そして気がつく。
そもそも悪役令嬢って、とりあえず攻略キャラクターと婚約しておかないといけないんじゃないのかと。
だって主人公と攻略キャラクターが既にラブラブな状態ならばどんなに邪魔しようが嫌がらせしようが、それは悪役令嬢というより当て馬、もしくはお邪魔虫と呼ぶべきだ。
私が思う悪役令嬢とは主人公が想いを寄せる攻略キャラクターとまずは婚約関係にならなければいけない。
そしてその上で攻略キャラクターが主人公に惚れなくてはいけない。
そうでなければ嫌がらせや罵りなど何の役にも立たないのだ。
ということは私がアルフィード様と婚約者にならなきゃ大丈夫なんじゃない?
そうよ。そうすればアルフィード様は主人公に取られることはないわ。
とってもいいアイディアだわ!
私は喜んだ。
けれどすぐに違和感に気がつく。
取られることはないってどういうことだろう?
それって裏を返せば取られたくないってこと?
それっておかしくない?
おかしいよね?
ねえ?
私は恥ずかしくなって首を横にブンブンと振った。
「お嬢様、先程も言いましたが今回の件は断る事はできませんからね」
念を押すマリエッタに私は白旗をあげた。
一度参加すると約束した以上舞踏会には参加しなければ名が廃る。
「でも私はアルフィード様と一緒には出ないわよ。それは約束してないもの」
「お嬢様!」
マリエッタが怒るけど私は無視をした。
そうよ。危ないことは避けるに限る。
「いいんですか?そんな事をいえばあの者達がどうなるのか……」
マリエッタが脅しにかかってきた。
けれど私も負けるわけにはいかない。
「無駄よ。このくらいの傷なら回復魔法で治せるの。どんなことをしてもミートさん達には手だしさせないわ」
そう言って私は頭の傷に魔法陣を出し回復魔法をかけた。
みるみる傷が癒されていく。
詠唱魔法が一般的ではあるけれど魔法陣が使える程の魔力を持つ私にはそんなものは必要ない。
魔法陣ならばただ念じればいいのだ。
私は包帯を取って手鏡を取り出し確認する。
傷は無くなり完璧に治癒していた。
しかしマリエッタはそれを見ても首を横に振る。
降参とはちょっと違う雰囲気に私は首を傾げた。
「先ほど言ったミート・ブレイク達の処罰の件は怪我をしたお嬢様を見て私が思いつきで言っただけです。本当に彼女達に何かするわけではございません。ですが今回だけはお嬢様がどんなに拒絶しても無駄なのです」
「無駄ってどういうこと?」
私は眉間にシワを寄せてマリエッタを見た。
マリエッタは息を吐いてから口を開いた。
「実は、今回の舞踏会のお誘いはアルフィード様からのお申し出なのです」
「アルフィード様自ら?」
「はい。どうしてもお嬢様をエスコートしたいと……」
「何で?私アルフィード様とお会いしたこともお話したこともないのよ!?」
「理由はわかりません。ですが旦那様はそれを承知で承諾いたしました。既にお返事も出しております」
「なっ!」
私は「なんですって!」と叫ぼうとして天井に頭を打った。
驚きのあまり思わず立ち上がったのだが馬車の中だった事を忘れていたのだ。
回復魔法で既に治していたとは言え、本日三回目の頭の強打に私は自然と頭を擦った。
「つまり、最初からどう足掻こうが無駄だったってこと?」
「はい」
マリエッタが申し訳なさそうに謝る。
「あのお父様の事だから何か企んでるのは確実よね」
私は頭を抱える。
全くお父様はいつもこうなのだ。
振り回される子どもの事など気にしてないに違いない。
「お父様が何を考えているのかは不明だけど、グレイス家の為にもこのまま舞踏会を無視するわけにはいかないわよね」
「仰る通りでございます」
「しかもアルフィード様には既にお返事を出しているとか。もうそれは避けれないじゃない」
「そうですわね!」
マリエッタの満面の笑みを、睨み付ける。
「今まで同じような事があれば問答無用でお断りをしてきたはずなのに、何で今回だけそんなに乗り気なのよ!」
「だって、あの政治以外に顔を出さなくて、絶対にご自分からお誘いをしないアルフィード様ですよ?そのアルフィード様がお嬢様を誘うとかこれはもう、ラブの予感じゃないですか!!」
「ラブの予感って……」
マリエッタの目がキラキラと輝いている。
反対に私の目は輝くどころか曇っていく。
「ですが、しっかりと値踏みもさせていただきますけどね」
マリエッタはにっこりと笑った。
どうしよう。不安でしかない。
誰だ。何とかなるかもしれないとか思っていた輩は!!
私か……。
私は額に手を当てて、何とかアルフィード様と会わずに済む方法はないかと必死で考えた。
こうなったら悪役令嬢になる可能性のフラグやイベントは全力で叩き折らなければいけない。
「大体何でアルフィード様は病弱な令嬢』の私を選んだのよ。体調不良で断られるって思わなかったのかしら……」
「アルフィード様と旦那様は仲がいいと聞いておりますし、もしかしたらお嬢様のことを話しているのかもしれませんね」
「まさか!私をずっと『病弱な令嬢』として扱ってきたのはお父様よ?簡単に話されたら私の立場がないわ」
私の言葉にマリエッタは「ですよね……」と真面目に答えた。
マリエッタも何か引っかかるのかもしれない。
「それならば旦那様が嬉しそうに小躍りすることはありませんものね……」
「小躍り!?何それ……」
「言葉のままです。旦那様はアルフィード様からのお誘いに小躍りしておられました」
私はその光景を想像して青ざめた。
マリエッタもその光景を思い出したのだろう。私と同じような顔をしている。
「いい年した親父が何をしてるんだか……」
「そのせいで腰をいわして今寝込んでいるんですから世話ないですよね」
私はあまりにも下らない状況に項垂れた。
ダメだ。回避する方法が思い付かない……。
「さあお嬢様。そろそろ滞在城へ着きますわ。こちらのドレスにお着替えください!」
そう言ってマリエッタはキラキラと輝くドレスを取り出した。
あからさまに嫌な顔をした私を見てマリエッタが呆れた様に私の服を指した。
「まさかその格好のままで滞在城に行くおつもりですか?」
滞在城とは国と国が友好の印で互いの貴族や王族が訪問の際に宿泊に使う城の事だ。
つまり、そこら辺の町娘がおいそれと入れる場所ではない。
今の私の格好はまさにそれだ。
「このままジャイル国へ帰ると思ってたもの仕方がないでしょ。勿論今でも帰れるならこのまま帰りたいくらいよ」
こんなことなら駅馬車に乗っておけばよかった。
というよりマリエッタが直接迎えに来た時点で何かあると疑うべきだった。
参加するなどと安易に言うべきではなかった。
しかし、後悔してももう遅い。マリエッタが満面の笑みで迫ってくる。逃げたくてもここは馬車の中。後ろに下がれるわけでも、降りれるわけでもない。
「滞在城に着いたらまずアルフィード様にご挨拶しなければなりません。しっかりと美しく仕上げます!」
「え?もう会うの!?」
「当然です!将来の夫になるかもしれない方ですよ!」
「夫!?」
マリエッタのぶっ飛び発言に私は椅子から落ちかける。
一体、何がどうなってそんな話になるんだろう。
マリエッタの勝手な妄想とは言え段々冗談では済まなくなってくる。
このままでは勝手に婚約者にされてしまうかもしれない。
「さあ、髪と目の色も元に戻して、このベールを被ってくださいませ!」
そう言ってマリエッタは黒いベールを取り出した。
黒い。
めちゃくちゃ黒い。
「えっと……、マリエッタ。これは?」
「何って、お顔を隠す為に決まってるじゃないですか!シルヴィアお嬢様として人前に出るのがお久しぶりなのでお忘れですか?」
この時、私の中で何かが終わった気がした。
これって悪役令嬢ポジションのフラグ以外何ものでもない。
読んで頂き、ありがとうございます
次回はもう少し早めに更新したいです
追記
文章の一部変更、加筆等しました。