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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
三章
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本編ストーリー

閲覧ありがとうございます。

今回はシル視点です。

少し長めです。


 王宮に着いた私達は大きな部屋に招かれた。

 けれどもアルは腕の治療の為にすぐに別室に連れていかれてしまった。

 一人残された私はすることもないので椅子に座り馬車での出来事を思い出していた。


『クラリスの付き人になってほしい』

 

 クラウド様にそう言われて私とアルは驚いた。

 クラウド様は私達を見た時に魅了魔法(チャーム)に耐性があると直感で気がついたそうだ。

 そしてそれを利用し、クラリス様を探らせようと考えた。

 クラウド様はクラリス様を信じていないのだ。

 でもそれを一方的に私達に話をしても所詮は他国の人間。

 どんなにクラウド様が王族だと権力を見せてもあまり意味はない。

 そこで口外できない秘密を共有することにより、半ば強制的に私達を囲ったのだ。

 因みに、クラウド様がクラリス様の魅了魔法(チャーム)の話をしている際、私達はその事は知らぬフリをしたのだけれどこれが中々つらかった。

 必要なのだろうけど、舞踏会の出来事を聞かされたのだ。

 私もアルもその場にいたし、当事者だ。

 説明はいらないなど言えない。言えるわけがない。

 そんなもどかしさが余計に私達を疲労させた。

 ガチャリと扉が開く音がして私は顔を上げ慌てて立ち上がった。


「アル?終わったの?」


 声をかけたけど、そこにいたのはクラウド様だった。


「残念だったな恋人じゃなくて」


 そう言いながらクラウド様は部屋にズカズカと入ってきた。

 そしてテーブルに目を落とし、呆れた顔をする。

  

「お茶くらい好きに飲んでいいんだぞ?身分やマナーなど気にするな。お前は俺の客人なのだから」


 そう言われても私は黙って首を横に振った。

 アルじゃなかった。

 別に囚われたわけでもないのにこんなにも苦しい。

 

「そんなに恋人が心配か?大丈夫だ問題ない。我が国の医療の腕は確かだ」


 これはクラウド様なりの慰めだろう。

 私は小さく頷き、クラウド様が椅子に座るのを確認してから再び椅子に腰かけた。

 気まずいのか、クラウド様は乱暴にお茶を入れてイッキ飲みをした。

 そんなクラウド様を複雑な気持ちで見ていた。


「何か気になることでもあるのか?」

「いえ、別に……」


 私は目をそらした。

 

「クラリスの時とは大違いだな」


 クラウド様が笑いながら言う。


「あの時俺はクラリスを見て『光の使者』の生まれ変わりだとすぐにわかった」 

「凄い眼力をお持ちなんですね」


 あまり興味が持てずどうでもいいと思いながら私は答えた。


「そう邪険にするな。それでクラリスを王宮(ここ)に連れてきたら凄く興奮してな。あの笑顔は可愛かった」

「私は可愛げがなくて申し訳ありません」

「だから、そう突っかかるな」


 クラウド様は困ったと頭をかいた。

 

「お前とクラリスはよく似ている」


 そう言われて私はクラウド様を睨んだ。

 似ている?

 私がクラリス様と?

 冗談じゃない。


「違う違う、外見とか性格とかじゃなくて、俺との出会いがだよ」


 出会い?

 馬車に引かれそうになったのをこの人は出会いというの?

 意味がわからない。


「境遇……と言えばいいのかな。実はクラリスを助けた場所もあそこだった」

「え?」

「もうかれこれ三年前か?あの時父上の馬が突然暴れだし、クラリスが跳ねられそうになったのが今日お前が飛び出したあの場所だ」

「そんな……」

「そして俺はお前に運命を感じた。こんなこと何度もあるだろうか?」


 クラウド様が身を乗り出して私の手を取った。

 その瞬間、私はあることに気がついてクラウド様の手を払いのけた。


「すまん、お前には既に恋人がいたな」


 クラウド様は罰悪い顔をして再び距離をとった。

 一方、私は今とんでもない可能性に恐怖していた。  

 いくら前世の私の記憶があやふやでこの乙女ゲームの内容が知らなくても、これはわかる(・・・)

 いや、本来なら町の人が話していた時点で気がつくべきだった。

 私は今主人公(ヒロイン)の道を辿っているのだ。

 でも私は主人公(ヒロイン)じゃない。それはわかっている。

 それなのにこうなったのは何で?

 わからない。

 けれど原因になりそうな事なら一つ思い付く。

 『ロジュア』だ。

 ロジュアは『また、やり直しだ』と言っていた。その『また』から推察するに、ロジュアは何度か同じ事を繰り返しているんだろう。

 だとすれば『やり直し』とは『リセット』のこと。

 つまり、ロジュアはこのストーリーをリセットするつもりだったんだ。

 でもアルが私を助けてしまった。

 その影響が今のこの状態なのかもしれない。

 

「アルに会わせてください」

「ん?」

「今すぐにアルに会わせて!!」


 一刻も早くアルに会いたい。

 会って道筋を変えなければ私はこのままクラウド様に強制的に引っ張られる(・・・・・・)かもしれない。

 

「治療が終わり次第ここに来ることになっているから心配いらない」


 クラウド様はそういうけれど、信じられるわけがなかった。


「どこへいく?」

「アルを、私の恋人を探しにいきます」

「迷うだけだぞ」

「それでも行きます。傍にいたいんです」


 私は扉に手を掛けた。

 すると静電気のようなものが走り、慌てて手を引っ込める。


「そこを自力で突破できれば見逃してやろう」


 クラウド様に言われ私は扉の取っ手を見た。 

 魔法を使えば簡単に出られる。

 けれど無詠唱魔法をクラウド様の前で使うのはマズイ。

 かといって今更詠唱魔法など今更使えない。

 私は諦めて元の場所へと戻った。

 

「賢明な判断だな」


 クラウド様は頷きながら私を見た。

  

「そうそう。お前は人を探しているそうだな」

「どうしてそれを?まさか私のことを調べたんですか?」

「こんな短期間でそんなことが調べられらるわけがなかろう?お前の恋人、アル・キーヴァーから聞いたんだよ」

「アルから?」

「そうだ。お前の友人達が協会の葬儀に行ったきり行方不明がわからないそうだな」

「ええ……」

「俺が代わりに調べておいてやる」


 思っても見なかった言葉に私は驚いてクラウド様を見た。

  

「こちらの都合で一方的に連れてきたからな。多少のことなら願いは聞き入れてやるつもりだ」

「それなら今すぐ私の恋人に会わせてください」

「それは無理だ。治療法を見せるわけにはいかん」


 成る程、私だけここに残した理由はそれだったわけだ。

 私は一番上のルイーズお姉様の言葉を思い出した。

 

『いい、シルヴィア。魔法は万能じゃないの。時にはこのメスで切らないとできない治療もあるって事は覚えておきなさい。そしてやり方も国によって様々なの。国によっては治療法を開示するのを嫌がる場合があるわ。その場合はそれに従いなさい』


 メスを持ちながらうっとりと語るルイーズお姉様の姿まで思い出して私は身震いした。

 

「どうかしたか?」

「いえ、何でもありません。ちょっと怖い事を思い出しただけです」


 私の言葉にクラウド様は首を傾げた。

 

「そうそう、お前の恋人にも既に伝えているのだが、俺が滞在城へ行っていたのは内緒にしといてほしい」

「別に口外するつもりなどありませんけど?興味もありませんし」


 私がそう答えるとクラウド様は笑いだした。

 

「いや、すまん。お前の恋人も同じ事を言っていたからな。つい、おかしくて」


 何それ。

  

「だがそれだと助かる。毒が放り込まれた協会を見に行くと言いながら滞在城に足を運び、更にフラれて帰って来たとなっては格好がつかんからな。だから慌てて各協会を回っていたんだ」


 私は苦笑いをした。

 確かにいくら誤魔化しても目立つクラウド様だ。

 協会に行ったか行ってないかなどすぐにバレてしまうだろう。

 だから大急ぎで回ったと言うわけだったのね。


「ところで、お前の名前まだ聞いていなかったな。何と言う?」

「シル・アジャンです」


 私がそう答えるとクラウド様は「いい名だな」と呟いた。

 けれどその顔は言葉とは裏腹に少し寂しそうだった。

読んで頂きありがとうございます。

次も良ければよろしくお願いします。

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