目には目を、スパイにはスパイを
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今回もアル視点となっております。
「スパイ行為ですか?あの王子が?」
シルが信じられないと言わんばかりに聞き返した。
クラウドに「酷い言われようだな」と呟かれてシルは慌て「申し訳ございません」と答える。
「構わん。他国の王子などどう言われようと気にしないさ」
そう言ってクラウドは笑った。
「二人とも王子がスパイをしたというのが信じられないみたいだな」
俺とシルは互いに目で確認し頷いた。
「信じられなくとも事実は事実だ。それだけは曲げられん」
そう言われても実際にあのバカがそんなことをするとは思えない。
そもそもそんなに度胸がある奴じゃない。
けれどクラウドが今の俺達に嘘をつく理由もない。
「クラウド様はこのことをアルフィード様にお伝えしているのですか?」
「いいや。この件に関してはアイツには知らせないという約束だからな。一言も話していない」
シルが確認するかのように俺の顔を見る。
俺は何も答えなかった。
事実、俺は何も聞いていないのだ。
そしてそれをジャイル国で成し得る人物は三人だ。
一人目はシルヴィア嬢の父上、宰相のダーン。
真っ先に疑ってもいいのだがこんなことをしても何の得にもならないし、スパイだらけの滞在城に愛娘のシルヴィア嬢を放り込むのはおかしい。
だからダーンではない。
次は義母上だ。
義母上もやりそうといえばやりそうだが、一歩間違えれば両国の信用問題に関わる。
義母上がどんなに性格が悪く女狐であろうと危険なリスクを冒してまでスピティカル国の情報を盗もうとする理由が思い付かない。
つまり、義母上もあり得ない。
ということは、あのバカを手懐けていて尚且つ俺に情報を流させない程の人物はただ一人。
父上だ。
「余程アルフィードにバレない自信があったんだろうな。アルフィードが自ら気がつくまで滞在城にくる貴族から得た情報を包み隠さず取って構わないと言ってきた」
「何と愚かな……」
俺は思わず声を発していた。
それを聞いたクラウドは俺に同調するかのように相づちを打つ。
「全くだ。アルフィードが気がつかないわけがない。その証拠にあいつかいるこの期間、大した情報は流れてきていない」
クラウドは面白くないと肩を透かした。
「だとしてもスピティカル国がジャイル国のその要求を飲んだというのがいくらスピティカル国が寛大な国と言われていても明るみに出れば大問題になりますよ?」
俺の言葉にクラウドは「わかっている。だがこちらは応じるしかなかった」と少し悔しそうに答えた。
そんなに重要な情報を盗まれたんだろうか?
俺は疑問に思った。
「そもそもジャイル国の人間である私達に話していいんですか?」
「ああ。俺はお前達が気に入ったからな」
にっこりとクラウドはシルに向かって微笑んだ。
俺は何となく嫌な予感がしてシルの肩を抱き寄せる。
「心配せずとも人の女を取る趣味はない」
クラウドがムッとした顔で俺を見た。
「ですがクラウド様は先程シルヴィア様に会いに行ったと言われたではありませんか。信用できません」
「誤解するな。二人は婚約解消したと情報を得ている。二人は何の関係もない。人の女でなければ別に構わないだろ?」
「その情報元は滞在城のメイド達からですよね?それだけで動くのは軽率なのではありませんか?」
俺の言葉に「まるでアルフィードと話しているようだな」とクラウドはため息をついた。
そして「信じるのには訳がある」と答えた。
「その者はクラリスの魅了魔法にかかっている。だからクラリスの為には嘘はつかない」
それを聞いた俺とシルは顔を見合せた。
どういうことだ?
クラウドはクラリスをよく思っていなかった。
それなのにクラリスの、魅了魔法を信じるというのか?
俺がクラウドを疑いの眼差しで見ているのに気がついたクラウドが、「余計なことを話しすぎたな」と咳払いをしながら姿勢を改めた。
「お前達に頼みがある」
「シルヴィア様との仲を取り持ってほしい。などというお話でしたらお断りいたしますよ?」
俺がそう言うとクラウドは「違う違う」と少し焦った様に否定した。
「今やお前達は秘密を共有した仲間だ。確かにシルヴィアの事も頼もうかとも一瞬考えたが……」
ゴニョゴニョ言うクラウドに俺は苛立ちを覚える。
シルも眉を寄せながらクラウドを見ていた。
シルの目が座っている。
正直かなり怖い。
「そんな目で見るな。本当に違うんだ」
「では何なのですか?」
シルの質問にクラウドは内緒話をするかのように前屈みになる。
そしてこう呟いた。
『二人にはクラリスの付き人をしてほしい』
……と――。
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