滞在城の秘密
閲覧ありがとうございます。
少し遅めの投稿になってしまいました。
すみません。
アルフィード視点となっています。
馬車に揺れながら俺は腕を擦った。
血は止まった。痛みもない。
だが違和感が取れない。
つまりクラウドの言うとおり完治しているわけじゃないということだ。
同じ回復魔法でも使う人間によってその効力は変わる。得意不得意と言えばいいんだろうか。
そして事実クラウドは回復魔法は苦手だった。
だから本音を言うと、今すぐにでも俺自身の手で回復魔法を使いたかった。
だがこいつの野生の勘を侮ってはいけないのは俺はよく知っている。今は我慢するしかない。
「痛むのか?」
クラウドが聞いてきた。
俺は「少し……」とだけ答え笑顔を見せる。
「すまないな。もうしばらく我慢してくれ」
「はい」
クラウドの会話に一回一回笑顔を作って答えるこは意外としんどかった。
別に笑えないわけじゃない。けれど何が好きでクラウド相手に愛想笑いをしなければいけないんだ。
それがひどく苦痛だった。
「大丈夫?」
シルが不安そうに聞いていた。
「ああ。大丈夫だ」
そう言って頭を撫でる。
不思議とシルに対しては笑顔も苦ではない。
これが惚れた弱味というやつだろうか?
「無理して笑っちゃだめよ?」
シルにそう言われて「無理はしてない」と答える。
するとクラウドが「いや、明らかに俺へ向ける笑顔とは全然違うだろ」と突っ込みを入れた。
違って当然だろ?と答えたかったがそれでは俺がアルフィードとバレてしまう。
そこで「王子様相手に緊張しているだけです」と誤魔化した。
「ま、いいだろう。とにかく王宮に戻ったらすぐに専門の者に見せてやるからそれまで辛抱してくれ」
クラウドの言葉に俺は再び笑顔で頷いた。
別にクラウドの事は嫌いじゃない。
クラウドは自分には何が足りず何が必要かをはっきりとわかっているし、それを恥とは思っていない。寧ろそういうクラウドの強さを俺は尊敬している。
だがそれが理由で笑顔を振り撒くのかと聞かれればそれは別の話だ。
「そう言えば急いでいたようですがよろしかったのですか?」
笑顔を作るのがしんどくなってきて俺は話題を出すことにした。
するとクラウドは「ああ、そのことか」と返事をし少し口をモゴモゴさせる。
「お前達は確かジャイル国の出身だったな」
俺とシルは共に頷く。
「実はジャイル国の侯爵令嬢、シルヴィアに会いに行っていた」
俺とシルは硬直した。
いや、それ以上に俺はクラウドの行動が信じられなかった。
こいつはそんな強行をするようなやつじゃなかったはずだ。
そこまでしてシルヴィア嬢に惚れたということなのか?
「だが見事にフラれたな」
クラウドはため息をつきながら答えた。
俺とシルはどういうことだろうと顔を見合わせる。
「門前払いというやつだ。おまけにアルフィードにすら会えなかった」
俺とシルは返事に困った。
まさか目の前にいるのがその二人だと言うわけにもいかない。
門前払いしたのは多分サーガだろう。
「なあ、教えてくれ。普通は婚約を解消すれば気まずくなって離れるよな?」
クラウドにそう聞かれて俺とシルは「そのような事は経験したことがないのでわかりません」と声を揃えて答えた。
「ああ、お前達もうすぐ結婚するだっけ?そりゃ幸せの絶頂期にいる人間にはわからないよな」
クラウドは話にならないと言わんばかりに再びため息をついた。
多分クラウドの言う婚約を解消した人物達は俺とシルヴィア嬢の事だろう。
丁度いい。何故クラウドがその情報を握ったのか聞くチャンスだ。
俺が口を開こうとした時、シルが先に言葉を発した。
「あの失礼ながら、今のお話ではまるでそのお二人が婚約解消でもしたかのようですが……」
「ああ、そうだ」
「クラウド様は一体どこでその話を知ったのですか?」
「どういうことだ?」
シルを見るクラウドの目線が変わった。
シルを怪しんでいる。
しかし、シルは動じることはなかった。
「簡単な事ですわ。私達ジャイル国の人間ですら知らない事をスピティカル国のクラウド様がご存知だったので不思議に思ったのです」
そこ言葉でクラウドの口角が上に上がる。
「そうか?アルフィードに聞いたのかもしれないだろ?」
「ありえません」
即答で答えたシルにクラウドは目を見開いた。
「もし、アルフィード様にお話を聞いていれば、私達に先程の様な質問はしないはずです」
シルの答えにクラウドは「降参だ」と手を上げた。
「お前の恋人は随分頭がきれるようだな」
「はい。そう言うところに惚れました」
俺はにっこりと微笑んだ。
クラウドはそれを嫌味と受け取ったのか、複雑そうな顔になる。
「まあいいだろう。特別に教えてやる」
クラウドが足を組見直して俺達を見た。
「この話はジャイル国の滞在城で働いているメイドから聞いた」
俺とシルに衝撃が走った。
今、クラウドは何と言った?
滞在城のメイドから聞いた……だと?
「あのクラウド様、それってかなりマズイのでは?」
これにはシルも動揺してクラウドに問う。
クラウドは「何がだ?」と首を傾げた。
「ジャイル国の滞在城にいるメイドがスピティカル国に話を流すという行為です」
シルの言葉にクラウドは少し目を細めて「意外に博識だな」と笑みを浮かべながら答える。
シルは慌てて「彼に出会う以前に目指して見ようと勉強したことがあるんです」と答えた。
クラウドは「成る程」と納得して俺達と改めて向き合う。
「確かに滞在城で働くメイドがその国の王宮に情報を流すのはご法度だ。普通はな」
そう言ってクラウドはニヤリと悪者のように笑った。
「ジャイル国の滞在城だけは特殊でな。あそこに仕えるメイドや執事、コックに至るまで本来はスピティカル国の王宮に仕える者達だ。今はアルフィードが来ているから更に入れ換えて王宮に通じる者は極一部になっているが、あそこに仕えているのはジャイル国の者じゃない。全てスピティカル国の者だ。執事長以外はな」
それを聞いた俺はこいつは本当にクラウドなのかと疑った。
だがクラウドからは嫌な気配はしない。こいつは間違いなくクラウドだ。
けれどこの違和感は何だろう。
「いいんですか?そんな事をジャイル国の人間である俺達にバラしてしまって……」
俺は敢えて焦るようにクラウドに聞き返した。
シルも「そうです!スパイ行為だと言いふらしてしまうかもしれませんよ!」と俺に同調した。
クラウドはそれを見て「そうだな」と余裕を見せる。
「だが元はと言えばジャイル国が悪い。噂が流れて困るのはジャイル国だ」
「どういうことですか?」
「アルフィードが留学に来る前の話だ。だから二年……、いや三年前か。あいつの弟がスピティカル国へやって来た」
「なんですって?!」
俺は驚いて思わず聞き返してしまった。
それにシルが驚いて「すみません」とクラウドに謝った。
クラウドは「構わないさ。当然の反応だろう」と答える。
だが俺にはそんな声は届かない。それどころではない。
知らない。俺はあいつがここに来たなんて聞いてないぞ。
「その様子を見るとジャイル国は王族の移動はお忍びが多いとは本当の様だな」
クラウドはそう言った後更に「アルフィードはジャイル国のそう言うところには疎いからな」と答える。
疎いわけじゃない。知らされないだけだ。と思いながら俺は拳を握りしめた。
「クラウド様は私達を使ってジャイル国の事を探ろうとしてらっしゃるのですか?」
シルの言葉にクラウドは「いいや、今のはただの偶然だ。そんなことをしなくともさっきも言った通り何かあれば滞在城のメイド達からある程度は流れてくる」と答えた。
「それでそのアルフィード様の弟君は何をしたのですか?話の流れからそれが原因なのですよね?」
シルの言葉にクラウドは黙って頷いた。
俺は正直ここから先は聞きたくはなかった。
何となく想像できるのだ。あのバカが何をしでかしたのか。
「アイツは、王宮のメイド達数人を辱しめた」
やっぱりか……。
俺は頭を抱えた。
想像通りというか、何というか。あのバカの頭の中はそれしかないのかと本当に呆れた。
「まあ聞けばその事はメイド達自身も合意の上だったみたいだし皆未婚。あの王子の事はアルフィードから以前よりある程度は聞いていたし、想定内といえば想定内だった」
つまり、始めからそれを問題としないものを敢えて選び、あのバカの側につけたということか。
それに関しては賢明だな。
「しかしその言い方をすると言うことは他に問題があったのですね?」
俺は精一杯冷静を装って尋ねた。
何となく、今のクラウドの話し方からそれが何なのか想像がつく。
何故ならばその答えが今の滞在城だということなのだ。
スピティカル国は寛大だ。多少の事なら流してくれる。
だが、流せない何かがあったのだ。
クラウドは「お前の言うとおりだ」と答えた。
「ジャイル国の第三王子はそのメイド達を使って我が国に対してスパイ行為を行った」
読んで頂きありがとうございます。
次回もまたアルフィード視点となりますので、よければお付き合いください。