魂の未練
閲覧ありがとうございます。
今回はシル視点です。
少し短めです。
アルが突然顔を上げた。
「今のは一体……」
アルが何かを呟いた。
どうしたんだろう?
「アル?」
「……、シル?俺は……」
少し混乱気味のアルに私は「どうしたの?」ともう一度声をかけた。
するとアルは首を横に振り、「すまない。ちょっと混乱した」と答える。
「たまにあるんだ。感情が高ぶるっていうか、気持ちが行き過ぎるとね」
笑顔で笑うアルは間違いなくアルだ。
でも少し不安になる。
「大丈夫なの?それ……」
聞かずにはいられなかった。
もしアルがいなくなると思うと心が苦しい。
「問題ない。老師に相談した時に『魂の未練』だと言われてるし」
「魂の未練?」
「俺の魂が俺になる前。つまり前世が何らかの未練を持っていて、それに近づいた時にその魂が表にでる現象らしいよ」
私はそれを聞いて息を飲んだ。
だって私は今『前世の記憶』を持っている。
「老師様の話だと普通は問題ないらしい。所詮は前世の未練だからって」
アルの言うとおりであれば私のこの前世記憶は『未練』ということになる。
確かに前世の私は明るくて、いつも笑ってて、大好きな人がいた。
でも事故で死んでしまった。
未練がないわけがない。
だからもう一度人生を歩みたくて記憶が出てきた?
違う。
夢の中、彼女は『私の記憶はあの人から貴女を守る為にあるの』と言っていた。
前世の私の死亡原因は事故死だ。特定の誰かの名前が出てくるわけがない。
未練と位置付けるなら『もっと生きたい』とか『大好きな人たちと会いたい』とかのはずだ。
それにその未練が強いなら乙女ゲームの世界でなくて元いた世界でいいはず。
つまり私のは『未練』じゃない。ってことになる。
「シル?」
今度はアルが心配そうに私を見ていた。
「変なこと言ってごめん。引いた?」
「まさか。色々あるんだなあって考えちゃっただけよ」
私は慌てて答えた。
アルは安心したように「そうか」と答えた。
そして「実はまだ続きがあるけど、聞く?」と聞いてきた。
私は少し迷いつつも頷く。
「二つ名ってあるだろ?名前と家名の間に」
「私やアルフィード様にもあるアレよね?」
「そう。本来は名前と家名だけだけど、希にそうじゃない子どもが生まれる。そしてその命名は洗礼される時神託でお告げが下されるんだ。身分関係なしにね」
知ってる。それは世界では当たり前だからだ。
我が家でも二つ名を持つのは私だけ。だからお父様もお母様もお兄様達も皆喜んだと聞いている。
そんな私を見てアルは笑う。
「グレイス家は特殊だと思うよ。普通は二つ名は嫌われる。魔力が強かったりと能力がずば抜けているから……。特に家督の後の子どもだったら二つ名を隠している場合が多い」
ずうんと空気が重くなった。
そうか。だからアルフィード様はお妃様に冷遇されていたんだ。
お妃様が誰を支持しているかはわからないけど、アルフィード様が本気で王位を狙えば確実に支持者はアルフィード様に流れる。アルフィード様もそれがわかっているから王には興味ないと宣言しているんだ。
「そうは言っても国によって違う。ここスピティカル国はそう言うのをあまり気にしない。ジャイル国が気にしすぎなんだよ」
アルが力無く笑った。
「そして二つ名が与えられるのは『魂の未練』を少しでも和らげる為。二つ名前を与える事でにより、少しでも未練を無くさせようってことだろうな」
そう言いながら「これ、全部老師に言われたことだけどね」とアルは笑った。
「それに俺は王よりも他国を見て、学ぶ方が好きだ。王座よりも自由に動ける足の方がいい」
「私もその方が好き」
「言うと思った」
アルが笑うのを見て私はこの時間がずっと続けばいいと思った。
読んで頂きありがとうございます。
そしてここで一つお詫びを申し上げます。
今過去の文章を編集させて頂いております。
当初は改行等の作業に留めようと思っていました。
しかし、どうしても文章が納得いかない箇所がいくつかありまして多少の変更や加筆をさせて頂いている状況です。
文章は変更するつもりはないと公言してるにも関わらず、変更することとなり本当に申し訳ありません。
ただ、その場にいなかった人物が突然現れていたりとか、消えていたりということはないように注意しております。
あくまで文章の多少の変更、追加は心情であったり、セリフの遣い回しに留めるようしています。
このようにブレブレな作者ではありますが、これからもどうかよろしくお願いします。