黒薔薇のカード再び
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今回はサーガ視点となっております。
時はシルとアルがパン屋に訪れていた頃に戻る。
スピティカル国内、ジャイル国の滞在城では私ことサーガとマリエッタが何故か服の山に埋もれていた。
「サーガ、何してるの?ほら、次の荷物運ぶの手伝ってよ!」
この私の横で偉そうな口を利くのはグレイス家の末娘の侍女、マリエッタである。
「こんなに服を取り寄せてどうするんだ?どこぞやの貧困団体に寄付でもするつもりか?」
「違うわよ!お嬢様にお送りするの!」
私とマリエッタは幼い時に宰相様であるダーン様に育てられた。
宰相様の子どもを守る為の最高の侍女と、ジャイル国の王子、将来の王をお守りするために。
そしてそのせいか私が唯一砕いた話し方ができるのはこのマリエッタだけだったりする。
「シルヴィア様達は遊びに行ってるんじゃないんだぞ」
「わかってるわよ。でもお嬢様のお側にいられない分ちゃんとした物を着ていただきたいの!」
「だがこの量は多すぎる。二箱まで減らせ」
「ケチ」
「ケチじゃない。私は当然の事を言ったまでだ」
全く、ギリギリまで二人きりの環境に反対していたくせに。女の考えていることは理解できない。
私がイライラしているとアンリがノックをして入ってきた。
「お二人さーん、ヴィーちゃん(いないけど)のお昼をお持ちしましたよー」
「すみませんアンリ様、そこに置いててください」
マリエッタが唯一空いているテーブルを指差した。
アンリは頷き昼食を置く。
そしてシルヴィア様の昼食を食べ始めた。
「いいじゃん。どうせヴィーちゃんいないんだし、処理は誰かがしないといけないだろ?捨てるよりは俺が食べる方がいいって」
アンリの言うことは一理ある。アルフィード様の食事はいつものことだからどうにでもなるが、シルヴィア様の食事は誤魔化しようがない。
「それに俺、メイドの量じゃ足りないんだよね。ほら、成長期だし?」
「25歳なら成長期はとっくに終わっています。ああ、失礼。お腹を成長させるつもりなのですね」
私の言葉にアンリは喉に詰まらせ咳き込んだ。
マリエッタはクスクス笑いながら水をアンリに手渡す。
「ちょっと、おねーさんの旦那さん厳しいんだけど?」
アンリの一言がマリエッタの目を凍らさせた。
「あらアンリ様。いつ、誰があんなドS男の妻になったのですか?」
笑顔が怖いとはこの事だろう。
マリエッタをここまでさせるのはアンリくらいだと私は呆れた。
勿論助けてやるつもりはない。
「サーガ、お前嫌われすぎだろ!」
「は?いつ、誰がどなたに嫌われたと?」
「もー、やだお前ら」
そういいながらアンリはシルヴィア様のサンドイッチを頬張った。
「そうそう、サーガこれ報告書」
忘れてたと言わんばかりにアンリは書類を私に手渡す。
「わかりました。後で拝見しましょう」
私は書類を受け取り小脇に挟む。
「そういえば、さっきからおねーさんは何をしてるの?」
「シルヴィア様の服を選んでいるそうです」
「マジー?俺もするー!」
飛んで行きそうなアンリの襟を私は掴んだ。
アンリが「ぐえっ」と声を出す。
「あれはマリエッタの仕事ですよ。男の貴方が手を出すんなんて野暮なことはしないでください」
私の言葉にアンリは目を丸くした。
そしてニヤリと笑みを浮かべる。
「サーガって本当にあの子のこと好きなんだね」
小声ではあったが、私はアンリにチョップを下した。
「サーガ痛い」
「余計な事を言うからです」
「ひっどー!!」
そんな会話をしているとマリエッタが私を呼んだ。
「貴方の言うとおり、きっちり二箱にしましたよ」
嫌味っぽくいいつもどや顔で言うのはどうなんだろうか。
まあ、そこが可愛いところなんだが……。
「サーガがデレてる」
私は再びアンリにチョップを与えた。
「あら?サーガ、脇に抱えている紙に挟まってるのは何?」
「これは報告書だが?」
「違うわよ。だからその間から見えてる黒いヤツ」
「え?」
私とアンリの顔つきが変わる。
慌てて書類を手に取りパラパラとめくった。
するとヒラリと何かが落ちる。
床に落ちたそれを見て全員が固まった。
「これは、『黒薔薇のカード』ですね」
私が膝をついて呟いた。
「アンリ、これはどういう嫌がらせですか?」
「待って、俺じゃない。俺は知らない」
アンリは首を横に振る。
彼はこういう時に嘘をつく人間じゃないと知ってはいるが、アンリの隙を見てこれを入れれれる人間が今この城にいるとも思えない。
私は手袋をギュッとはめなおし、カードを拾った。
マリエッタが「うっ」と口を押さえる。
「凄い『邪』だねこんなの初めて見た」
アンリも冷や汗を流している。
正直私もこの手袋をしてないければかなりキツイ。
「逆によく気がつかなかったといいたいですね」
「え、そこ!?もし素手で触ってたらヤバかったんだから気がつかなくて正解だったとか言えないわけ!?」
アンリが怒りながら言うが、事実素手で触れたら即死していたかもしれない。
そのくらい今回のカードは禍々しいものだった。
「その手袋は平気なわけ?」
「アルフィード様から頂いた特注の手袋ですから」
そう。この手袋はあの日私が屈辱的にも乗っ取られた時にアルフィード様が下さったものだった。
万が一に備えて……。
「マリエッタは離れた方がいい。これは普通じゃない」
私の言葉にマリエッタは頷き距離を取った。
それを確認してから私はそっと封を開ける。
「『偽りは隠せない。お前の大事な者の命が果てるのをとくと見るがいい』っ!」
私が読み終えるとカードと封筒が黒い炎に包まれ燃えた。一瞬で灰になったので誰も止めることなどできなかった。
「気持ち悪っ!」
アンリが口を押さえながらいい放った。
そしてトイレへダッシュする。恐らくさっきのカードにあてられたのだろう。
私も若干吐き気がするからアンリの行動は当然かもしれない。
しかし、それでも私は違和感を覚える。
偽りとはアルフィード様とシルヴィア様の関係のことだろうか?
それとも……。
「カードがここに届いたと言うことはお嬢様達の事はバレてないですよね?」
マリエッタの心配そうに近づいてきた。私は相づちを打つ。
「そうですね。恐らくこの偽りというのは二人の関係性でしょう」
「だよね。俺もそう思う」
中身を出してきたのだろう。少しすっきりした顔をしながらアンリが戻ってきた。
「マリエッタ。荷物を送るのは中止です」
「え?」
「どうやら我々はそれよりも先にやるべき事があるようです」
「スパイ狩りってことか」
アンリが面倒そうに言っているが目は輝いている。
アンリはこういうのが好きなのだ……。
私はため息混じりに息を吐いた。
「執事長はもういません。つまり、他にも誰か怪しいネズミがいると言うことです」
そう。そしてそのネズミが王宮にアルフィード様とシルヴィア様の事を流した。
誰だ?誰がそんな事をしたんだ?
私は拳を握り締めながら頭をフル回転させた。
一度は油断して醜態をさらしたが、二度目はない。
この私の本気を甘く見たこと後悔させてやる。
「マリエッタ、アンリ。ネズミは太らせて、身動きが取れないようにして捕らえます。とびきりの餌を用意しましょう。あのお二人に決して近づけないようにするために……」
そうだ。これ以上の醜態はさらけ出せない。
アルフィード様は大丈夫だ。
あの方が私を信用してくださるならば私はそれに答えるのみ。
私はそう思いながらマリエッタとアンリに耳打ちした。
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