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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
一章
6/122

美人の笑顔ほど怖いものはない

読んでくれてる方ありがとうございます!

新キャラ出てます


 ミートさん達に見送られた後、私は駅馬車が止まっている場所へと向かった。

 この世界には車も電車もない。移動は馬に直接乗るか駅馬車と決まっている。

 勿論、街中にはタクシーやバスの役割をもつ馬車もいくつかあるけど、私が目指すのは国外へ行く馬車が集まる所だ。

 私は人混みに紛れるように歩いた。

 行き交う人を見れば見るほどここは前世の世界とは違うと思い知らされる。

 カラフルな髪と目の色に異世界というような服。会話もギルドがどうとか、貴族がどうしたとか……。

 見慣れた景色のはずなのにどうしてもキョロキョロしたくなる。


「これではまるで田舎から都会に出てきた娘みたいね」


 私は自分の行動に半ば呆れながら鞄から布を取り出し顔を隠すように頭から被った。

 こんなことをしても目立たない。

 この世界は治安が大丈夫かと心配になるけれど、所詮は乙女ゲームの世界だからこんなものなのかもしれない。

 

「ジャイル国行きの最終駅馬車が出るよー!」


 案内の男が声を上げた。

 慌てて乗り込む人を私はじっと眺めていた。


「お嬢ちゃん乗らないのかい?」

「ええ、結構よ。ただの見送りだから」


 案内のおじさんに声をかけられたが私はそう答えた。

 おじさんは「そうかい」と答え鐘を鳴らす。

 ジャイル行きの馬車が動き出した。

 私はそれを見送って何事もなかったかのように堂々とこの人混みから離れていった。

 ジャイル国へ帰るための馬車にも乗らず人混みからも抜けた私は町外れまでやってきた。

 治安が別に悪い地域でもないけれどここは夕刻になると人が殆ど歩いていない。

 貴族がお忍びで逢い引きしたり、密談の待ち合わせをするのにはもってこいの場所だ。

 そう、だから私もここへ来たのだ。

 ある人物と待ち合わせをしているから……。

 けれど残念なことに待ち合わせをしているのは素敵な王子様でもイケメン執事でもない。

 乙女ゲームの世界と言えど世の中そんなに甘いものではないのだ。

 私は辺りを見回しながら歩き続ける。

 しばらくすると小さな噴水の前に馬車が止まっているのが見えた。

 私は迷うことなくそこへ向かう。

 後数歩で馬車の横にいくというタイミングで狙ったかのように馬車の扉が開いた。

 そして中から銀色の髪に赤い目をした美しい女性が現れる。

 彼女は私を見てにっこりと笑ってから深々とお辞儀をした。


「お待ちしておりました。シルヴィアお嬢様」


『シルヴィアお嬢様』

 

 それは他でもない。私の事。

 そう、私はただの町娘じゃない。

 実は私は身分の高い令嬢だったりする。

 私が悪役令嬢を一瞬危惧した最大の理由はこれだ。

 ただの町娘なら悪役にはなれても、『令嬢』にはなれないのだから。


「マリエッタ、ここで私をお嬢様と呼ぶのはやめてくれないかしら。今の私はただの町娘シル・アジャンよ?」

「あら、お嬢様はいつどのようなお姿であっても違うお名前であってもこのマリエッタ・グレードにとってはお嬢様であり私の主に変わりはありませんわ」

「貴女を雇ってるのは私じゃなくてお父様だと思うけど?」

「いいえ、私は例え旦那様に解雇されようともタダ働きになろうともお嬢様の専属侍女にございます。そこは譲れません」


 そう言って綺麗なお姉さん…もとい、マリエッタは私にニッコリと微笑んだ。

 私はそんなマリエッタを見て『タダ働きはダメでしょう』とか『解雇されたらそもそも専属にはなれないからね』とか色々突っ込みそうになった。

 だけど、ぐっと堪える。

 マリエッタにこの手の話をしてもらちがあかないのだ。

 どうせ聞く耳を持たないのだ。

 私は軽く咳払いをしてから改めてマリエッタを見ると、何やら期待されているような目でこちらを見ていた。

 年上のお姉さんにそんな目で見られる事など前世ではなかった。だからつい(・・)ぼやいてしまった。


「一体私の何処が気に入ってそんなになるのか理解できないわ」


 それを聞いたマリエッタの目がキラリと光った。

 私は慌てて自分の口を塞ぐけど時既に遅しマリエッタは鼻息荒く私に力説を始める。

 

「マリエッタはお嬢様の全てに惚れておりますわ!お嬢様は侯爵令嬢でありながら誰にでも平等に優しく、そしてその姿はお美しいのに時として花のように可愛らしい一面を持っています。更には旦那様のように聡明なのにも関わらずそれらを鼻にかけることもしないその謙虚なお姿。こんな素晴らしい方に惚れない者などおりません!」


 正直なところマリエッタの言っている意味がさっぱり分からなかった。

 まさかこんな形で「つい」が仇になるとは思わなかった。

 この先は気をつけよう。そう心に誓う。

 それにしてもマリエッタはすっごい美人なのに私の事を語る姿は何とも残念に見えた。

 美人の大人のお姉さんがキャーキャーと年下の同性に興奮しているその姿は明らかに外と中身が合っていない。

 私はそんな彼女を冷たい眼差しで見つめていた。

 しかしそんな事を一切気にせずマリエッタは私の手をガシッと握り目を輝かせる。

 もし私が男だったら赤面する所だろうか?そんな考えが頭を過った。

 実はこれ乙女ゲームじゃなくてギャルゲー…ううん、私は女だから百合ゲームだったりして……と怖いことを考えてしまう。


「ああ、お嬢様から美味しそうなパンの匂いが、食べてしまいたい」

「!?」


 マリエッタの顔が私に近づいてきて私は背筋が凍った。

 百合展開は乙女ゲーム以上に勘弁願いたいと私は首を横に振った。

 そもそも私にそういう趣味はない。


「何寝ぼけてるの!私はパンじゃないわよ!パンはこっち!!」


 私はミートさんから貰った紙袋を楯にするかのようにマリエッタに突き出した。

 マリエッタはそれを見て目を丸くする。


「あら、残念」

「残念じゃない!ほら、さっさと乗るわよ!」


 私は紙袋をマリエッタに押し付け馬車へと乗り込んだ。


「あ!明るい……」


 馬車の中は思っていたより明るくて思わず声が出てしまった。

 この世界は電気やガスがない。その代わりに魔法や魔術と呼ばれているものが発達している。

 この馬車の中も魔法が使われている。だから明るいのだ。

 しかし前世を思い出してからだいぶ落ち着いたとはいえ、文明の発達の違いには少し戸惑ってしまう。けれど、それを悟られてはいけない。

 話がややこしくなる事がわかりきっているからだ。

 そもそも説明が面倒臭そうだ。

 けれどもこの前世の記憶は国の発展にはいいかもしれない。

 例えばこの椅子。もう少し座りやすい工夫をすべきだ。固くて長時間座るのは辛い。

 少しでも楽に座れるように何か使える物がないか帰ったら図書館へ通いつめて文献を漁ってみよう。


「何かまた面白い事をお考えですね?」


 マリエッタがニコニコしながら椅子に腰かけた。


「ええ、ちょっとね。帰ったら色々と調べようかと思ったのよ」

「また図書館に籠るおつもりですか?そんなことをしたら奥様が嘆かれますよ?」

「外に出て走り回ってるよりはいいと思うけど?」


 マリエッタは軽く息をついた。

 マリエッタが御者に合図をすると馬車が走り出した。窓から気持ちいい風が入ってくる。

 静かな町の中を馬の蹄鉄(ていてつ)と馬車の車輪の音が響き、その安定したリズムが更に心地いい。

 私がうっとりとその音を聞いているとマリエッタが口を開いた。


「何はともあれ、お嬢様今回のご留学もお疲れ様でございました。お嬢様がお使いになられていた場所もお荷物も全てこちらで処理済みでございます」


 座った状態で深く頭を下げる彼女を見て私はため息をついた

せっかく落ち着いていた気分が台無しだ。


「相変わらずお仕事が早いことで」

「恐悦至極にございます」


 若干嫌味を込めて言ったのにマリエッタは気にも止めず再び丁寧に頭を下げた。

 その姿を見て私はそれ以上何か言う気にもなれず、頭に被っていた布を取り窓から外を覗いた。

 辺りはすっかり暗くなっている。窓からポツポツと見える明かりが美しい。


「お嬢様。あまりそのお姿で顔を出さないでくださいね。誰かに見られたら困ります」

「わかってるわよ……」


 私は渋々窓とカーテンを閉めた。

 すると特にやることも見るものもなくなり、私は自分の髪を指にクルクルと絡ませて遊ぶ

 暇を持て余すとはこのことだろう。


「帰ったらお父様に出す報告書を書くから用意してちょうだいね」

「かしこまりました」

「あーあ、次は何処の国に行かされるのかしらね時期的にトラント国とかいいわね」


 そう言って私は伸びをした。

 マリエッタは黙って私の顔を見つめている。


「何よ」


 余りの視線に耐えられなくなりマリエッタに声をかけた。

  

「いいえ。ただ、今回の留学先は相当良かったのだと思いまして……」

「そんなに生き生きしてる?」


 私の問いかけに少し沈黙をしてからマリエッタはニッコリと笑ったまま口を開いた。

 

「シル・アジャンとして生きていきたくなりましたか?とお聞きするくらいですね」


 それを聞いた私は目を見開いた。マリエッタは笑顔を崩さず私の答えを待っている。

 ここで私が「そうね」言えばそれは叶うのだろうか?

 ただの町娘になれば私は悪役令嬢には確実になり得なくなる。そうなれば私は自由気ままに第二の人生を楽しめるに違いない。

 そう思ったが私は首を横に振りフッと笑った。


「お嬢様?」

「何でもないわ。確かに今回はとても素晴らしい環境ではあったけど、私はシル・アジャンとしては生きられない。そうでしょ?」


 そう。シルとして生きたいと思うこの気持ちは前世の記憶があるからであって、本来の私の生き方じゃない。大丈夫。わかっている。


「大体シル・アジャンは私が作り出した架空の人物なのよ」


 私がそう答えると、マリエッタは満足そうにパチパチと手を叩いた。


「流石ジャイル国の宰相であるダーン・グレイス侯爵の末子、シルヴィア・キー・グレイス様。素晴らしい答えですわ」

「何処が素晴らしい答えよ。私がこう言うってわかってて聞いたくせに」

「そんな事はございません。お嬢様がもしシル・アジャンとして生きられても、マリエッタは一生お嬢様に着いていく覚悟にございます」

「あーそー……」


 私は呆れながらマリエッタに返事をした。

 本当彼女が何でここまで私に忠義を誓うのか全くわからない。わからないけれど、嫌じゃない。


「ところでお嬢様」

「何?」


 突然マリエッタの周りの空気がピリッとした雰囲気になったので私は少し身構える。

 表情は変わってないけれど明らかに怒っている。そんな感じだ。


「その頭の包帯は何でございますか?」

「ああ、これ?ちょっと頭を打っただけよ。大丈夫大した事じゃないわ」


 私はそう軽く答えたが、これが間違いだった。

 マリエッタが笑顔のまま怒りのオーラを出し始めたのだ。

 私は「ひっ!」と小さく声を上げ、マリエッタと距離を取る。

 距離を取ると言ってもここは馬車の中。せいぜい横にズレるくらいしか動けないのだけれどもそれでもマリエッタから離れたかった。


「お嬢様、あれだけお怪我にはお気をつけくださいとマリエッタは常々申しておりましたよね?」

「いや、だから、これは事故で……」

「お嬢様」

「はい!」


 私は背筋をピン!と伸ばした。

 マリエッタの笑顔が怖い。

 私が冷や汗を流しているとマリエッタはニッコリと笑い一枚の封筒を取り出した。


「ではお嬢様、これをお読みください。承諾していただければ、今回のお怪我の件は不問としますわ」


 マリエッタにそう言われ、私は封筒を恐る恐る受け取った。

 交換条件を突きつけて来るとは珍しい。

 まあ、説教されるよりはマシだけど……。

 そう言って封筒を見た。


「これ、お父様から?」

  

 嫌な予感がして私は眉を寄せる。

 今までの経験上お父様からの手紙はろくなことがかいていない。

 

「ねえ、マリエッタ」

「何ですか?」

「もし、私がここに書かれていることに承諾しなかったらどうするの?」


 マリエッタは一瞬キョトンとした顔になったが、何かを思い付いたようにニヤリと笑う。

 私にはそれが恐ろしい魔女に見えた。


「そうですね、お嬢様が身元を伏せていたとは言え、侯爵令嬢に怪我をさせた罪は重いです。関係者には全員それなりの罪を償って頂きますわ」

「全員……」

「はい、原因を作った場所、者。全てでございます」


 マリエッタの満面な笑みを見て、私はマリエッタならやりかねないかも……。と本気で思った。

 ミートさん達を守るためにもここで拒否はしてはいけない。


「わかったわ。とりあえず、読みましょう」

「はい、どうぞどうぞ」


 マリエッタはニコニコしながら答えた。

 その顔を見て私はある言葉を思い出す。

 

『美人の笑顔ほど怖いものはないぞ』


 それは前世での私のお兄ちゃんが言った名言だった。

 前世の私のお兄ちゃん、貴方の言うとおり美人の笑顔は怖いです。

 私はそんな事を思いながら封を切り中身を取り出した。

 お父様からは、本来半年の予定だった留学を一年半も行ったことにより顔を見れなくてとても寂しい、早く帰って欲しいと書かれている内容だった。

 何だ。早く帰えれという事なら問題ないわね。と安堵した。

 しかし最後の一文にとんでもないことが書かれていた。


「マリエッタ……」

「はい、お嬢様」

「これは、どういうこと?」

「どういうこととは?」

「ここよ!ここ!」


 私は手紙をマリエッタに見せて指をさした。

 マリエッタは手紙をじっと見つめ朗読する。


「『尚、帰ってくる前にスピティカル国の王宮で行われる舞踏会に参加してきてね♡』と書かれていていますね」

「書かれていますね。じゃないわよ!マリエッタ、貴女私がこういうのに参加するの嫌いって知ってるでしょ?!てかいつよこれ!」

「はい。お嬢様のことでマリエッタに知らないことはございません。開催日は明日にございます」

「明日!?」

「はい明日です」


 サー…と血の気が引くのがわかった。

 私は侯爵令嬢なんだから、こういう場に駆り出される可能性はゼロじゃない。

 でも、何も今それが発生しなくてもいいと思わない?

 うまく回避する手を考えたいけれどその時間がない。

 いや、もしかしてこれが狙い?


「お嬢様は毎回何かにつけて拒んでおられますのでわたくしもあの手この手と思考を巡らせておりました。けれども今回は逃げられません。何せあのパン屋と従業員達の命運がかかっているのですから」


 マリエッタはにっこりと笑う。私は唇を噛んだ。


「卑怯よ……」

「卑怯ではありません。これはあくまで交換条件です。何もやましいことなどありません」


 マリエッタにそう言われて私はガックリと肩を落とす。

 ミートさん達を人質に取られてはどうしようもない。

 私は諦めることにした。


「わかったわよ。行きますよ。行けばいいんでしょ?でも参加して、すぐ帰るわよ?」

「はい、それで構いませんわ♡」

「ただし、次はないからね?これでチャラよチャラ!」

「心得ております。私はお嬢様とのお約束は必ず守りますわ」

「全く。ついてないわね」


 私はお父様の手紙をヒラヒラさせながら背もたれに体重をかけた。

 今日に限って怪我をするとか本当についてない。

 しかも前世の記憶を思い出すとかのおまけ付き……。


「では、お嬢様。このまま滞在城に行っていただき、明日ジャイル国第二王子であるアルフィード・キルス・フォルゼリア様のパートナーを務めてくださいね」

「は?」


 マリエッタの言葉に私は固まった。

 マリエッタは笑顔を崩さない。

 何てことだろう。

 今日という日に前世の事を思い出した。そしてこの世界は前世の世界でゲームだった。その名も『ときめき♡きっと見つかる私だけの王子様(プリンス)』という私と相性最悪の乙女ゲーム。

 内容は女の子(プレイヤー)男の子(ヒーロー)と恋愛する王道もの。

 ここにきての突然の王子様登場は何を意味するのだろう。

 主人公(ヒロイン)の布石?悪役令嬢の予兆?

 私はモブキャラだと思っていたのに。ううん、モブキャラだと思いたいのに。

 私はこのゲームの何の役に転生したというのだろうか……――。

読んでいただいてありがとうございます!

書くたびに長くなってる気がしますが、気にしないようにしたいです

次回もよろしくお願いします!


追記

多少の書き直し、加筆等しました。

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