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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
三章
57/122

臨時休業の理由

閲覧ありがとうございます。

今回から町が舞台です。


「やっと着いた……」


 町へ着いた私はお尻をさする。

 次々に馬車から降りる人。

 そう、今私()は駅馬車から降りるところだ。

 何でそんなことをしているのなというと、今回は一人じゃないから。

 二人はやはり嫌でも誰かの目に止まる率が高い。

 だから怪しまれない様にするため適当なジャイル国内へわざわざ転送魔法で移動し、わざわざ駅馬車を使ってスピティカル国へ改めて来たのだ。

 その為ここまで来るのに3日間駅馬車に揺られる旅は中々の疲労感である。

  

「お疲れ様。でもシルは駅馬車は初めてじゃないだろ?」


 アルが私に手を差し伸べた。

 私が手を取り馬車を降りると視線が痛かった。

 アルに数人の女の子が注目していたのだ。

 口の動きから『あの娘誰?』『妹?』『まさか恋人?!』と言っているのがよくわかる。

 正直私より美人はいっぱいいるけど、恋人設定でよかったんだろうかと不安になった。

 今さらだけど、『お兄ちゃん大好きブラコン妹』でもよかったのかもと思ったりする。

 前世でも今でもお兄ちゃんはいるわけだし、妹を演じられないわけじゃない。

 どうしよう。選択思いっきり間違えたかも……。

 

「シル?ボーッとして、人の話し聞いてた?」

「え?うん、ちゃんと聞いてたわよ。初めてじゃなくても慣れないものは慣れないの!」


 道中、私はアルフィード様……もとい、アルに対してタメ口をマスターした。

 令嬢が一国の王子にタメ口とか、どうなんだろうと疑問に思いつつも最終的に今の私は『シル』なのだと割りきることにしたのだ。

 

「ほら、荷物持つよ。貸して」


 そう言って私の荷物をヒョイと持つ。

 まさに爽やか青年である。


「妙なところでカッコいいの反則だし……」

「うん?何?」

「ううん、何でもない。重くないかな?って思っただけ」


 誤魔化す様に手を振り、私達は歩きだした。

 たった数週間しか立っていないのに何だか別の町に見えるのが不思議だった。


「とりあえず荷物を部屋に置いてからパン屋に行こうか」

「うん。でもまさか同じ部屋に戻るなんて思いもしなかった」

「そうだろうな。実にサーガらしいよ」


 そう言ってアルは笑った。

 これからいく部屋は私が前に借りていた部屋だ。

 宿の方が目立たない気もしたのだけれどアルに万が一『シル』と『シルヴィア』、『アル』と『アルフィード』の二役をしないといけなくなった場合、宿だと逆に目立つから部屋は借りた方がいいと言われたのだ。

 それを聞いたとき、そんな場合は来てほしくないと心から私は願った。

 アルはともかく、私はボロが出そうだからだ。

 そんな短期間に『シル』と『シルヴィア』を使い分ける事なんてなかったもの。


「本当は二部屋借りれたらよかったんだろうけどなあ……」


 私の呟きにアルが驚いた顔をする。

 どのくらい驚いたかというと、荷物を落としそうになるくらいだ。

 

「俺と同居は嫌だった?」


 恐る恐る聞くアルに私は首を横に振った。

 

「ううん嫌じゃない。アルは信用してるし、サーガさんが『恋人同士ということなら同じ部屋の方がいいでしょう』って言ってたし」

「いや、そうじゃなくて……」

「そうじゃなくてあの部屋狭いから二人だとアルが窮屈になるんじゃないかな?って思って……」


 私がそう話していると、アルは何かを悟ったように「やっぱりさっき俺が聞いたことは気にしないで」と言った。

 意味はよく分からない。けど言われた通り気にしないでおく。 


「それにね、サーガさんが心配なのよ」

「どうして?」

「ほら、部屋の事。マリエッタには言わずに出てきたでしょ?サーガさんが『私にお任せください』って言ってたから任せちゃったけど、マリエッタが事後報告で知ったら何か怖そうで……」


 そう言うとアルが「もう手遅れだよ」と頬をさすった。

 私は驚いてアルを見る。


「え?もう言ってたの?」

「勿論。一応筋は通しておかないと、俺の株が下がるからね。でもそしたら一発平手打ち。すぐに回復魔法(ヒール)使ったけど、めちゃくちゃ痛かった……」

「あちゃー……」

「それでも俺はマシだったよ。サーガは遠慮なくグーパンチ食らってたから。しかも頬と顎に……」

「うわ……」 


 私はその光景を想像してサーガさんに合掌した。

 そうこう話している間に部屋に着いた。

 流石お仕事が早いサーガさん。家具もバッチリ用意してあった。

 狭い筈の部屋もそんなに窮屈に感じないのは厳選された家具のお陰かもしれない。

 でも今はゆっくり確認してのんびりしているわけにはいかない。私達は荷物を下ろして部屋を出た。

  

「ここからはパン屋は近い?」

「歩いて10分くらいかな」

「そうか。マックス達の家は?」

「私とは逆方向。私は期限付きだって始めからわかってたし、お父様からの遣いの者が来る可能もあったから念のためにね」

「成る程、いい判断だ」


 アルが私の頭を撫でた。

 そして手を差し出した。

 私が戸惑っていると、アルは「恋人だってアピールしとかないと……だろ?」と言った。

 確かに駅馬車の時と同じく、いやそれ以上に道行く女性の視線が痛い。

 ここで拒否ればアルを狙いに群がってくるかもしれない。

 何て言ったってここは乙女ゲームの世界に酷似した世界だ。

 主人公に限らず、モブキャラだってチャンスを狙っているはずだ。

 いくら主人公がハーレムをマスターしても全キャラは無理だもの。

 数多いし……。

 それにアルは冗談じゃなくてモテそうだし。

 私が一人悶々としているとアルが「シル?」と顔を覗いて来た。

 私は恥ずかしいと思いながらアルの手を取った。

 顔が火照るのがわかる。

 でもそのお陰で道行く人には初々しい恋人だと思われたかもしれない。

 途中、ちょっとだけ寄り道しながら私達はミートさんのパン屋さんへと到着した。

 ミートさんのお店は臨時休業と看板が出ていた。

 

「予想はしていたが、やっぱり休業か」

「中、入ってみる?奥に明かりはついてるし」

「え?いいのか?」

「だってその為に来たんだし?」


 私が扉に手をかけようとするのをアルが「せめて裏口とかの方がいいんじゃないか?」と聞いてくる。


「表の方が来たってわかるでしょ?」

「確かに……」 


 納得いかなさそうな顔で私達はお店の扉を開けた。

 カランカランとベルの音がする。

 お店の中にはパンが置いていない。でも微かに小麦粉の匂いがした。

 奥から足音が聞こえてくる。


「ジェフリーお帰り。遅かった……っ!」


 出てきたのはジェニーだった。

 ジェニーは私を見て立ち尽くす。


「シル!シル!?本物よね?偽物じゃないわよね?」

「ジェニー何それ。偽物ってひどくない?ところで何でお店閉まって――」


 私が言い終える前にジェニーは私に飛び付いてきた。

  

「シル聞いて!あのね、店長がっ!マックスがっ!」


 泣きじゃくるジェニーの頭を私は撫で、アルに目配せする。

 アルは黙って頷いた。

 出発前にアルと決めた事があった。


 『ミート・ブレイクとマックス・ディーンのことは知らぬ存ぜぬでいこう』


 アルになったアルフィード様が突然そう言った。

  

『ジェニーやマックスを疑うんですか?』 

『そういうわけじゃない。だが、何者かが動いているかもしれない』 

『どういうことです?』

『ミート・ブレイクの事件。起こったタイミングが良すぎるとは思わないか?』


 アルの言葉に私は唾を飲んだ。

  

『つまり、マックスとミートさんの事件はクラリス様の騒動を隠す為だと?』 

『あくまで可能性の問題だ』 


 結局私はアルの策に乗った。

 それに私も気になることがあったのだ。

 

「落ち着いてジェニー。ゆっくり話して。何があったの?」


 ジェニーは涙を拭いながら顔を上げた。

 そしてアルに気がつく。


「え!?誰このイケメン!」

「ああ、この人は――」

「アル・キーヴァー。シルと結婚を前提に付き合ってる」


 私の肩に手を置き、抱き寄せた。

 ジェニーは「え?」と呟いた後、鼓膜が破れるかというくらい驚きの叫び声を上げた。


「取り乱してごめんなさい。あの(・・)シルが恋人を連れてくるだなんて信じられなくて」


 そう言いながらお茶を出してくれるジェニー。

  

「何かトゲがあるわね」

「だってマックスのプロポーズだって気がつかない位鈍いわけだし……ってごめん。私余計なこと言った!」

「何が?」


 私が首を傾げるとジェニーが迫ってくる。


「馬鹿!恋人の前で他の男にプロポーズされたとかマズイじゃん!」

「ああ、そのこと?心配ないよ。ジェニー達の話をした時に話したし、私はマックスのことやっぱりお兄ちゃんとしか思えないし」

「可哀想なマックス。あんなに意を決して告白したのに……」

「そうは言ってもあんなプロポーズの仕方されてもわかんないよ」

「ふーん、要するにアルさんのは直球だったわけだ。そりゃ鈍いシルでもわかるわよね。で、何て言われたの?」

「内緒」

「ケチー」


 ほんわかと空気がしたところで私は切り出すことにした。

 

「ところでジェニー、ジェフリーは?」

「今買い物中。もうすぐ帰ってくると思うわ。きっとシルとアルさんを見たら驚くわよ」


 ジェニーは笑いながら答えた。

  

「じゃあ、ミートさんとマックスはどうしたの?」


 私の質問にジェニーがピクリと反応をする。

   

「そういえばさっき何かいいかけてたけど、お店が閉まってることと何か関係があるの?」

「それは、その……」

 

 ジェニーの歯切れが悪くなる。もう少し突っ込もうかとした時、カランカランとベルが鳴った。

 ジェニーが「あ、ジェフリーが帰って来た!」と席を立つ。

 

 少し話し声が聞こえたかと思うと後ろでガチャンと何か落ちる音がした。

 振り向くとジェフリーが驚きの表情で私達を見ていた。


「シル、どうしてここに?」


 ジェフリーに言われて私は「恋人ができたの。だから皆に紹介したくって」とアルの腕に自分の腕を絡ませた。

 

「ジェフリー、シルは店長とマックスのことまだ――」


 ジェニーが言いかけた時だった。

    

「帰ってくれ!」


 ジェフリーが大声を出した。

 

「どうしたのジェフリー、何で怒ってるの?」


 私が聞くと、ジェフリーはハッとして私とアルを見た。

  

「悪い。今俺達は呑気にお前達の相手はしてられないんだ」

「どういうこと?」


 私の問いかけにジェフリーは唇を噛む。

 まるで何かに耐えるかのようだ。


「もうすぐお客が来るんだ。だから、帰ってくれ……」


 絞り出すような声で言うジェフリーを見て、私とアルは互いに見合わせた。

  

「シル、帰ろうか」


 そう切り出すアルに私は言葉を濁す。

  

「見てわかるだろう?今の俺達は歓迎されてないらしい」

 

 焦ってはいけない。今はまだその時じゃない。そう言われているような気がした。


「うん、わかった……」


 目があったジェニーに「じゃあ私達帰るね」と声をかけた。

 ジェニーは「しばらく町にいるの?」と聞いてきたので「うん、せっかくスピティカル国に来たから」と笑顔で答えた。


「ミートさんとマックスによろしく伝えてね」


 そう言うとジェフリーは「それは無理な頼み事だな」と答えた。


「店長は今病院で、マックスは牢屋の中だから……」

  

読んで頂きありがとうございます。

ブックマークもありがとうございます。

次も良ければまたよろしくお願いします。

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