二つの選択肢
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「大丈夫かシルヴィア嬢!」
そのまま気を失い倒れそうになった私をアルフィード様が支えてくれた。
「あまり、大丈夫ではありません」
「でしょうね」
サーガさんが笑いながら濡れタオルを私の頭に置いてくれる。
「折角なので説明しましょう」
サーガさんが楽しそうに答えた。
アルフィード様に「お前、楽しんでるだろ?」と言われ「はい!」と答えるサーガさんに怒りを覚えつつ私は話を聞くことにした。
「舞踏会で起きた事件により、どうやらクラウド様がシルヴィア様に一目惚れをしたようなのです」
「は?」
「あの時、陛下はシルヴィア嬢とクラウドの婚約を一度は諦めた。だが……」
「アルフィード様がマックスの事件の件に口出しをしてそれかまた火種になりました」
どういうこと?口出しをしたらからってどうして婚約の話しになるの?
意味がわからない。
私が混乱していると、サーガさんが「わかりませんか?」と聞いてきたので頷いた。
「スピティカル国内でスピティカル国の人間が事件を起こした。普通ならそれに対して他国の人間が口を出すことなどあり得ませんよね?」
私は「あ!」と声を出した。
そうだ。ここはジャイル国じゃない。スピティカル国だった。
「当然アルフィード様は何故そのような事を言ったのか、理由を求められました。シルヴィア様とマックス・ディーンが知り合いだと言うわけにはいかないので、小娘が騒動を起こしたその未明に王宮でタイミングよく事件が起こるというのがおかしいとアルフィード様は答えました。ですがそれを決定打にすることはできず、アルフィード様が不利な状態です」
私は黙ってそれを聞いていた。
そしてアルフィード様に申し訳なく思う。
こんなに頑張っている人に私はひどいことを言ってしまった。
「そこで、向こうが取引を持ちかけてきたのです」
「それがクラウド様との婚約ですか?」
「その通りです」
アルフィード様の顔が険しくなり、私を支える手に力が入った。
「クラウド様は婚約とまで行かずとも、シルヴィア様とはお会いしたいそうです。こちらとしてはそれは違うと抗議をしていますが、中々……」
つまり、マックスを助けたくば私にクラウド様と会わなくちゃいけない。でもそこで間違えれば私はクラウド様と婚約をさせられてしまう。
「だからシルヴィア嬢には話したくなかったんだ」
アルフィード様が悔しそうに言った。本当この人は一人で全部背負う気だったのかと私は呆れた。
「アルフィード様。私言いましたよね?私はアルフィード様の力になりたいと」
「シルヴィア嬢?」
「アルフィード様がマックスを助けようとしてくれたのは感謝します。ですがそれを貴方が背負う必要なんてないんです」
「だが、シルヴィア嬢、君は……っ!」
アルフィード様の唇を私は人差し指て閉じた。
「マックスは私の友人です。助けたいと思う心に嘘はありません。ですがその為に何かを犠牲にもできません」
もし、アルフィード様にであってなければマックスの恋人役でも、クラウド様の婚約者にでもなれたかもしれない。
でも私はアルフィード様に出会ってしまった。
そしてこの人に心を奪われた。
それは前世の記憶で『恋なんて絶対しない』と誓った想いを打ち払う程に……。
「アルフィード様、一緒に考えましょう」
私は赤くなったアルフィード様の頬に触れた。
ピクっと体を強ばらせ、緊張するアルフィード様を愛しく思った。
「私はマックスがミートさんを刺したなんて信じられません。一年半という短い期間でしたが、彼がそんな事をするような人間じゃないということは知っています」
「ですが、王宮で目撃者がいるんです。これを否定するのは非常に厳しいと思いますよ」
「でも、私とアルフィード様が力を合わせればきっと――」
言いかけた言葉をサーガさんが首を横に振って遮る。
「それ以上にアルフィード様とシルヴィア様は婚約が保留になったという噂が流れています。黒薔薇のカードの件もありますし、お二人で行動するのは止めた方がいいでしょう」
「そんな……」
「シルヴィア様に残された選択肢は二つです。一つ目は一番楽な方法です。『マックス・ディーンを諦める』こちらが異議を取り消せば向こうも何も言ってこないでしょう。二つ目は難題かもしれません。『クラウド様とお会いになり、婚約者にならぬ様避けながら交渉する』ただし、失敗すれば貴女はクラウド様の婚約者となり、アルフィード様とは完全に婚約を解消するとになるでしょう」
サーガさんの言葉にアルフィード様が「どちらも嫌な選択肢だな」と呟いた。
私もそれに同意する。
本当にそれしか方法はない?
ううん、どこかにまだあるはず。
何か、何かあるはずよ。
あのマックスがミートさんを刺すわけがない。だってあの日は、あの日は……。
「あーーーーーっ!!」
私は大声を上げた。
アルフィード様とサーガさんが突然のことに驚く。
「アルフィード様、マックスじゃない!マックスはミートさんを刺すわけがないんです!」
私はアルフィード様の襟元を掴み揺する。
「い、いや、シルヴィア嬢。それはわかっているが……」
ガクガクされながらアルフィード様は私を止める。
私は慌ててアルフィード様から手を離した。
「違うんです!おかしいんです!あり得ないんです!」
「シルヴィア様、一体何がおかしいんですか?」
「サーガさん、王宮に来たのはミートさんとマックスだと言いましたよね?」
私は今度はサーガさんに詰め寄った。サーガさんは引き気味に「ええ。そうだと聞いています」と答えた。
「やっぱり、おかしいです。あり得ません」
私の言葉に二人は「何が?」という顔になった。
「ミートさんが王宮に呼ばれたのは事実です。私も前日に聞きました。でも連れていくのはマックスじゃないんです」
「どういうことだ?」
アルフィード様の目の色が変わった。
サーガさんもこれには驚いている。
「確かに、王宮についていきたいと、マックスはジェフリーと揉めましたけど、二人とも行けなくなったんです」
「どういうことだ?詳しく話してくれ」
アルフィード様に言われ私は皆と別れる前の日、つまり『シル』から『シルヴィア』に戻る直前の出来事をアルフィード様に話した。
勿論、私が二人の喧嘩が原因で頭を打ったことや、前世の記憶が甦ったことなどは伏せて……。
話し終えた後、アルフィード様は唸る様に考え込んでしまった。
「要するに王宮にはマックスではなく、ロジュアという人間がミート・ブレイクと共に来る予定だったんですね?」
「はい。ジェニーが大量の注文書を受けちゃって、大変だと騒ぎになったんです。そんな状況でマックスがジェフリーを置いてミートさんと一緒に王宮に来るとは思えません」
私がきっぱり言うとずっと黙っていたアルフィード様が顔を上げた。
「サーガ、マックスが捕らえられた場所はどこだった?」
「詳しいことはわかりませんが、刺されたパン職人の店だったと聞いています。ですが、詳しい当時のことは我々に知る術はありません」
「どうしてですか?」
「我々にそこまで追求できる権限はないんですよ。所詮は他国の人間です」
サーガさんが肩を浮かした。
「我々が情報を得たければ新聞を手に入れるか、アンリの様な人間を送り込むしかありません」
「かといって、このままシルヴィア嬢の話を無視はできない」
アルフィード様はため息をついた。そして何かを決めたように立ち上がる。
「サーガ、例の物を用意しろ。俺が直接調べてくる」
「お待ち下さい。シルヴィア様はどうするおつもりですか?」
「お前が俺の代わりに守れ」
「無茶言わないでください」
話が見えず私は二人を交互に見た。
「あの、アルフィード様はどこかへ行かれるのですか?」
「ああ、町へ行く」
アルフィード様の言葉に私は目眩を覚えた。
こんな目立つ人が町へ行ったら騒ぎになるに決まっている。
「勘違いしない方がいい」
そう言ってアルフィード様はパチンと指を鳴らした。
するとアルフィード様の髪と目が黒く染まる。
「覚えておいた方がいい。髪と目の色を変える魔法が使えるのはシルヴィア嬢、君一人だけじゃないということだ」
「ま、まさか……」
私はサーガさんの方を見た。
サーガさんは頭を抱えている。
「何故俺がシルヴィア嬢を見つけたのか本当の理由がわかっただろ?」
アルフィード様はいたずらっ子の様な笑顔で私を見ていた。
読んでいただきありがとうございます。
最近いい感じに更新できています。
どこまでこのペースを守れるか不安でもありますが、頑張っていこうと思います。
またブックマークをして毎回待ってくれてる方、新たにブックマークしてくださった方、ありがとうございます。
この場を借りてお礼申し上げます。