苛立ち
閲覧ありがとうございます。
今回は久しぶりにアルフィード視点です。
シルヴィア嬢に待機してもらって早2週間。
状況は変わるどころか、どちらかと言えば悪い方へと動いていた。
問題は全部で三つ。
一つ目はリリィが未だに見つからないこと。
城にはいないと考え、町への捜索を秘密裏にしたが手がかりが全く出てこない。
二つ目は執事長の死体が消えた。
検死をしたドクターが解剖後、目を一瞬離した隙に死体が消えたと報告があった。
検死を行ったドクターは俺の騎士団専属だ。正直何かしたとは思えないし、思いたくない。
また地面には血の足跡が着いていたとか、どんなホラーだ。
勿論城内くまなく探したが見つかっていない。
三つ目、これが一番俺を苛立たせている。
俺は苛立ちを隠せず机を叩く。
「くそっ!何でクラウドはこうも毎日毎日シルヴィア嬢に会いたいと訪ねてくるんだ」
そんな俺をサーガがため息混じりに見ていた。
「苛立つのはご理解できますが、机に八つ当たりをするのは如何かと思います」
「うるさい!黙れ!」
俺はもう一度机を叩いた。
「それだけ貴方とシルヴィア様の婚約保留の噂が流れているんですよ。いいことじゃないですか」
「お前、他人事だと思いやがって……」
「事実他人ですからね」
勝ち誇った顔をしているサーガが憎たらしい。
「まあ、尾ひれはひれついて『解消』ではなく『保留』ということでまだいいじゃないですか。ジャイル国に届く頃には『痴話喧嘩』となっているかもしれませんよ」
ニヤニヤと笑うサーガを俺は睨んだ。
「今すぐ噂をしている人間の口を塞ぎにいけ」
「無茶言わないでください」
そんなことをしていると、部屋の扉がガチャリと音を立てて開いた。
「アルフィード様?どうかなさいましたか?」
この2週間俺との約束を守り部屋から一歩も出てこなかったシルヴィア嬢が出てきたのだ。
変わらず可愛い。
……、じゃない!
しまった。あまりの怒りに魔法が緩まってしまったのか!?
しかし後悔してももう遅い。
醜態はさらされてしまったのだ。
「シルヴィア様、どうかなさいましたか?」
サーガは冷静に彼女に問いかけた。
彼女は「えっと……」と俺の顔を伺いがら「すみません」と謝った。
こんな情けない姿を見られた上にシルヴィア嬢を怖がらせてしまったことに俺の頭はパニックを起こす。
どうすべきだ?謝る?謝ればいいのか?
嫌な汗が俺の背中に流れた。
そんな俺をサーガは「全く……」 と呆れ顔で見ている。
「あ……、その。俺の方こそすまない……」
「え?」
シルヴィア嬢が驚いた声を出した。
しまった。また間違えたのか!?
最早俺は先程の怒りはどこへやら、今は焦りしかない。
「いや、だから。怖がらせてしまったから……」
「そんなことはありませんわ」
シルヴィア嬢が即答する。
「申し訳ありません。部屋から出るつもりはなかったんですけど、あまりにも荒れている感じがして、どうしても気になってしまって……」
どぎまぎする彼女を見てシルヴィア嬢を凝視できなくなる。
ヤバイ、可愛すぎる。
遠目で見ていた時とは全然違う。
近くにいることがこんなに破壊力があるとは思わなかった。
「貴方はアホですか」
サーガにスパーンと頭を叩かれた。
「ご令嬢をいつまでも立たせるとはどう言うことですか。全く、貴方は本当にシルヴィア様が関わるとダメな男に成り下がりますね」
めちゃくちゃ失礼な事を言われムッとする。
そんな俺をサーガは鼻で笑って椅子を運ぶ。
「シルヴィア様、とりあえずこちらへお掛けください」
サーガと俺とのやり取りを見て彼女は困った顔をする。
それがまた可愛くて良い。
「アルフィード様」
サーガのサーガの黒い笑顔に睨まれ、俺は首を横にブンブン振った。
「シルヴィア嬢、気にせず掛けてくれ」
精一杯冷静を装って声をかけた。シルヴィア嬢は緊張気味に椅子に腰かける。
俺は話がしやすい様にシルヴィア嬢の前へと移動した。
「取り乱してすまない。予想以上に事が運ばす苛立っていた」
「いえ、ですがそろそろ私も現状がつらくなってきました。可能な限りで構いませんので、今ある情報を教えては頂けませんか?」
シルヴィア嬢の気持ちは最もだと思った。
そうでなくても何も聞かず2週間、言ったとおりにあの部屋で過ごしてくれた。
そろそろ限界なのはわかっている。
「わかった。現在の状況を話そう」
「では、お茶を用意致しましょう」
そう言ってサーガは部屋を出ていく。
サーガがお茶を持ってくる間に俺はクラウドの事以外をシルヴィア嬢に話した。
彼女は黙って聞いていたが、執事長の話だけは顔色が青くなっていた。
「とりあえず、マリエッタは無事で、アンリ様も元のメイドに戻っているのですね?」
「ああ。そこは問題ない」
俺の返事にシルヴィア嬢はお茶を一口飲み、ホッとした顔を見せた。
「本当に安心しましたわ。ずっと気になっていましたの」
「せめてマリエッタとアンリの件だけは耳に入れておけばよかったな。気が利かず、すまない」
頭を下げる俺にシルヴィア嬢は「やめてください」と慌てる。
「だが……」
「皆が無事なら構いません」
優しく微笑む彼女に俺は胸が痛んだ。
どうする?今、彼女に言うべきか?
だが、それを言ったら彼女を傷つけるのではないか?
俺の中に迷いが生まれる。
「そう言えば、クラウド様がシルヴィア様にお会いしたいと毎日問い合わせが来ていますがどうなさいますか?」
「サーガお前……」
「どうせ貴方のちっぽけな不安から話していないのでしょう?今後の為にもきちんと話しておくべきです」
俺は言葉を詰まらせた。
サーガの言い分は正論だ。
けれど俺はシルヴィア嬢をクラウドに合わせたくない。
あの日、帰り際にあいつがシルヴィア嬢を見る眼差しが明らかに好意を持った目に変わっていたからだ。
「どうしてクラウド様が私に会いたいのですか?お会いする理由などないと思うのですが……」
シルヴィア嬢は困った顔をして俺とサーガを交互に見る。
俺はサーガに任せることにした。
サーガは「情けない」と呆れた顔をした。
「アルフィード様があることをクラウド様に掛け合ったのです。そうしたらクラウド様がそれを聞くならシルヴィア様に会わせてほしいと言ってるんです」
「交換条件というわけですか?」
「はい。簡単に言えばそうです」
「一体何をご相談なさったのですか?」
シルヴィア嬢の質問に俺は口ごもる。
サーガが「今言わずにいつ言うのですか?」と威圧を放つ。
幻滅されるだろうな。
俺はため息をついた。
きっとこれを言ったらシルヴィア嬢はクラウドと会う。
それが嫌で黙っていたんだ。当然と言えば当然だ。
「マックス・ディーンの罪状を一度保留にしてほしいと頼んだんだ」
「え……?」
シルヴィア嬢の顔が固まる。
意味がわからないと言わんばかりの顔だ。
「シルヴィア様、アルフィード様のお話をよくお聞きください」
サーガの言葉でシルヴィア嬢がハッとしたのがわかった。「わかりました。お話ください」と声を震わせながら俺に言う。
覚悟を決めたような顔をしているけれど、そうじゃないんだ。
俺はそう思いながらゆっくりと唇を動かした。
「先日舞踏会が行われた日の未明の話だ――」
読んで頂きありがとうございます。
久しぶりのアルフィード視点は書いてて楽しかったです。
次回もよろしくお願いします。
次の更新は少し間が空くと思いますので、気長にお待ち下さい。