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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
一章
5/122

二度あることは三度ある

今回は今までの中で一番長いです

お時間がある時にお読みください


「んー!やっと終わった〜!!シル、お疲れ様」


 ジェニーが背筋を伸ばす。

  

「ジェニーこそお疲れ様。最後にそれなりに手伝えて良かったわ」


 私はドアの看板を『閉店』にしてカウンターにいるジェニーの元へ向かった。

 手伝う際、記憶が混在して戸惑うのではないかと一瞬危惧したけど、そんなことはなかった。

 寧ろ何の違和感もなく仕事をこなせた。

 体が覚えているというやつだろうか?

 前世の記憶ってややこしいけど、気にしなければそんなに()に支障をきたすことはないらしい。


「有り得ないくらいのお客さんだったね」

「いつもの倍?それ以上よね。やっぱり隣のおばさんの威力は違うわ」

「隣のおばさんってこの隣のカフェの?」

「そ!マールおばさんよ。あのおばさん噂が大好きでね、秘密がバレたら最後、次の日には町中に知れ渡ってるんだから!」

「いや、それは知ってるけどそれと今日のお客さんの数とどういう関係あるのよ?」

「実は……」

「待てよジェニー。そっから先は俺達にも教えてくれ」


 ジェニーが答えを言おうとした時に奥から二人の男性が出てきた。


「マックス!ジェフリー!」


 ジェニーがヤバいという顔で二人を見た。

 腕を組み少し目付きの悪い金髪の人がマックス。頭にバンダナをつけているのがジェフリーだ。


「もう明日の仕込みは終わったの?」

「ああ、当然だ」

「何年俺達が店長の元で修行していると思っているんだよ」

「それで?マールさんが何だって?」


 マックスが眉毛をピクピクさせながからジェニーに詰めよる。ジェニーはマックスから目線をそらし視線を泳がせた。


「客が増えるのは有難い。店長と俺達のパンは最高だ!だが今日のような客の量は異常なんだよ!」

「俺達は商売をしているから売るのも大事だ。だが、今日のような人が押し寄せたら、常連さんに申し訳が立たない。そのくらいジェニーだったら知ってるだろ?」


 マックスとジェフリーに言われてジェニーは「うっ」と言葉を詰まらせた。

 その後申し訳無さそうに口を開く。


「マールさんに店長が王宮に呼ばれてる事を話ちゃって……」

「はああ!?お前、それは黙っとけって店長言ってたじゃねーか!?」


 マックスが壁を勢いよく叩いたときだった。

 グラッと何かが頭上で揺れた気がした。

 何だろうこれ。

 デジャブ?

 そんなことを思っているとジェニーが叫んだ。


「シル、上!危ない!!」


 ゴーン!!


 本日二度目の激痛が頭に走る。

 何故そんなところに鉄板が残っていたのかわからない。

 ただはっきりしているのは今頭がめちゃくちゃ痛いということだ。

 まさか連続で同じ場所を強打するなどと誰が思っただろう。


「シル!!」

「おい!!」


 皆が慌てて駆け寄ってくる。

 私は痛む頭を押さえるとヌルッと嫌なものが手に触れた。


「血だ……」


 何とも冷静に答える私。前世では血が大の苦手だったのに今では平気なのだから不思議なものだ。

 というか、やっぱり傷口が開いているのだろう。

 ズキズキ痛い。


「シル!何ボーッとしてるの!!早く止血しなきゃ!!」


 私はジェニーに言われ「そっか」と気がついた。

 ジェフリーは慌てて椅子を持ってきて私を座らせ、マックスはタオルを持ってきて私の傷口に当てる。


「あー、何だ、その……すまん」


 マックスが申し訳なさそうに謝ってきた。

 別に偶然が重なっただけでマックスのせいじゃないのに謝られても気持ちが悪い。

 私が返事をしようとしたらジェニーに「動いちゃダメ!」と止められた。


「別に今のはマックスのせいじゃないでしょ?」


 私がそう言うとジェフリーが前に出てマックスを睨む。


「いや、シル。今回はこいつのせいだよ。こいつはいつも熱くなりすぎるんだ。おまけに手も出るのが早い」

「ちょっと待て、何お前一人逃げようとしてるんだよ!あれはお前がもっと可愛げがある弟弟子だったら問題ないんだろうが!」

「はあ?お前が一つ年上なだけで店長の元に来たのは同じだろう?腕だって対して変わらないじゃないか」


 そう言って二人の言い合いが始まった。

 私とジェニーは呆れるしかない。

 冷静に見えて喧嘩を吹っ掛けるジェフリーに、頭に血が上りやすいマックス。

 息が合ってる時は凄いのだが、ほぼ毎日こんな感じだ。

 ミートさん曰く、お互い譲れないものがあるのはいいことで、パン作りにはそれが必要らしい。私やジェニーにしてみれば、毎回二人が喧嘩してミートさんが間に入る度に店の一部が破壊されるようなこだわりは捨てていただきたいと思っている。


「そう言えばロジュアは?」


 ジェニーが私の頭に包帯をキュッと巻きながら二人に聞いた。

 ロジュアとは私より1ヶ月前に入った従業員で、天然パーマと黒縁眼鏡が特徴的な男性だ。

 一応パン職人としてミートさんの元で修行はしているものの、一人でいることが多くあまり会話もない。

 よく言えば寡黙。悪く言えば無愛想だ。

 実際私も一年半ここに勤めているけれど、彼とは挨拶くらいしかした記憶がない。


「あいつならとっくに帰ったよ」

「明日の仕込みも手伝わずにな」

「はあ!?」


 ジェニーが大声を上げ、包帯をギュッと更に引っ張った。


「ジェニー、痛い!!」

「あ、シルごめん!つい……」

「ははははは……」


 私は苦笑いをするしかなかった。この店の従業員は『つい……』が多い。

 その内『つい……』でとんでもないことが起こりそうな気がする。


「でもさ、今日でシルが終わりなのに挨拶無しで帰るなんて信じらんない!!」

「あいつは何を考えているのか、未だにわらないからなあ」

「俺達ですらまともに話した事がないしな!」

「あいつを扱えるのって店長くらいじゃね?」

「だな!」


 皆うんうん、と頷いた。


「居ないと言えば、店長はどこへ行ったの?」

「店長なら用事があるってまだ奥で作業してるぜ?」

「大丈夫、シルが帰る前にはこっちに来るさ」

「というか、この騒ぎでも顔を出さないって、どんなに集中してるんだか……」

「それがミートさんの凄いところだからね」


 私達はそう言って笑った。

 そしてジェニーが「終わったよ」と救急箱の蓋を閉じた。

 

「シル、故郷に帰ったらちゃんと病院に行ってね。同じ所強打してるみたいだし、心配だわ」

「わかった。ありがとねジェニー」


 私がジェニーにお礼を言っているとマックスが「やれやれ」というポーズで私を見ていた。


「一日に二回も同じところを打つなんてシルも器用な奴だな」

「マックス!何言ってるのよ!!元々は貴方達の喧嘩が原因なんだからね!責任取りなさいよ!」

「んだと?」

「別にいいわよ。気にしてないから」


 というか、本心はこれ以上またゴタゴタして何かが頭に降ってくるのは遠慮したいだけだったり……。


「わかった。責任を取ってやるよ!」


 そう言ってマックスは私の手を取った。

 一体何が始まるのか分からず私は身構える。


「俺がお前を怪我させた責任を取る!」


 それを聞いたジェニーとジェフリーが「おお!」と拍手をした。

 何で拍手をするのかがわからない。

 責任を取ると言われても、何をして責任を取ると言うのだろうか。

 私が首を傾げているとマックスが待ちきれないと言わんばかりに、更に手を強く握る。

 痛い……。


「返事は?」

「え?」

「だから、責任を取るって言ってるんだよ!返事しろ!」


 私は困ってしまった。返事と言ってもマックスがどういう意味の責任を取ろうとしているのかが全然わからないのだ。わからないものに首を縦に振るわけにはいかない。

 私は必死に考えた。

 ズキンと頭が痛くなる。

 もしかして責任って私の頭の怪我の事?

 ということはその原因を作ったことの反省……。


「そうか、わかったわ!」

 

 私はそう言ってマックスを前に手を握り返した。

 何故かマックスの顔が赤くなる。


「これからはジェフリーと喧嘩しないで仲良くするってことね!約束よ!」


 私が満面の笑顔でそう言うと、マックスは私の手を離してムンクの叫びのような顔になった。

 

「あれ?私、何か間違えた?」


 フラフラとジェフリーにもたれ掛かるマックスを見ているとジェニーが呆れたように私を後ろから抱き締めた。


「シル、あんた残酷ね」

「何で?」

「もしかして、気がついてない?今のマックスのプロポーズよ?」


 え?

 私は固まる。

 プロポーズ?

 誰が誰に?

 私が首を傾げているとジェニーがため息をつく。

  

「だから、マックスがシルにプロポーズしたのよ。わかる?」

「えええええ!?」


 私は驚いて叫んだ。

 ジェニーは「あちゃー」と頭を押さえる。

 私はオロオロとマックスを見るとすでに廃人と化していた。


「それで?プロポーズと分かってからのシルの返事は?って、その感じだと脈なしか……」


 ジェニーが御愁傷様とマックスに手を合わせた。

 するとタイミングを見計らったかのようにミートさんが奥から顔を出した。


「ミートさん!」

「店長!」

「おや、何か面白い話をしているね」


 そう言ってミートさんはバチンとウインクでないウインクを私にした。

 多分、ここは任せろって事なんだろうけど……。その前にミートさんのウインクはウインクになってないって誰か教えてあげた方がいいんじゃなかろうか……。


「ほらマックス、フラレたくらいで落ち込んでる暇はないよ!明日からお前たち二人でこの店を支えるんだからね!」

「!?」


 ミートさんの言葉でマックスが一瞬で現実に戻ってきた。ジェフリーも顔つきが変わっている。

 ジェニーと私は互いに顔を見合せ三人見た。


「明日の王宮へはロジュアと行くことにしたよ」

「ロジュアと?」


 ジェフリーの声が明らかに低くなった。

 マックスは何も言わないけれど、明らかに納得がいかない顔でミートさんを見ている。

 

「店長、二人とロジュアを比べたらどう見ても二人の方が腕が上でしょ!!」


 ジェニーの言葉を聞いてミートさんはニヤリと笑った。

 そしてマックスの頭を「だからだよ」と言いながらガシガシと撫でた。


「この二人の方がどう見てもロジュアより数段上だ。だからこそ店を守れるだけの力がある。アタシはそう思ってる」


 ミートさんの言葉に私は納得した。

  

「確かに、ロジュアにこの店は守れないわよね。私がミートさんの立場だとしたらそうするわ」

「シル、貴女までそんなこというの!?」

「でも、ジェニーもそう思うでしょ?」

「……っ」


 ジェニーは私の問いかけに言葉を詰まらせた。

 ジェニーもわかっているのだ。ロジュアにはこのお店を切り盛りする能力はないと。

 でも、どこかで納得できないのだろう。王宮に行くチャンスなど、一生にそう何回もあることではない。

 だから一番いいのはロジュアに店を任せてマックスとジェフリーの二人がミートさんについていくことなのだ。

 何だかんだ言ってジェニーはマックスとジェフリーを応援しているのだ。


「ミートさん、逆に明日1日お休みにして、二人を連れていくのは無理なんですか?」


 私は思いきって提案してみた。

 確かに今日ここを離れるけれど、このままでは目覚めが悪いのだ。

  

「それが出来たら苦労しないんだけどね」


 ミートさんはバサッとメモの束をカウンターに置いた。

 ジェフリーがそっと束に手を伸ばして内容を見る。すると彼が目を見開いた。


「これ、注文書だ……」

「え?これ全部!?」

「マジか?」


 私達はメモの束を奪うように覗き込みメモをパラパラとめくりながら見た。

 そこには確かにパンの注文がぎっしりと書いてあった。


「こんなに注文が来てるなら店を休む訳にはいかないだろ?」

「私の……、せいだ」

「え?ジェニー?」


 ジェニーが真っ青な顔をしてフラフラと後ろへ下がる。

 そんなジェニーをジェフリーが支えた。


「私が、マールさんに店長が王宮に呼ばれたって話したからこんなことに……」

「バカ!これお前のせいじゃない。気にするな!」

「でも!私のせいで二人の夢が!!」


 ジェニーが叫んだ時だった。

 さっきと同じように何かが叩かれる音がした。

 マックスがカウンターを殴ったのだ。

 ミートさん以外の皆が驚いてマックスを見る。


「ごちゃごちゃ言ってても仕方がねーだろうが!」

「!?」

「俺達が優先すべきは俺達のパンを楽しみにしている客だ!店長が居ないなら俺とジェフリーでこの店の味を守るしかねえ!」


 ミートさんはマックスの言葉を聞いて満足そうに頷いている。


「ジェニー!」

「っ!」

「明日はシルがいない!責任持って死ぬ気で店回せ!俺()が店長に負けないパンを作ってやる!」

「……、うん!」

「心配いらない。俺とマックスがいれば問題ない」

「ありがとう。ジェフリー」


 いい感じに場が和んだ所でミートさんが手をパンパンと鳴らした。

 当然皆の視線がミートさんに集まる。


「いい感じにまとまった所でだ。シルはそろそろ出発の時間じゃないのかい?」

「!」


 私は慌ててお店の中にある時計を見た。

 時刻はもう夕刻を指している。


「ジャイル行きの馬車が無くなる前にここを出ないともう一泊することになるよ?」


 そう言ってミートさんは私の鞄と大きい包みの紙袋を一つ手渡してくれた。


「ミートさん、これは?」

「アタシのパンだよ!帰り道に食べていきな!ジャイル国でも宣伝しておくれ!」

「店長、ジャイル国まで三日はかかるんですから、それまで持っていたらカビが生えちゃいますよ!」

「そ、そうかい?まあ、国まで持たなくてもこれだけアタシのパンを食べればこの味を忘れる事はないだろう!」


 ジェニーに突っ込まれたことを誤魔化す様に話すミートさんが何となくおかしくて、クスクス笑うと皆も笑った。


「さあ、シルの新たな門出を皆で見送るよ!」

「はい!」


 ミートさんの掛け声と共に皆で店の外へ出る。

 正直言うと改まって見送られるのは気恥ずかしい。けれど断れる雰囲気じゃないので私は諦める。


「体に気を付けてな!」

「また来いよ!」

「大丈夫、店のことは任せとけ!」

「元気でね!」

「皆ありがとう。今日までの一年半お世話になりました!!」


 私は深々と皆にお辞儀をした

そして、クルリと背を向け歩き出す。

 後ろで皆がエールを送ってくれる声が聞こえた。


 相性最悪の乙女ゲームに転生して不安がないと言えば嘘になる。

 でも、ミートさん達の様な人達との出会いなら大歓迎だ。

 そんな事を考えながら私は歩いた。

 この時の私はまだ気がついていないかった。

 乙女ゲームを甘く見すぎていたことを後悔をするカウントダウンが既に始まっていたと言うことに……――。

長いのに読んで頂きありがとうございます!

ジェニー、マックス、ジェフリーのトリオをどうしても書きたくて書きました

本当はもう少し短くあっさりするつもりだったのですが、彼らが自由奔放すぎて大変でした

何度も書き直ししてここに至ります(それでもかなり目立ってる気がする……)

次回も良ければお付き合いください!


追記

少し訂正と加筆をしました。

基本は変わっていませんのでご安心ください。

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