自己紹介から始めよう!
閲覧ありがとうございます!
楽しんでいただければと思います。
「じゃあまずは自己紹介をしよう!名前、年齢、呼び名と、それから一言何か言う感じでさ」
何故今さら自己紹介?しかも年齢とか呼び名とかいる?
アンリ様の言葉にこの場にいる全員が呆然とし、固まった。
その沈黙を破るようにアルフィード様はため息をつく。それはまるで考えていても仕方がないといわんばかりだった。
「アルフィード・キルス・フォルゼリア、年は21。呼び名は好きに呼べばいい。以上だ」
「仕方がありませんね。私はサーガスト・クラウン。年は28です。アルフィード様の側近をしています。気軽にサーガとお呼びください」
「さあ、次はシルヴィア嬢の番だよ」
アンリ様は私を見てにっこりと笑った。
今更慌てても仕方がない。
メイドのアンリがまさかアルフィード様の友人でしかも男性だったなんてまだ信じられないけど、マリエッタが嘘をつくわけもないしアルフィード様も否定していないのだからここは大人しく従うしかない。
「私はシルヴィア・キー・グレイスです。年は18で、呼び名は特に拘ったものはありません。どうぞ呼びやすい様にお呼びください」
「じゃあ、シルヴィアっていう名前だから、ヴィーちゃんね」
アンリ様が待ってました!と言わんばかりに発言する。
勿論「嫌です」とは言えない。
今自由に呼んでいいって言ったのはこちらだし、変な呼び名じゃないからだ。
「どうぞ、アンリ様のご自由に」
「やった!」
本気で嬉しそうな姿を見て流石攻略キャラクターの一人だと関心した。
目があってしまったので、誤魔化す為に社交辞令の笑顔をアンリ様に向ける。
するとアンリ様は私の手を取り軽く口づけをした。
「よろしくね、ヴィーちゃん!」
うわ、アンリ様って見た目以上に軽いかも……。
私がちょっと引き気味に笑っているとパンと誰かに手を払われる。
「アンリ、近い」
手を払ったのはアルフィード様だった。
アンリ様は手を擦りながらアルフィード様に冷たい目線を送る。
「不機嫌みたいだけど、払うことないんじゃない?」
「悪いな、目障りな虫がついていたんだ」
「ふーん、虫ねえ……」
険悪な雰囲気が漂う中、マリエッタがわざとらしい咳払いをした。
二人の視線がマリエッタに注がれる。
「お取り込み中申し訳ございません。わたくしの自己紹介をしてもよろしいでしょうか?」
威圧的に微笑むマリエッタに二人は無言で頷いた。
この中で一番怖いのは恐らくマリエッタだ。
「マリエッタ・グレード。25歳です。お嬢様の侍女をしております。それから……」
マリエッタの周りがヒュウーっと寒くなる。
「先ほどは虫という事で大目に見ますが、今後は不用意にお嬢様に触れないようにお願いいたします」
「ええ、何で俺だけが悪いみたいになってるの?俺、お姉さんに何もしてないんだけどー?」
「そういう軽いところがダメなんですよ……」
アンリ様の言葉にマリエッタは眉毛をピクピク震わせる。
アンリ様は誤魔化す様に手を再び叩いた。
「さ、全員終わったし最後は言い出しっぺの俺の番だね!」
アンリ様はマリエッタに敵わない。その場にいる誰もがそう思った。
「俺はアンリ・ジャンク。年は25歳!こんな格好だけどれっきとした男だよ。アンリって気軽に呼んでね!」
パチンとウインクをし、私を見る。
「そして、可愛い彼女絶賛募集中!」
……、気まずい。
どのくらい気まずいかというと、漫才で自信満々に出したネタが滑ったくらいに気まずい。
「アンリ、その格好でそれはどうかと思いますよ?」
サーガさんが哀れそうな顔でアンリ様を見て肩に手を置いた。
そうよね、メイド姿の女性にしか見えない人から「彼女絶賛募集中!」と言われても困るだけだ。
それにしてもアンリ様とサーガさんのやり取りを見てると、どことなくアンリ様の位置がマリエッタに被る。もしかしたらアンリ様がマリエッタと同い年だからかもしれない。
私がそんな事を考えた時、違和感を感じた。
あれ?私、今何を思った?
マリエッタとアンリ様が同い年?
同い年……。と言うことは……。
私はマリエッタの顔を見た。
マリエッタは私の視線に気がついて「どうかしましたか?」とにっこりと笑う。
私の顔から血の気が引いた。
「マリエッタとアンリ様が同い年!?嘘!信じられない!!」
気がついたら叫んでいた。
皆が驚いて私の方を見るのがわかる。
勿論マリエッタも驚いている。
「お嬢様、今何と……?」
「ア、アンリ様と貴女が同い年って……」
「まあ、お嬢様ったらご冗談がお上手ですね」
いやいや、こんな時に冗談を言う私じゃないから。
「あ、そうか!お姉さんと俺は同い年なのか!」
アンリ様の言葉にピシッとマリエッタが固まったのがわかった。
それを見たアルフィード様とサーガさんはアンリ様を呆れた顔で見る。
「アンリ、お前この反応が見たくて自己紹介をしようと言ったのか?」
「何て悪趣味な……」
「んなわけないでしょ!流石にこのリアクションは俺でも傷つくからね!」
それはしょうがない。
最早これは本当に詐欺レベルと言ってもいい。
年齢を十代と詐称したって誰も疑わない。むしろ25歳と言うのが信じられない。
「25歳で女装趣味……、変態ですね」
「お姉さん、そこ違うから!これは変装!へ・ん・そ・う!」
「いや、アンリは変態でしょう?」
「ちっがーう!サーガそこは否定して!」
私は三人のやり取りを見つつ、改めてアンリ様をじっと見た。
年齢もだけど、姿だって男性と言われてもピンとこない。
「アンリ様は本当に男なのかしら?」
「ぶっ!」
私の呟きが聞こえたようでアルフィード様が吹き出した。
「ひどっ!ヴィーちゃんが一番酷い!!」
あら。アンリ様にも聞こえてたのね……。
「だってその姿があまりにも違和感ありませんし……」
そう言うとサーガさんが眼鏡を光らせた。
「流石シルヴィア様。突っ込む所が違いますね。私も見習わなければ」
サーガさんの言葉にマリエッタは「当然です」と鼻高く答える。
ああ二人ともどや顔してるけどそんな事をしたらアンリ様が拗ね……。
「もう!いいよ!俺拗ねちゃうからね!」
ほら拗ねた……。
「こうなったらヴィーちゃんに『アンリくん♡』って可愛く呼ばれない限り俺は会議に参加しないから!」
「……、はい?」
何でそうなるの?
私の発言が原因だから?
でもそれって私だけのせい?
「何を勝手な事を言ってるんですか。真面目にしなさい」
「俺はいつでも真面目だよ!それに俺だってヴィーちゃんって呼んでるんだから、俺を『アンリくん♡』って呼んでくれたっていいじゃん!」
私は顔をひきつかせた。
いくらなんでもそれは言えない。
アンリ様がアルフィード様の友人だからってのもあるけど、それ以上に私とアンリ様はそこまで親しい仲じゃない。
でもこのまま話が脱線するのは良くないし……。
私が悩んでいると頭をポンと優しく撫でられる。
顔を上げるとアルフィード様が私を見ていた。
その顔に胸がドキンと鳴る。
「大丈夫だ」
たった一言。
それだけなのにすごく安心するのは何でだろう。
「うわ、アル!何その点数稼ぎ!ずるい!」
アンリ様の言葉にアルフィード様の顔が険しくなった。
「シルヴィア嬢は俺の婚約者だ。お前の好き勝手はさせない」
「え?別れたんじゃないの?」
「そんなもの、嘘に決まっているだろう」
アンリ様は「ふーん……」と疑いの眼差しをするけれど、サーガさんが「アルフィード様の仰る通りです」と肯定する。
更には眼鏡がこうなると思っていましたと語っている。
「ねえヴィーちゃん、俺に乗り換える気はない?」
「はい?」
「だって、アルは不器用だし、言葉足らずだし、これからもきっとヴィーちゃんを傷つけるよ?」
アンリ様の言葉にアルフィード様は舌打ちをした。多分昼間の事を気にしてるんだろう。
そして今まで黙っていたサーガさんが頷く。
「確かに、今後も同じことが起こらないとは断言できませんね」
サーガさん、そこはアルフィード様の味方をするべきでは?
「でしょ?その点俺は絶対にヴィーちゃんを傷つけない。俺はこう見えて想えば一途だからね♡」
そう言ってアンリ様はウインクをしながら私の手を握った。
マリエッタにすぐ叩かれるけど、アンリ様は私から視線を外さない。
「それにさ、俺に乗り換えたら俺が正真正銘のいい男だってしっかりみせてあげるよ?」
今度は触れずにとびきり素敵な笑顔を見せてくれた。けれど残念かな、私の心はときめかなかった。綺麗とは思ったけどね。
別にアンリ様が嫌いというわけじゃない。でも、ダメだと私の心が叫んでいる。
この感じは体験したことがある。そう、前世で……。
「アンリ様、申し訳ございません。私はアンリ様の気持ちに答えることはできませんわ」
「えー、どうして?アルの婚約者だから?」
「ええ、その通りですわ」
そういってアルフィード様の腕に手を回した。
アルフィード様がビクッと反応する。
思わずやり過ぎたかしらとアルフィード様を見た。
するとアルフィード様は頬と耳が真っ赤になっていた。
「アルフィード様、もしかして照れてます?」
「……、悪いか?」
ばつが悪そうに言うアルフィード様。
「言うのは簡単だが、言われるのは来るものがあるな……」
私はアルフィード様の顔を見て自分も熱くなる。
そう、今初めて自らアルフィード様の婚約者だと宣言したのだ。
これがどういう意味なのかわからない年齢じゃない。
つまり、合意の上の婚約。
場所が場所ならトントン拍子に結婚式まで到達してしまう。
「会議、再開しようか……」
アンリ様がそう言ってから「これじゃ俺ただの当て馬じゃん」と呟いたのを私は聞き逃さなかった。
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