パニック!そしてお約束
閲覧ありがとうございます。
シルヴィア視点に戻ります。
あっちこっち視点が変わってすみません。
転送された先。そこは誰かの寝室のようだった。
私とマリエッタは辺りを見回す。
別に何かの罠だったり、誰かが待ち構えているわけではないみたいで安心する。
「このベッド、長い間使われてませんね」
「ということは、ここは空き部屋の寝室ってこと?」
「いえ、この装飾からいってそんなはずは……」
マリエッタが言いかけた時だった。
ガチャリと扉が開く音がする。二人して警戒をした。
「やはり、先ほどの爆発音は貴女の部屋でしたか、シルヴィア嬢」
「その声は……」
そこにいたのはクリーム色の髪、青色の瞳のアルフィード様だった。
ちょっと複雑そうだけどにっこりと笑い、私とマリエッタを見ている。
「アルフィード様!?何故ここに?」
「何故って、ここは俺の寝室だから」
アルフィード様がそう言ったのとほぼ同時にマリエッタが前に出てアルフィード様の頬を叩いた。
「マリエッタ!」
私は慌ててマリエッタをアルフィード様から引き離すが、マリエッタはアルフィード様を睨んでいる。
「お嬢様、無礼をお許しください。ですが未婚の女性の部屋に勝手に転送魔法陣を施すだけでなく、転送先が殿方の寝室など許せません!!これでは第三王子と同じです!見損ないました!」
確かにこの状況ではマリエッタが怒るのも無理はないかもしれない。
しかもあの転送魔法陣は片道だった。ここがどこだかわかっても引き返せないのだ。
でも私にはアルフィード様がマリエッタが言うようにバカロードと同じような事をしようとしたとは思えない。
だってそれならマリエッタが通れたのもおかしいし、もっと待ち構えてる感じがするはずだ。
でもそれはこの部屋からは感じない。
あるのは使われていない感じがするだけ。
私はマリエッタから手を離して叩かれた頬を押さえるアルフィード様に近づいた。
「お嬢様!?」
マリエッタが止めようとしたけれど、私は「大丈夫」と答える。
そうよ。そもそもアルフィード様が不意打ちとは言えマリエッタに黙って叩かれるはずがないわ。
この人はマリエッタの平手打ちを甘んじて受けた。きっとこうなることを予想していたのよ。
私がそっとアルフィード様の頬に触れるとビクリとアルフィード様は身体を一瞬強ばらせた。回復魔法をかけてみるけれど、頬の赤さは消えることがない。
下心があるならばそんな反応はしないんじゃないかな。
それに、この感じは初めて庭で会った時のようだ。
「アルフィード様、貴方はどうしてそんなに一人で抱え込むのですか?」
その言葉にアルフィード様は目を丸くした。
「お嬢様、何故そこまでアルフィード様を信頼なさるのですか?」
アルフィード様の答えより先にマリエッタが口を開いた。私は笑顔で振り返る。
「あの転送魔法陣は一方通行な上に私でしか発動しないっていったでしょう?」
「は、はい……。ですからアルフィード様はお嬢様を……」
「違う違う。その考えが間違ってるのよ」
私が言うことがわからないらしく、マリエッタは首を傾げた。
「あれだと私がいつここに来るかアルフィード様に予想はできないでしょ?」
「ええ、まあ……」
「朝でも昼でもそれこそ真夜中でも、私が望んだ時に来ることになるじゃない?」
「確かに……」
「もしアルフィード様がバカロードと同じ事思考の持ち主なら私からの一方通行じゃなくて、アルフィード様から一方通行にするんじゃない?」
マリエッタは「あっ!」と手を口に当てて叫んだ。
そう。アルフィード様がそういう意味であの魔法陣を置いていったのなら、アルフィード様からの一方通行にして私が寝ている間にくればいい。
ううん、むしろバレないようにしておくべきよ。
バカロードは他の事は一切ダメだけど、そういうことだけは頭の回路が繋がる。
アルフィード様がそんなバカロードより劣るなんてあり得ない。
「そしてこの部屋は使われてる感じが全くないのはきっとここには他にも部屋があって……」
「それは違う。ここは滞在城だ。作りは他の部屋とそう変わらない。ここが使われていないのは俺がベッドで眠る生活をしていないだけだ」
私の言葉を遮ったその言葉に驚いてアルフィード様を見た。
「それってどういうことですか?」
「そのままの意味だが?正直日々忙しくて寝るのも惜しい。だが寝ないわけにはいかない。だから俺はベッドなど遣わず主にソファーで寝て生活しているんだ」
それを聞いた私は口をパクパクさせた。
何それ……。どっかのブラック企業に勤めるサラリーマンじゃないのよ?
って違う。
そもそもアルフィード様は今留学中なのに忙しくてソファーで寝てるって、どんな状況よ!
私はアルフィード様に詰め寄った。
「そんな生活習慣を見てサーガさんは何も言わないのですか?」
「始めはうるさかったが最近は何も言わないな。それよりも仕事を片付けないといけないから、そっちの心配をしている」
アルフィード様の言葉に私は天を仰いだ。
そうだ、忘れていた。
ジャイル国の国王含め、王族はお妃様以外役立たずだった……。
「心配しなくとも、我が国には優秀な宰相とその見習い。そして秘密の姫君がいるからな、ここ数年は少しマシになったかな」
宰相とその見習いというのは、お父様とケインお兄様の事ね。
「ですが、秘密の姫君って?」
「俺の目の前に居るだろう?」
アルフィード様はにっこりと笑いながら私を見た。私は顔を引き攣らせながら「それは、ありがとうございます」と一応お礼を言った。
私は令嬢であってお姫様じゃないんだけど、突っ込むのはやめとこう。
「さてと、こんなところで立ち話をしても仕方がない。こちらへ来て何があったか話してくれ。俺も聞きたいことがある」
「わ、わかりました」
私はマリエッタを手招きし、アルフィード様の後に続いた。
そしてふと疑問に思った事を聞いてみる。
「あの……、もしアルフィード様がベッドで眠れる様になったらどうしますか?」
アルフィード様はピタリと動きを止める。
きっと自分がどうなるのか想像しているのだろう。
「何も考えずにずっと寝ていたい……」
そう答えたアルフィード様に、私は絶対にこの人をベッドで寝かせてあげたいと思った。
「あまり無理をなさらないでくださいね」
「何故?」
振り返られ、真顔で聞かれる。
私は返事に困った。
どうしよう。社交辞令のつもりだったけど、侯爵令嬢の私が王子様を心配するのって失礼だったかな?
じっとこちらを見るアルフィード様にドキドキする。
この顔は何か答えを求めている顔よね?
えっと、おかしくない答えって今の私には一つしかない。
「何故って……。私達はまだ婚約者ですし、心配くらいさせてください……」
「!?」
アルフィード様が顔を真っ赤にして固まった。
完全に事故だけど、マリエッタの話を聞いた限りではそう言う事になるはずだし、おかしくはないわよね?
それにもう手元にはないから手続きをどうしても進めるにはもう一度アルフィード様に頼むしかないし、誤魔化しても意味がない。早めに言っておくのが吉というのが私の結論だ。
それにしてもこのアルフィード様の顔が真っ赤なのは怒ってる?
どうしよう謝った方がいい?
そうよね本文をちゃんと読んでなくて勝手に処分しちゃったわけだし……。
「あの、アルフィード様、申し訳……っ!?」
謝罪しようとしたらアルフィード様に抱き締められて言葉が引っ込んでしまった。
そしてアルフィード様の良い香りがして心臓がバクバク、ドキドキとうるさくなる。
「よかった……」
へ?
よかった?
「幻滅されると思ってた……」
「げ、幻滅!?どうしてですか?」
「もしかして、読んでない?」
耳元で不安そうな声を出したアルフィード様に私の顔が熱くなる。
これ、結構ヤバいかも……。
「い、いえ。読みましたよ。『黒薔薇のカード』のことも、『騎士団長』のことも……。そして婚約を破棄をしようとした理由も……」
ど、どうしよう。
顔が熱い。心臓の音がヤバい!
話題を、話題を変えなくちゃ。
「あの、アルフィード様は私を守ろうとしてくださったんですよね?アルフィード様こそ何故そこまでしてくださるのですか?」
するとアルフィード様は耳まで真っ赤になって私から離れる。
あ、これは怒りじゃなくてもしかしてアルフィード様は照れてる?
そう思ったら胸がキュンとして、アルフィード様がとても可愛らしく見えてくる。
うわあ、こんな気持ちは初めて……。
ドキドキしながらアルフィード様を見ているとアルフィード様の顔が近づいてきた。
「シルヴィア嬢、俺は……」
アルフィード様が私に何か言いかけたその時だった。
扉が豪快に開いてアルフィード様は私の肩に頭を乗せる形で突っ伏した。
何、このタイミングで誰かが来るとかお約束過ぎませんか?
私は熱が一気に冷めていくのがわかった。
読んで頂きありがとうございます。
また、ブックマークもありがとうございます。
やっとこさアルフィードとシルヴィアが会いました。
さてさて、お約束でやって来たのは誰でしょうか。
それは次回のお楽しみです。
良ければまた次回もよろしくお願いします。