期待と不安と……
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今回はアルフィード視点です。
『アル!大変だよ!執事長が死んだ!それからリリィとマリーの姿が見えないんだ!』
そう言って部屋に入ってきたのはメイドのアンリだった。
俺とサーガは顔を見合わせた。
そして先に動いたのはサーガだ。
「アンリ、言葉遣いに気を付けなさい。今の貴方はただのメイドです」
「うっさいな!わかってるよ!」
「わかってないじゃないですか!」
スパーンと叩かれるアンリ。
痛そうだ。
「ってー!何すんだよこの堅物!」
「こ・と・ば・づ・か・い」
サーガの殺気がアンリを縮ませる。
全く、何してんだか……。
このメイドはアンリ・ジャンクという。
実は俺の仲間で、こっそりメイドに紛れて俺達とは別で動いてもらっている。
「それで、何故リリィから目を離したんですか?」
「あのね、いくらなんでも四六時中側にいられるわけないでしょうが!」
「それをやるのが貴方の仕事です!」
「二人とも止めろって……」
そんなことを話していると、どこからか爆発音が聞こえ、城が少し揺れる。
「何!?この緊急事態に!」
「アルフィード様!いかが致しますか?」
二人の視線が俺に注がれた。
こう言うときだけ息が合うんだからやっていられない。
「サーガは執事長の死の確認。アンリは爆発した所へ向かってくれ」
「アルは?」
「俺はここにいる」
「何で!?まさか自分だけ楽しようとしてる!?」
何でそうなるんだ。
俺がそう言う前にサーガがアンリの頭をまた叩いた。
「ってー!」
「アルフィード様はアルフィード様の考えがあるんです。それに逆らうつもりですか?」
「別に逆らうとかじゃないだろ!疑問だよ疑問!そもそも俺の方がアルより年上なのにこき使われるってどうなわけ!?」
「貴方の意見を尊重するならば、この中では私が一番年上にあたるのですが?」
「だーかーらー。二人とも止めろ!」
全くこの二人の仲の悪さだけは何とかならないものか……。
俺は2人の間に割って入りアンリの方を向いた。
「アンリ、俺がすぐに動いたら余計にパニックになるのはわかるだろ?」
「もうパニックならなってるよ。執事長が死んだ時点でね」
アンリが開き直る様に言った。
これが廊下で出会ったアンリと同一人物と誰が思うだろうか。
はっきり、言おう。誰も思わない。
「それでも俺はここから動けない。頼むから行ってくれ」
俺の言葉にアンリは俺をじっと見てから肩を浮かした。
「仕方ないなあ、わかったよ。報告したいこともあるけれど、我らが君主は今別の事で頭がいっぱいらしいし、後でもっかい報告にくるよ」
「報告とはリリィとマリーの件ですか?」
サーガが眉間にシワを寄せながらアンリに聞いた。
「そ!二人の件と、後執事長の件ね」
アンリは鼻を鳴らして手を頭の後ろで組む。
アンリの姿を見て、サーガの顔が引きつる理由がわからなくもないと俺は理解した。
普通のメイドがこんな姿をするわけがないからだ。
「アンリ」
「んー?」
「いくらここが俺の部屋だからと言ってもその砕けすぎなのはよくない」
「う……」
「今のアンリは俺の『友人のアンリ』ではなく、滞在城の『メイドのアンリ』のはずだろ?」
俺が静かにそう言うとアンリは「ふー……」と目を閉じながら息を吐いた。
サーガは「初めからそうしておけばよかったのです」と眼鏡を光らせながら呟く。
そしてアンリが顔を上げるとそこには『メイドのアンリ』がいた。
「わかりましたわ、アルフィード様。以後気をつけます。ご無礼をお許しください」
そう言うとアンリは笑みを浮かべる。
この変わり様、アンリの素を知ってるだけに笑いそ……、いや、何とも言えない気持ちになるな。
「ではアンリ、行きますよ」
そう言って二人は部屋を出ていった。
一人残された俺は息をついた。
執事長のこともだが、爆発が起きたのであれば騎士団も動ける。リュークがいないのが心許ないが、それでも少しは状況が変わるだろう。
「シルヴィア嬢が滞在城に来てから急速に事が動いている気がするな」
俺は力なく笑った。
別に彼女が元凶等とは思わない。むしろ彼女が謎を解く鍵だ。
そう思いながら俺は自然と寝室の方へ視線を運ぶ。
もし、さっきの爆発音の先がシルヴィア嬢の部屋だったら、彼女はきっとあの魔法陣を使ってここに来る。
本来はそのために用意をしていたわけじゃないけれど、こう言う形で役立つのは予想外の嬉しさだ。
「後はあの書類をシルヴィア嬢がどうしているか……、だな」
最後に付け足した一文。
もし、彼女が俺に少しでも興味があれば真相を知った上でその文に従い書類を処分してくれるだろう。逆に興味の欠片もなかったら……。
漠然とした不安が俺に押し寄せる。
俺はそれを薙ぎ払うように首を横に振る。
シルヴィア嬢が容姿で動く人間じゃない事は知っている。
勿論地位に揺れる様な女性じゃないのもわかっている。
6年前、君に会ったあの日から俺の心は君に奪われた。
君と肩を並べたくて必死に努力した。
「こんな気持ちになるなら恋文風に書けばよかったな……」
俺は苦笑いをする。
あの小細工をした書類には『謝罪』と『言い訳』しか書いていない。
「そこから導き出される答えは幻滅しかないじゃないか……」
そう呟いた時、俺の寝室から光が漏れた。
魔法が発動した証拠だ。
俺はそっと扉に手をかける。
そこにあるのは期待と不安。
俺は覚悟を決めて扉を開けた――。
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