思い出した!
お待たせしました。
今回はシルヴィア視点です。
「何てことなの……」
私は婚約解消の事についての書類を見て唖然としていた。
魔力をこの用紙に注いだ途端、書類が光だし全く違う文字が浮かび上がってきたのだ。
ううん、驚くことはそこじゃない。書いてある内容よ。
アルフィード様が私と婚約を解消した理由がそこにはあった。
私は書類を握りしめ頭を抱える。
「お嬢様、大丈夫ですか?もしかして具合が悪いのですか?」
マリエッタが心配そうに私を見ていた。
私は首を横に振る。
駄目だ。マリエッタがいたら気になって考えられない。
「マリエッタ、ごめん。少し一人にしてくれる?」
「ですが……」
マリエッタはちらりと魔法陣の方を見た。
「心配しないで。あれはここからの一方通行って言ったでしょ?」
「わかってますけど……」
「心配しなくても勝手に使ったりしないわ。考え事を一人でしたいだけ。ね?お願い」
マリエッタは私のお願いに弱い。
私の胸の前で手を合わせてするお願いポーズにマリエッタは軽いため息をついた。
「わかりました。その代わり、何かあったらすぐに呼んでくださいね」
「ありがとう。マリエッタ!」
私のお礼にマリエッタは「今回だけですよ」と答え寝室から出ていった。
私はベッドに横になる。
正直なところ頭の中が混乱し過ぎて今にもパンクしそうだった。
「そう言えば昨日戻ったら頭の中をまとめようと思ってたのに、それどころじゃなくてできてなかったわね」
私は横になったまま考え始める――。
この世界は前世の親友が大好きだった『ときめき♡きっと見つかる私だけの王子様』という乙女ゲームの世界。
内容は主人公が色んな王子様と様々な困難に立ち向かいながら恋をし、結ばれるという言わば王道乙女ゲームだ。
因みにこのゲーム『初期版』と『完全版』の二種類があり、
『初期版』では庶民の主人公、『完全版』では世界観は同じで庶民の主人公と貴族の主人公の二部構成となっている。
親友が夢中になっていたのは『完全版』の方だ。
因みに、両方とも病院から出られない親友の代わりに私が買いに行ったのは今や懐かしい思い出だ。
そう言えば、親友が夢中になりすぎておばさんに見つかった時は大変だったなあ……。
親友からの頼まれ事に関する費用はちゃんと言うように!って怒られたっけ……。
私は当時の事を思い出してクスクス笑った。
「これもアルフィード様に眠らされたお陰ね」
そう、これは夢の中で前世の私に会ったから思い出した記憶。役には立たないかもしれないけど、心が暖まる。
「ま、そんなことを思い出したところで私がどんなキャラクターだったのかは相変わらずわからないんだけど」
はあ……。とため息をついた。
ここまで思い出しているのに『ベールの女』などという言葉は思い出せていないし、私が居たような影すら思い出せない。
そもそも全て親友からの知識だしプレイしていなかったのだから覚えていたら奇跡に近いかもしれない。
そしてもう一つ思い出せない言葉があった。
「『黒薔薇のカード』……」
アルフィード様の元に届く予言めいた謎のカードだそうだけど、そんなストーリーなど親友から聞いたことがない。
それとも私が聞き流して記憶してないだけ?
んー……、あり得るから何とも言えない。
私はもう一度書類を読んだ。
見間違いではない。確かに『黒薔薇のカード』と書いてある。
そして私との婚約解消にはこのカードが関係していると記してあった。
実際、アルフィード様の騎士団の騎士団長が黒薔薇のカードの通り行方不明となり現在捜査中だそうだ。
騎士団長が行方不明ってただ事じゃない。
「んー、『助言のカード』っていう攻略のヒントみたいなのは主人公にはあった気がするけど、アルフィード様は男性で主人公じゃないし……」
そもそも、脅すような内容の事が書いてある時点で別物よね。
しかも名指しで私とアルフィード様が婚約を解消しないと私に関わる人の命がないとか、攻略ヒント以前の問題よ。
「そして気になるのは私と関わる者のこと。多分それってマリエッタのことよね……」
計り知れない魔力を持つアルフィード様の命を狙える人間がいるとは思えない。
サーガさんとは会ったばかりだし、そうなるとマリエッタ以外当てはまる人間はいない。
「マリエッタが絡んでるとなると、サーガさんも黙ってないわよね……」
おかしいとは思っていたのだ。
アルフィード様が改めて悪役令嬢の事を聞きに来たり、サーガさんが突然私に敵意丸出しで婚約破棄を遠回しに催促したり……。
おまけにアルフィード様は黙りを決め込んで喋らない。
つまり、私の答えは間違いじゃなかった。
でも、私だってわかっていれば泣いたりしなかったのに……。
そう思っていたら『こんな方法しか取ることができずにすまなかった』という言葉が目に入ってきた。
何もかもお見通しのようで何だか一人踊らされているようなのは何だか悔しい。
「私では貴方のお役には立てないのですか?」
私は書類を撫でながら呟いた。
マリエッタからアルフィード様のパートナーとして舞踏会に出なければならないと知った時は面倒だし悪役令嬢になりたくなくて嫌だった。
でも出会った時に心が揺れた。
実際アルフィード様は何もかも見透かしてる行動が多くて謎も多いけど、優しいし強い。
スキンシップも意外に多くて振り回されるけど、それでも嫌じゃない。
私はアルフィード様の力になりたい。
できれば隣で……。
「あの〜……。お嬢様、もうそろそろよろしいですか?」
マリエッタがノックをしたあと、そおっと扉を開けこちらを申し訳なさそうに見ていた。
その顔はまるで主人を恋しく思う犬のようだ。
せっかくの美女が何だか哀れに思える。
私はマリエッタを手招きする。
「ごめんね、ありがとう」
「では、お考えはまとまりましたか?」
「んー、まあ、それなりに……」
私の答えにマリエッタは「お邪魔でしたか?」と再び部屋を出ていこうとしたけれど、私はそれを止める。
この書類に書かれていることをマリエッタにも伝えておかなければならない。
「マリエッタ」
「はい、なんですか?」
「サーガさんと別れちゃだめよ」
「へ!?」
マリエッタの目が見開いた。
私もあれ?と首をひねった。
何で第一声がそれなんだろう。ほら、マリエッタが困っている。
私は咳払いをして誤魔化し、マリエッタに書類の事を話始める。
「ここにね、書いてあるのよ。アルフィード様が脅迫まがいの謎のカードを受けていると……」
「脅迫!?アルフィード様が!?」
「ええ。だからこの婚約破棄もアルフィード様の本心じゃない。貴女を守るための行動よ」
「わ、私を守るためのですか?」
驚くマリエッタに私は書かれていた事をざっとかいつまんで説明した。
マリエッタは信じられないという顔をしつつも、最後には何か思い当たる節があったようで納得したような表情になった。
「だからね、サーガさんは貴女を守るために私に喧嘩をふっかけたのよ。自ら悪役を買って出たのよ」
私の言葉にマリエッタは「あのバカ……」と頬を赤らめながら小さく呟いたのがわかった。
うん、きっとこれでこの二人は大丈夫。
サーガさんとマリエッタ、ちょっと意外だけど外見は美男美女でお似合いだし、昔からお互いに意識していたのなら尚更この縁は強くしておくべきだわ。
そう思った時、脳裏にあることが浮かんだ。親友が私にゲームがうまくいかないからと画面を見せた所だ。
『ねー見てよ!このキャラ顔がめっちゃ格好いいんだけどね、性格が曲がりすぎなのよ!!攻略が難しいの!』
親友が指す指の先。テレビの画面に表示されているサーガさん。
「お嬢様?」
突然の私の顔色の変化にマリエッタが首を傾げる。
そうだ、何故今まで忘れていたのだろう。
初めてサーガさんを見たときに思ったあの違和感。
どこかで見たようなあの疑問。
あれはこういうことだったのだ。
そう、サーガさんは攻略キャラクターの一人だったのだ――。
読んで頂き、ありがとうございます。
今回は早くに更新できてよかったです。
ブックマークもありがとうございます!
良ければまた次回もよろしくお願いします。
 




