禁断の魔法
更新遅くなりすみません。
間が開いてしまいましたが、今回はアルフィード視点です。
お楽しみ頂けたらと思います。
「シルヴィア様は大丈夫でしょうか?」
部屋に戻ってきたサーガは俺に珈琲を淹れながら口を開いた。
「そんなに深い魔法はかけていない。そろそろ目覚めるはずだ」
普段から他人の事など気にかけないサーガがシルヴィア嬢を気にしている?
俺はサーガの言葉に違和感を覚えた。
「何やら変な誤解をしているようですけど、私はシルヴィア様が覚める云々の心配をしているわけではありませんよ」
ならば何故そんなことを言う?
俺はサーガの動きを目で追う。
珈琲を淹れる仕草、表情、いつものサーガと何も変わらない。
気のせいか?と思った次の瞬間、サーガが珈琲に何かを入れた。
あれは……、何だ?
「さあ、アルフィード様どうぞ」
何事も無かったかのように微笑みながらサーガは俺の目の前に珈琲を置いた。
これを素直に飲めるほど俺は馬鹿じゃないし、無知でもない。
普段入れないものを入れる。
サーガのこの行動は絶対におかしい。
まさか誰と入れ替わった?
だがそれにしては時間が短すぎるし、俺が全く気がつかないのはおかしい。
いや待てよ、そういえば魅了魔法に似たもので人の心を操ったり憑依するような魔法があったはずだ。
それならば短時間でも可能だ。
確かその魔法は……。
「どうかなさいましたか?」
考え込んだ俺を見て不思議に思ったのか、サーガが首を傾げながら俺の顔を覗き込んでいた。
俺はそんなサーガに悪寒を覚える。
間違いない、こいつはサーガじゃない。サーガはこんな顔は絶対にしない。
俺の中で疑いが確信へと変わる。
それと同時にある魔法を思い出す。外見はそのままに人格そのものを乗っ取る魔法。
禁断の魔法。
もし本当に禁断の魔法でサーガがおかしくなっているならばどこかにそれを起こす媒体があるはずだ。
仕方がない。こいつの気を引きつつ探るしかない。
「何故お前がシルヴィア嬢の心配をするのか理解できなくてな。まさか彼女に惚れたのか?」
俺の言葉にサーガは顔をひくつかせた。
否定をするようには見えない。
マリエッタの存在はどこへ行ったと突っ込みたいが、余計な情報を与える必要はない。
「どうした?脂汗が出ているぞ?」
「アルフィード様が変なことを仰るからです」
「それにしては随分と動揺しているようだが?」
「貴方がそんな目で私を見ていたなどとは思いませんでしたので……」
違うな。
俺は心の中で呟いた。
こいつはシルヴィア嬢に何かしらの感情を持っている。だから否定できないんだ。そしてこいつはサーガがマリエッタを想っていることを知らない。
記憶を読む術はないということか?それとも……。
「いつもなら気に入らない事なら即答で否定するだろう?何故しない」
「そんな気分ではないので……」
「お前は気分で答える奴じゃないだろう?」
ここに来てこいつの表情が初めて曇った。
焦りの表情が伺える。だが奴もただの馬鹿ではないらしい。
軽く笑い、俺を見た。
「アルフィード様はご冗談がお好きですね。何故私を疑う様な事を言うのでしょう?」
「疑う?俺はいつものお前らしくないと言っただけだが?」
俺の言葉にチッと舌打ちか聞こえた気がした。
舌打ちをしたいのはこっちだ。
「仕方がありませんね、これをご覧下さい」
彼はそう言って一枚の紙を俺の前に置いた。
いかにも怪しげな紙に俺は眉を寄せる。
しかもご丁寧に裏面だ。
俺を見て余裕が出てきたのかサーガの眼鏡が光る。
「これは裏面ではありませんよ。魔力を込めると文字が浮かぶ紙です。そう、貴方がシルヴィア様に渡したあの書類と同じものでございます」
確かに紙からは微かな魔力を感じる。
そしてこいつの言うとおりシルヴィア嬢、正式にはマリエッタに預けている婚約解消の書類にはこれと同じような小細工をしているが……。
「これはお前が作ったのか?」
「はい、見よう見まねですけど」
そんなことはできるはずがない。俺はあの書類を作っていた姿をサーガに見せてはいないのだから。
俺はチラリと机に置かれた紙を見る。
紙に魔力を込めれば字が浮かぶ……か。
俺の勘が正しければこいつは……。
「なあ、サーガ」
「何ですか?」
「今ここには俺とお前しかいない。勿論盗聴されないようにしてある。つまり、俺達の会話は外には聞こえない」
「……、それが何か?」
意味がわからないという顔で俺を見てくる。
俺はそれを見てニヤリと笑った。
「わからないか?こんな薄汚い紙をわざわざ俺に渡さなくても直接俺に話せばいいと言っているんだ。それとも、どうにかしてでもこの紙に俺の魔力を入れたいのか?」
「何を……っ」
反射的に後ろに下がったサーガを、俺は机を飛び越えて捕まえる。
そして紙に触れずに指を立てた。
「悪いが俺の友人の身体を返してもらおう」
「アルフィード様、何をするつもりですか、お止めください」
「止める?何故?」
「私は貴方の側近です!」
「俺の側近はお前じゃない。俺の側近はサーガスト・クラウン。ただ一人だ」
そう言って俺は炎の魔法を解き放つ。
サーガではなく、机の上に置いてある紙に向かって……。
「ぐあああああっ!」
サーガの身体から煙のようなものが出始め、苦しみ始めた。
俺はそんな姿を見下す様に見ていた。
「わざわざ自ら媒体を置いてくれるとはな。探す手間が省けたよ」
「お前っ、この魔法を知っていたのか!?」
「お前に教えてやる義理などない」
「くそっ!」
そう言って俺に襲いかかってきたが、俺もただ傍観していたわけじゃない。防御魔法をかけてあったので、サーガは俺に触れることなく吹っ飛んだ。
残念なのはサーガの身体故にダメージを与えられない事だ。
「くそっ!」
「俺は糞じゃない」
驚いた顔をして俺を見てくるので俺は特別サービスで名前を教えてやることにした。
「覚えておけ、俺の名前はアルフィード・キルス・フォルゼリアだ」
「ふん!たかだか乙女ゲームの脇役キャラなんかに名前なんて本来いらねーんだよ!」
乙女?ゲーム?何だそれ。
俺が口を開こうとしたのと同時にサーガから出ていた煙が消え、サーガが倒れた。
机を見ると紙が完全に燃え尽き、跡形も残っていなかった。
「魔力を吸うよりも早くに燃やしたのが仇となったか……」
俺は軽く舌打ちをして倒れているサーガに近づいた。
「う……、私は……」
サーガがうっすらと目を開けた。
俺はそれを見てサーガに力一杯デコピンをお見舞いした。
声にならない声を出し、サーガは額に手を当て部屋中を転げ回る。
「サーガ、気分はどうだ?」
「気分?そんなもの最悪に決まってるじゃないですか!いきなり何をするんですか!」
サーガは額を真っ赤にさせ、俺を怒鳴った。
うん、いつものサーガだ。
俺が安心していると、サーガは突然黙って立ち上がった。
「どこへいくつもりだ?」
「執事を探しにいきます」
「執事?」
「私に変な紙を渡してきた執事です」
サーガが悔しそうに拳を握る。
俺はサーガの肩に手を置く。
「探すのは好きにしろ。だがその前に何があったか俺に話すべきじゃないか?それにそんな額じゃ外は歩けないぞ」
その言葉にサーガは目を見開いて俺を見た。
そして自分の額に手を当ててため息をついた。
「心配しなくてもすぐに消える」
「浄化魔法。古代魔法の一種ですね。やはり私は何かに取りつかれていたと考えるのが妥当ですね」
「自覚があったのか?」
俺が驚いた声を出すとサーガにキッと睨まれる。
おーおー、怒ってらっしゃる。
「はっきりとではありません。ただ渡された紙から黒い何かが私の身体を這った気配がしました」
俺はサーガに椅子に座るよう促し、話を聞くことにした。
サーガはこれまでに見たこともないくらい眉間にシワを寄せながらポツリポツリと話し始める。
部屋を出ていった時、見慣れない執事がうろついていたので声をかけると突然怪しげな紙を押し付けてきたらしい。
しかも、紙に手が触れた途端に魔力が勝手に吸われたそうだ。
そして身体中に何かが這う感覚がしたかと思うと意識が持っていかれたらしい。
だから気がついた時に俺にいきなりデコピンをされたのは意味がわからなかったと苦々しく答えた。
「その執事の顔は覚えていないのか?」
「はい。全く……」
「覚えていないのに探しに行こうとは無謀だな」
「仰る通りです」
サーガは項垂れ、俺は机に凭れて腕を組んだ。
相手は禁断の魔法を使える人間だ。サーガの記憶から消すことくらい容易いだろう。
いや、そもそもその執事もサーガと同じように憑依されていた可能性もあるか……。
「そいつの目的は何だと思う?」
「地位や権力……、ではないですね。アルフィード様がその気でないのはわかりきってしますし……」
シルヴィア嬢に権力目的ではないかと詰めよっていたくせに、どの口がそんな事を言うんだよ。
「なあ、サーガ。乙女ゲームって知ってるか?」
「は?何ですって?」
「お前を乗っ取っていた奴がそう言っていたんだよ。乙女ゲームの脇役がどうたらと……」
「アルフィード様、もしかしたら……」
サーガが何か言おうと口を開いた時だった。
部屋の扉がノックもなしに開けられる。
「アル!大変だよ!執事長が死んだ!それからリリィとマリーの姿も見えないんだ!」
入ってきたのはメイドのアンリだった。
余程慌てて来たのだろう。取り乱している。
俺とサーガは顔を見合せた。
読んでいただきありがとうございました。
更新が遅くなり、本当にすみません。
そして今回、ギャグ回にしたかったのに何故かシリアス展開になってしまいました。
次はシルヴィア視点に戻る予定です。
良ければ次回もよろしくお願いします!