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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
二章
36/122

黒薔薇のカード

更新が遅れてすみませんでした。

今回もまだアルフィード視点です。


自分の部屋へ戻るなり俺は椅子に腰かけた。疲れが前面に押し出され、自然と大きなため息が出る。


「とりあえず、第一段階は完了というところか……」


しばらくボーッとした後、俺は机の引き出しを開ける。そこには黒いバラが描かれたカードが5枚入っていた。

俺はそれを手に取り机の上に出していく。


『これは幸福のカード。言う通りにすれば貴方に幸福が訪れる』

『貴方の運命の女性(ひと)はすぐ側に……』

『クラリス・アヌシーと婚約すべし。さすれば未来永劫輝くだろう』

『貴様の大事な部下は預かった。生きて返して欲しくばこのカードに従え』


そして俺は最後の一枚をじっと見た。

 

『シルヴィア・キー・グレイスとの婚約を解消しろ。さもなくば彼女と関わる者の命はない』


ふと、目の前に影が現れた。

顔を上げるとサーガが苦笑いをしながら立っていた。

 

「そんな人を殺めそうな顔でカードを見ないでください。どんなに睨み付けても所詮それはただのカードですよ」

「……、いつからいた?」

「貴方がカードを並べ始めた頃からですかね」


サーガはそう言って、俺が机に置いていたカードを綺麗に並べ直す。

 

「入ってくる前にノックくらいしろ」

「おや?私はちゃんとノックをしましたよ。それなのに返事をしなかったのは貴方です。もし私が暗殺者だったら貴方の首は今頃身体とお別れしているところです」

「うるさい。黙れドS男」


今の俺に冗談は必要ない。

サーガは一瞬目をぱちくりさせた後、笑みを浮かべた。


「貴方の為にマリエッタと険悪なムードになったんです。嫌味や皮肉、文句や冗談の一つくらい我慢すべきではありませんか?」

「随分種類が多いな。そもそもマリエッタの件は俺のせいじゃなくてお前の日頃の態度のせいだろ。日頃から誠心誠意まともな態度をしていれば多少の事があってもあそこまで険悪な雰囲気にはならないぞ」


サーガは「おやおや」と言いながら手を上げた後、真面目な顔つきになり黒い封筒を俺の目の前に置いた。


「執事長より預かりました。滞在城宛に来る郵便物に偶然(・・)紛れていたそうです」


俺は眉間にシワを寄せながら封筒を手に取った。宛名は俺で差出人の名前はない。

ペーパーナイフで封を開けると、中には机の上にある物と同じ黒バラのカードが一枚入っていた。


『シルヴィア・キー・グレイスをジャイル国から追放しろ。彼女は悪役令嬢だ。彼女の存在がお前に不幸を呼ぶだろう』


俺は何も言わないままサーガにカードを投げた。

サーガは無言で受け取った後、それを見て険しい表情になる。


「国から追放ですか、これは流石に笑えない要求ですね」

「差出人は公爵……、いや侯爵令嬢を国から追放するのに、悪役令嬢という『名』だけで実行しろと言うらしい。何ともおめでたい頭をお持ちのようだ」


俺は机に肘をつきながら封筒を燃やそうとしたが、サーガに「大事な証拠なのだから燃やさないでください」と取られてしまう。


「仮にシルヴィア様がこの送り主の言うとおり悪役令嬢であの小娘に嫌がらせをしていた犯人だったとしても、厳重注意が関の山ですね」

「だろうな」

「そもそも侯爵令嬢であるシルヴィア様がわざわざ他国の小娘に嫌がらせをすという構図がおかしいです」


俺はサーガの意見に同意するように頷いた。


「百歩譲って嫌がらせの原因がクラリス嬢が庶民出身で気に入らないというものならわからなくもないが、それはあり得ない」

「随分な自信ですね」

「お前もシルヴィア嬢と話をしてわかっただろう?シルヴィア嬢はそんなことはしない。それにクラリス嬢は言っていた。自分に嫌がらせをしていた理由はシルヴィア嬢が俺とクラリス嬢の関係に嫉妬したからだと」

「それは確かにあり得ませんね」


サーガがスパッと切った。


「貴方は小娘の行動に常日頃から迷惑そうな顔をしていました。あれを見て嫉妬する者はいないと思います」


絶対に目線は合わせない。返事は適当な相槌ばがり。あの状態でいい雰囲気だと勘違いする人間がいたらサーガの眼鏡より分厚いレンズが必要だと思う。


「実はシルヴィア様はアルフィード様ではなくクラウド様に想いを寄せていて、婚約者候補のクラリス様に嫌がらせをしていた……。という事ならば話が成立するんですけどね〜」

「サーガ」

「冗談ですよ。いちいち反応して睨まないでください」


サーガはため息をつきながら眼鏡に手を当てた。

どうやら俺は無意識に睨んでいたらしい。


「シルヴィア様が悪役令嬢かどうかはさておき、このカードが執事長経由で届いたのが少し気になりますね」


サーガは机の上にある6枚のカードと一通の封筒を難しい顔をしながら眺める。

今までカードは部屋の扉に挟んであったり、俺の書類に紛れて入っていた。

誰かの手に渡って届くことは初めてだ。


「この悪趣味なカードが届き始めたのはちょうど小娘とお会いになったころでしたよね?」

「ああ。丁度その頃からだな。執事長がクラリス嬢を俺に勧めるようになったのは……」

「やはり小娘が関係しているのでしょうか?」

「わからん。送られてくるタイミングも入ってる場所も全て違うから何とも言えない」

「少なくともあの()は一番怪しいかと。ですが私にはあの髭にこんな事が出来るとは思えないんですよね」

「髭?」

「ああ、執事長のことですよ。いちいち執事長と呼ぶのが面倒なので、髭と呼ぶことにしました」


笑顔で言うサーガに、これは冗談じゃないと思った俺は黙って頷いた。

確かに執事長のトレードマークは髭だ。間違いじゃない。

まあ、好きに呼べばいいさ。


「とにかく、クラリス嬢と執事長が全くの無関係と決めつけることはできない」

「ですが小娘は王宮から自由に出られません。髭は確かに自由に出入りができますが、王宮へは簡単に行ける立場の者ではありません。そもそも二人に接点などありません」


サーガに言われ俺は唸る。


「どうします?試しに髭を捕らえてみますか?」


サーガの言葉に俺は首を横に振った。


「いや、それはまだだ」


俺は一枚のカードを手に取りサーガへと渡す。

そのカードは『貴様の大事な部下は預かった。生きて返して欲しくばこのカードに従え』というものだった。

サーガの顔がより一層険しくなる。


「そう言えば騎士団長。リューク・ストリーマーがまだ行方不明でしたね」

「執事長は十分怪しいが、リュークが見つかっていない以上迂闊に行動するのはまずい。リュークを捕らえておけるくらいだ。カードの主は単独犯じゃないと考えるべきだ」

「そうですね……」


サーガは険しい顔のまま返事をした。

リューク・ストリーマーは俺の騎士団の長を務めている。俺にとってリュークは兄的存在であり、良き友だ。俺の性格がサーガみたく歪まなかったのは彼のお陰と言っても過言じゃない。


「『部下』ではなく、『友』が正解ですけど、まあいいでしょう。リュークが見つかっていないのは事実なのですから」


サーガは付け足して、納得するかのように頷いた。


「髭の事はもう少し様子を見ることにしましょう。私も気を付けておきます」

「頼む」


俺がそう返事をするとサーガは丁寧に頭を下げた。


「しかし、納得できませんね」

「何が?」

「『大事な部下』というならば、私が一番のはずです。何故リュークなのでしょう?」

 

サーガの真面目な顔に俺は吹き出した。


「何故笑うんです?」

「そりゃ笑うだろ。確かにお前も大事だが、お前を狙うくらいなら皆リュークを狙うと思うぞ?」

「どういう意味ですか?」

「お前は俺の側に常にいる。だとすれば、お前がいなくなってもいなくなった場所や時間を割り出すのは難しいことじゃない。何せお前は俺から離れている時間の方が短いのだから」


だが、リュークは騎士団長だ。俺の専属騎士や友だと言っても常に行動を共にするわけじゃない。呼び出しさえなければ基本自由行動になるなのだ。


「だとしても納得できません。犯人を見つけたら一言文句を言ってやらねば私の気が済みません」


サーガの気迫から「お前の場合一言で絶対に終わらないだろ」と俺は言えなかった。


「そうだ、もう少し日が暮れてから来客がある。準備をしておけ」

「来客?」

「ああ、シルヴィア嬢の部屋を嗅ぎ回っていたネズミだ」

「ネズミ……ですか」


サーガが何かを察したのだろう。ニヤリと笑う顔が怖い。


「わざわざ妨害魔法(ディメント)を解いた甲斐がありましたね」

「ああ」

「ネズミがいたということは、今頃婚約解消の話が城全体に広がっていると考えてよろしいですか?」


サーガの問いかけに俺は頷く。

聞かなくても今頃は城の中で話題になっているはずだ。


「勿論、シルヴィア嬢が倒れたこともな」


俺の言葉にサーガは嬉しそうに笑う。


「思ったよりもうまくかかりましたね。こちらの手間が省けます」

「そうだな」

 

俺の言葉にサーガは少し安堵の表情を浮かべた。

そして俺が始めに見ていたカードを手にした。

 

「これで貴方はこのカードに従ったことになる」

「マリエッタも狙われる事がないというわけだ」

「なっ!?」


俺の言葉にサーガの顔が珍しく真っ赤になった。

俺はいつもの仕返しと言わんばかりにニヤニヤしながらサーガを見る。


「俺が気がつかないと思ったのか?マリエッタが(鼻血で)倒れたと聞いてお前は真っ先に看病を名乗り出た。それは彼女がシルヴィア嬢の側にいるからだろ?」

「……っ!」

「シルヴィア嬢に最も近いのはこの城の中では彼女だからな」


サーガは何も答えない。

そう。サーガが必要以上にシルヴィア嬢を攻めたのはマリエッタを守る為だった。


「ダーンの策でシルヴィア嬢がそれに従っているのならさっさと帰らせたらいい。そう考えたんだろ?」

「ですが貴方はそれを否定しました」

「当然だ。シルヴィア嬢がダーンにただ踊らされるとは思わない。それに、やっと俺の手が届く所にきたんだ。簡単に離したいと思うわけないだろ?」

「私だってそうですよ。ですが彼女を守る為ならば私はどんな悪役になったって構いません」

「それは俺も同じだ。だからお前の策に乗った」


サーガは少し笑みを浮かべた後、表情を曇らせる。

 

「ですが、このカードの示す関わる者とはマリエッタではないようですね」

「そうだな……」


俺は腕を組む。まさかシルヴィア嬢が()と深く関わっていたとは知らなかった。


「マックス・ディーン。俺とシルヴィア嬢が帰ってから王宮内で起こった殺人未遂の犯人」

「被害者の女性は未だに意識不明の重症だと聞いています。もしかしたら彼女もシルヴィア様に関係ある人物なのかもしれません」

「そうだな。けれど今の俺達に確認をする術はない」


俺とサーガの間に、重い空気がのしかかった。

シルヴィア嬢の話を聞く限りではマックスはそんな男ではないと言うことだけはわかった。


「サーガ、今の話はまだ保留にしておけ。今はネズミ取りの準備が先だ」

「御意」


サーガは一礼し、部屋から足早に出ていった。

残された俺は椅子にもたれかかる。

そういえばそろそろシルヴィア嬢が目覚める頃だろうか?

俺の脳裏に泣くのを必死に堪えようとしながらも泣いてしまっていた彼女の姿が浮かんだ。

これ以上彼女を泣かせたくはない。

いや、もう二度と泣かせるものか。

机の上には黒薔薇のカードが置かれたままとなっていた。

俺はそのカードを燃やしてやりたい衝動にかられる。


「駄目だ。耐えろ」


そう自分に言い聞かせて俺は重たい息を吐いた。

読んでくださり、ありがとうございます。

またよければよろしくお願いします。

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