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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
二章
30/122

サーガVSシルヴィア

前回に続きVSシリーズです。

少し長くなってしまいましたが、読んでもらえたら嬉しいです。


「私の望み……、ですか?」

「ええ」


私はにっこりと笑顔を作る。

何となくだけど、わかる。多分ここは乙女ゲームの分岐点の一つなのだと。

だからこの台詞は笑顔で言わなくてはならない。


(わたくし)、アルフィード様との婚約を破棄しますわ」

「なっ!?」

「お嬢様!?」


マリエッタが驚くのは想定内として、サーガさんが驚いたのは少し意外だった。

あれ?これが希望じゃなかったかしら?

会話の流れからサーガさんはこれが望みだと思ったんだけど……。

単純だったかな?

私は少し心配になりチラリとアルフィード様を見た。するとアルフィードは表情を変えずにお茶を口に運んでいる。

何かを発言するつもりはないようだ。

合っているのか合っていないのか、それはわからない。

わからないけど、これでいいのだと何となく思う。

私は主人公(ヒロイン)じゃない。

別にアルフィード様の好感度を気にする必要はないのだ。敵にさえならなければいい。


「お、お嬢様……」


マリエッタがオドオドと私に声をかけてくる。

私は笑顔を崩さずにマリエッタを見た。

マリエッタには申し訳ないけどとりあえずは大人しくしていてもらうことにする。

 

「マリエッタ、貴女は黙ってなさい」

「はい……」


マリエッタはしょんぼりして後ろへと下がる。


「まだ手続きが済んでいないため正式な婚約者となっていませんが、それでも破棄するということがどういうことか、貴女はお分かりですか?」

 

サーガさんは冷静を装っているけれど、明らかに動揺している。その証拠に私を直視していない。唇も少しだけど震えている。


「ええ。当然ですわ。一方的に王族との婚約を破棄すれば(わたくし)は嫁ぎ先がなくなるかもしれませんわね」


そんなのどうでもいい。

正直なところ、私が嫁げなくなっても問題はない。

だってグレイス家は既にそれなりの権力と財力を手にしているのだ。それに、私が嫁ぐということは『偽りの病弱』のことも『シル』のことも伝えなければいけない。

隠すということもできるだろうけど、面倒なことこの上ない。


「でしたら何故殿下の申し出を受けたのですか?そんなに軽い気持ちで受けられたのですか?」

「鈍い鈍いと(わたくし)のことを罵っていた人がいう台詞ではありせんわね」


私の答えにサーガさんは唇を噛んだ。


「ですが、少なくとも権力に目が眩んだわけではないと断言致しますわ」

「ほう?証拠でもあるのですか?」

「証拠などいりませんわ。わかりきっているでしょう?」


サーガさんは何も答えない。わかっていないのか、それともわからないのか。サーガさんの顔からは何もわからない。

面倒だけど探りを入れるしかない。


(わたくし)はこれでも侯爵家のしかも宰相の娘ですよ?」

「それはマリエッタが言っていました。ですが、それは何の根拠にはなりません」

「ええ、それはサーガさんの言う通りですわね。ならば言い方を変えましょう。(わたくし)はあのダーン・グレイスの娘ですよ?」

「どういうことですか?」

「あら、サーガさんともあろうお方がまだわかりませんこと?」


私は嫌味ったらしく微笑んでサーガさんを見た。

サーガさんは悔しそうな顔をする。

その顔から私はサーガさんはわからないのだと認識した。


「わかりました。教えて差し上げます。すごく簡単なことなんですわよ?もし、(わたくし)がサーガさんの言うとおり権力に魅入られているならばアルフィード様ではなく、王が愛でている第三王子に近づけばいいんです」


サーガさんは目を見開く。

そんな馬鹿な事があるかと唇が動いた。


「シルヴィア様は、ロード様をお嫌いなのでは?」

「ええ、あのバカ王子など大っ嫌いですわ」


あのバカに嫁ぐくらいならその場で自害してもいい。そのくらい嫌いだ。

もしかしたら私にとってバッドエンドは悪役令嬢とかではなく、バカロードに嫁ぐ事なのかもしれない。

嫌だ。それは物凄く嫌だ。


「なら、何故?」

「何故?ではありません。貴方は先ほどからアルフィード様が権力をお持ちの様に発言していますが、アルフィード様は王位継承などするつもりはないんですよ?」


サーガさんはハッとする。

私はそれを見てため息をついた。

気にはなっていたのだ。アルフィード様を何故か『殿下』と強く呼ぶところが……。

この人、何だかんだでマリエッタと同じ人種なんだと思う。

きっとサーガさんにとってアルフィード様は王になるべきお方だと頭の中で描いているんだ。

そう言う意味ではお父様も同じかもしれない。お父様もアルフィード様を『殿下』と呼ぶもの。

でも、お父様の言う『殿下』とサーガさんが言う『殿下』って少しニュアンスが違う。

上手く説明できないけれど、お父様のは圧力でサーガさんは自分の想いだ。

まあ、どっちも面倒なのには代わりないか……。


「王位に興味のないアルフィード様を王位に着かせる為の労力と気力。更にはそれ以上の知識を考えれば、第三王子に取り入る方が手っ取り早いということくらいアルフィード様の側近である貴方なら理解できるでしょう?」

「貴女にそこまでできますか?」

「『できますか?』と聞かれれば『できます』とお答えしますわ」


私の満面な笑顔にサーガさんは顔がひきつる。


「でも残念ながら(わたくし)そこまで権力に興味はありませんの。従って、第三王子に嫁ぐ事は絶対にあり得ませんわ」


私の言葉に後ろから安堵の吐息が聞こえた。

この世界が引っくり返ったってお断りだ。

それなのに私の侍女は何を心配しているんだろう。


「わかりました。貴女が権力目的ではないということは信じましょう」

「わかってくれて嬉しいわ。これ以上言っても信じてもらえない時はアルフィード様にサーガさんの処遇を問おうかと思っていましたのよ?」


私の笑顔にサーガさんの顔色が変わる。

勿論そんなつもりは毛頭ないけど、このくらいは言っても許されるはず。ただ、気になるのはサーガさんの唇の動きだった。

『間違いない。この人は正真正銘あの宰相様の娘だ』とサーガさんの唇が動いたのだ。

家族の中で私が一番優しく、お父様に性格が似ていないはずなのに何でそんな事を言われなければならないのだ。心外もいいところだ。

 

「それでは貴女の目的はなんなのですか?」


サーガさんが額の汗を拭いながら私に聞いてきた。

意味が分からず首を傾げる。


「権力でもない。愛でもない。そうなれば宰相様に何か指示されているとしか考えられません」

「サーガ!お嬢様に何てことを!失礼にも程がありますよ!」


我慢をしていたのだろう。遂にマリエッタがキレた。

相手が貴族の人間ならいざ知らず、同じ仕える者同士しかも恋仲であればマリエッタと言えど我慢できないだろう。むしろよく耐えた方と言っていい。

だがここでまた二人で言い合いをされては振り出しに戻ってしまう。

私は心を鬼にしてマリエッタを黙らせなければいけない。

 

「マリエッタ、言ったはずよ?貴女は黙ってなさいと」

「ですがお嬢様!」


やっぱり簡単には引き下がってはくれない。

普段はクールビューティーなのに、何でこうたまに熱くなるのかしら。

仕方がない。私もたまには令嬢らしく振る舞うこととする。


「マリエッタ、いいからお黙りなさい」


私の言葉にマリエッタは沈黙する。


「いい?三度目はないわよ」


そう言うとマリエッタは完全に黙ってしまった。

私の為に怒ってくれたのに、何だか申し訳ない。いや、今はそんな甘いことは言っていられない。

これでいいのだ。


「サーガさんには申し訳ないのですが、(わたくし)は父から舞踏会にアルフィード様のパートナーとして出席することしか聞いておりませんわ」


そう言ってマリエッタに手紙を取りに行かせ、サーガさんに渡す。

説明したってどうせ証拠証拠とうるさいのだ。ならば初めから証拠を突き出してしまえばいい。

サーガさんは一瞬疑いながらも手紙を受けとり読み始めた。

数分後彼の顔は赤やら青やら何やら大丈夫かと聞きたい状況へとなった。


「信じられない。あの宰相様がこんな親バカな手紙を書かれるだなんて……。いや、しかし……」


ちょっとでも心配して損したわ!と突っ込みしそうになるのを耐えた私は偉い。

前世の私なら突っ込む前にサーガさんを心配するんだろうけど、生憎今の私はそこまでお人好しではない。


「わかりました。宰相様が何か指示された訳でもない。それも信じましょう」

「あら、その手紙が本当にお父様の物かどうか証明しろ。と言わないのですか?」


てっきり言われると思っていたのに、私は拍子抜けしてしまった。


「嘘の手紙を用意するにも、この無駄(・・)な前置きをわざわざ書くとは思えません。これでは宰相様の人格が問われます」


そう言ってサーガさんは手紙をテーブルへと置いた。

眼鏡の光が若干弱くなっている気がする。

因みに、前置きとは私に対してのあの鬱陶しい内容である。


「アルフィード様も興味があればご覧下さい。大した事は書いてありませんけど」


私がそう言うとアルフィード様は黙って頷き手紙を手に取った。

しかし、相変わらずアルフィード様は声を出す事はなかった。


「権力でもない。宰相様からの指示でもない。では一体どんな目的があるというのですか?」


まだそこに拘るのか。

逆に何でそこまで疑われなければいけないのかがわからない。

私は別にアルフィード様に何もしていないのに……。


……。


いや、している。

6年前にやらかしている。

勝手にアルフィード様を後継者として名前を上げたのは私だった!!

そうか、それが原因か!!

私は自分のやった事に対して後悔した。

どうせなら幼少の頃に前世の記憶を思い出しかった……。


「シルヴィア様?」


サーガさんに声をかけられ、我に返る。

そうだ、後悔は後だ。

今はとにかく話を進めよう。

 

「目的なんてありませんわ」

「信じられませんね」


このやり取り何度目だろう。


「敢えて言うのであれば、アルフィード様に何か理由(ワケ)があるのだと感じたからです」

理由(ワケ)?貴女ではなく殿下にですか?」

「ええ。女の『勘』とでもいいましょうか?アルフィード様程のお方であればわざわざ『病弱令嬢』である(わたくし)に婚約を持ちかけなくともいい条件を持つ令嬢を選り取り見取りのはずですわ」


「お嬢様程の令嬢など他にはいませんけどね」とマリエッタが後ろから呟いた。

本当にこの侍女はどうしようもない。私はマリエッタの言葉をスルーする。


「それでも数ある名家の中からグレイス家に拘るというのなら、(わたくし)ではなく(わたくし)の姉でまだ独り身のイザベラお姉様を選んだっていいはずです。お姉様の方が(わたくし)よりもお美しいですわ」

「イザベラ様よりもお嬢様の方が聡明でお美しいです!」


マリエッタが呟きが最早呟きでなくなっている。

おかしいな。三度目はないって言ったんだけど……。

まあ、サーガさんに突っかかってないからギリギリセーフか。

とにかくマリエッタはスルーしよう。


「それなのにアルフィード様は(わたくし)を選び、しかも答えを急がれた。つまり、(わたくし)でないといけない理由(ワケ)があるのだと思ったのです。それを受けた理由としてご理解して頂けますか?」


私の言葉をサーガさんは黙って聞いていた。

少し沈黙した後、サーガさんが口を開く。

 

「本当に、色恋沙汰以外は鋭いようですね」

「それは褒め言葉として受け取っておきますわ」

「いいでしょう。それで、殿下がシルヴィア様に婚約を申し込んだ理由ですが……」

「クラリス様の件でしょう?クラウド様も仰っていました」


サーガさんは満足したように頷く。


「今の小娘の状態では殿下には近づくことさえできません。個人的にもっと複雑化すると考えていましたが、思いの外早く済みました。貴女の役目も終わったということです」


随分呆気ないものだと思う。

速攻で婚約し、そしてその役は速攻で御役後免となってしまった。


「後で正式にこの件に関して書類を作成いたしましょう」

「わかりました。お任せしますわ」

「そんな、お嬢様!いけません!」


マリエッタが泣きそうな顔をして私を止めようとした。

いや、既に泣いている。


「サーガ、貴方はこんなことをして平気なわけ!?」

「私は殿下の為に動き、殿下の為に不要な者を排除する。全ては殿下のためだ」


だから恨むならアルフィード様ではなく自分を恨め。そう言っている気がした。


「アルフィード様。たった三日間でしたが、夢を見ていたかのように楽しかったですわ。感謝申し上げます」


私はそう言って頭を下げた。

名前も聞いていないのに感じたあの衝撃のような胸の高鳴り。

この方は運命の人だと、不覚にも思ってしまったあの瞬間。

あれは嘘じゃない。

アルフィード様を見て、信じようと思ったことや、この人がいいと思った私も嘘ではない。

今もアルフィード様の為なら婚約を破棄することなんて痛くも痒くもない。

アルフィード様の敵にさえならなければいい。

それなのに……。

強くそう思うはずなのに私の頬に一筋の涙が流れた。


やだ……、嘘。止まらない。


慌てる私に対してハンカチが差し出された。

その主はアルフィード様だった。


「も、申し訳ございません」

「何で謝る?」

「だって……」


言葉が出てこない。

本当はクラリス様を振り切るにしても何で私を選んだのか、こうやって直ぐに切るのならば何でこんなに私の中に入ってきたのか、聞きたいことは山ほどある。

けれどそれを聞けない。そんな事を聞けば私は本当に悪役令嬢と化してしまうような気がするから。

私はアルフィード様の敵にはなりたくない。


「シルヴィア嬢、お気遣い感謝する」


私の涙を指で拭いながらアルフィード様が優しい眼差しで私を見る。

この時、私の中でアルフィード様の存在が大きくなっているとはっきりと自覚した。

ブックマークの方も、そうでない方も読んで頂いてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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