悪夢
ここから二章として改めてスタートします!
ふと気がつくと私はとある病室の中で立っていた。
目の前には私の親友が夢中でテレビゲームをしている。
ああ、そうだ。
私はいつも通り彼女の病室に来ていたんだ。
そう思いながら私は何の疑問も持たずに椅子に腰掛け、教科書とノートを鞄から取り出した。
少し苦手な数学。私は教科書とにらめっこしながら一つ一つ問題を解いていく。そんな私が気になったのか、親友が手を止めて私に話しかけてきた。
「あのね、こんなところで勉強なんてしないでよ。私は勉強なんてしないわよ?」
そう言いながらも教科書を私の手から抜き取った。
ずっと入院している彼女が学校の物に興味を持つのは正直嬉しい。
「何よ。これ去年のじゃん」
「それは彼用だから。彼、真面目だからもうここまで追い付かれちゃって……」
「彼?ああ、例の彼氏?」
「彼氏じゃないよ!友達!!」
「友達?何よ。毎日毎日こんな所に通ってさ。好きでもない男の勉強まで見てるの?暇なの?馬鹿なの?お人好しなの?」
「酷っ!友達なんだからほっとけないでしょ!それにここにだって毎日来てるから同じだし!」
「このリア充め……」
「だから違うってば!」
「いいもん。あたしにはゲームの王子様がいるから!」
「またそう言う……」
「だって好感度さえ上げたら彼等は絶対に裏切らないもん。ねえ、やってみない?絶対にハマるから!理想の王子様絶対にいるって!」
親友の言葉に私は教科書に目を落とした。
「いいよ。いつもみたいに直ぐにゲームオーバーになるのがオチだもの」
「それは仕方がないじゃん」
フッと私の手元が暗くなる。
不思議に思い顔をあげると親友の顔が黒くなっていて、わからなくなっていた。
不安という恐怖が私を包む。
「あんたはどんなに足掻こうとも主人公にはなれない」
親友の姿がグニャリと動き、クラリス様へと変化した。
「あんたは悪役令嬢なの」
「何言ってるの?私は普通の女子高生よ!」
「訳のわからないことを言ってるのはあんたよ。だってあんたは主人公から王子様を奪おうとしている。悪役令嬢なのよ!」
そう言ってクラリス様はシルヴィアの首を締めた。
いつの間に私はシルヴィアになっていたのだろう。
「別に、私は奪おうなどとしていません」
「黙りなさい!」
クラリス様の締め付ける力が強くなる。
「貴女はね、闇に落ちる運命なのよ」
クラリス様がニヤリと笑い、手を離すと私は深い闇へと落ちていく。
叫び声にならない声が私の耳にこだまする。
『バイバイ。悪役にすらなれない哀れなモブキャラさん』
笑顔のクラリス様の唇がそう動いたのを私は消え行く意識の中で見た。
読んで頂いてありがとうございます。
今回は続けて更新しますので、そちらもよろしくお願いします。