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隠しキャラ転生物語  作者: 瀬田 彰
一章
25/122

アルフィード様の洞察力

更新がかなり遅くなりすみません。

少し長めですが、お楽しみ頂けたらと思います。


 時は戻り現在。

 私とアルフィード様は沈黙したまま馬車に揺られていた。

 何も言わないけれど、お互いに6年前の事を思い出している。そんな気がした。

 私の6年前の記憶は詠唱を間違えたバカロードが放った魔法を受けた所で終わっている。

 光に包まれて気がつけばベッドの上だったのだ。

 そういえばその時マリエッタは隣で号泣して、お父様とお母様、お兄様達が鬼の形相で私を見ていたのを思い出した。


「シルヴィア嬢大丈夫か?顔色がよくないぞ?」

「そうですか?少し嫌な事を思い出したのが原因かもしれません」

「嫌な事?」

「はい。実は6年前のお茶会で(わたくし)が失態を起こしたんです」

「失態?ああ、アレ(・・)か」


 アレか……って、まるで私がいつくも失態を重ねているかのような言い方はやめてほしい。


「それで?」

「怒られました……」

「は?」

「ですから、両親と兄姉(おにいさま)達からめちゃくちゃ怒られました」

「ダーンと夫人はまだわかるが、兄君達からも?」

「そうですよ!ひどいとおもいません!?お兄様達だって何かしら問題を起こしてきたのに、私だけ責められまくりでしたよ!?」

「そ、それは災難だったな……」


 若干顔を引きつかせながらアルフィード様は返事をする。

 まるで聞いてはいけない事を聞いてしまったかというような素振りだ。

 だが、後悔したってもう遅い。

 一度開けられたら最後、口は止まらないのだ。


「罰として母からは淑女としてのマナーやダンス。お兄様やお姉様からは魔力向上の訓練や魔力についての勉強のやり直し。父からは国の歴史に他国の歴史。挙げ句に庶民での暮らしの実地訓練……」

「ちょっと待て、それ全部させられたのか?」

「当然です」

「6年前だとシルヴィア嬢は……」

「12歳です。表向き病弱とはとても思えない苦行でしょう?そうそう、ダンスもこの時にみっちり叩き込まれました」

「……」


 絶句。とはこういうことなのかもしれない。

 何とも言えない重い空気が流れ、私は話しすぎたと慌てて姿勢を正した。


「すまない。まさかそんなことが起こっていたとは知らなかった……」

「アルフィード様が謝る必要はございませんわ」

「いや、その件に関しては後日改めて謝罪しなければならない。だが今は少し休め。魔力だけでなく体力も消耗しているだろう?俺が送ったベールに細工したのはわかっているんだ」


 そう言ってアルフィード様はそっと私の肩を抱いて、ピッタリと抱き寄せた。

 確かに私は体力をかなり消耗している。

 そしてベールのこともバレていた。

 そう、私が被るベールには体力を自動で外へ流す為の細工をしている。病弱令嬢を完璧に演じる為に実は陰ながらに努力をしているのだ。

 そうでなくても病弱とは思えない健康的な体型なのだ。そのくらいしないとお話にならない。


「まあ、病弱令嬢を演じる上では必要アイテムだろうが、俺の前では必要ないな」

「あの……、怒ってます?」

「それ、敢えて聞く?」


 満面の笑みで答えるアルフィード様を見て背筋がゾクリと寒いものが走った。

 これは、怒っている。間違いなく怒っている。


「この類いのアイテムは使い方を一つ間違えれば生命が危なくなる。そのくらいはシルヴィア嬢ならわかっているよね?」


 穏やかな口調が逆に怖い。


「も、勿論ですわ」

「なら、今後一切こんな小細工は使うのは禁止だ」

「そ、それは……」

「それとも、シルヴィア嬢はこういう小細工をしないと病弱シルヴィア嬢を演じる事ができない。ということかな?」


 ムカ……。


「そ、そんな事はございません。今宵は大勢集まるパーティーでしたので念には念をしたまでです。そんなアイテムに頼らずとも(わたくし)は完璧に病弱令嬢を演じる自信がありますわ!」

「それは頼もしいことだ。ならば今後一切この手のアイテムは使わないと誓ってくれるね?」

「アルフィード様、その笑顔は反則ですわ。そんな顔をされては逆らえません」

「ほう、それは良いことを聞いた」


 意地悪そうに笑うアルフィード様を見て、私の心臓はドキドキするばかりだ。

 それに、やられっぱなしで面白くない。膨れているとアルフィード様が私の頬をツンツンと突っついてきた。


「何ですか?」

「俺の婚約者は可愛いな〜って、思ってね」

「それ、本心ですか?バカにしてません?」

「してないよ」


 嘘だ。絶対にバカにしてる。


「シルヴィア嬢の行動は俺の考えの上を行くからな」

「例えば?」

「6年前に義母上(ははうえ)に立ち向かったところとか」

「見てたんですか!?」


 やっぱりアルフィード様はお茶会にいたのだ。

 記憶にないけど、私は恥ずかしさで顔を手で覆った。


「あー、誤解してるかもしれないが直接は見てないぞ」

「へ?」


 じゃあ、お父様に聞いたってこと?

 それはそれで恥ずかしい。

 もう、誰か穴を掘って!そして私を埋めて!


「多分それも違う。そして間違っても穴に埋もれたりしないでくれ」


 そう言われて手首を掴まれた。

 やだ。声に出してた!?


「俺はあの場所にはいたが、誰とも会ってはいない。隠れていたからな」

「一人かくれんぼでもしてらしたのですか?」

「何故そうなる……」

「だって隠れていたって……」

「隠れていたのはあの場に出るのが嫌だったからだ。当時の俺をいくつだと思っているんだ。かくれんぼなどとっくの昔に卒業している」


 ですよね〜……。

 要するにアルフィード様はあのお茶会に出たくなかったというわけだ。

 うん、その気持ちわかります。

 もしも、タイムマシンがあったら当時の私に何がなんでも行くなと止めるところだ。

  

「だからあの時の会話もよく聞こえていた。」

「それで、何故私に興味を?」

「俺の名前を出したからな」

「!」

「あそこで俺の名前を出すなど義母上(ははうえ)に喧嘩を売ってるとしか思えなかった」

「あ、あれは不可抗力です!」

「不可抗力ねえ……。実はあの後、更に国外への留学が増えた」

「それは……、申し訳ありませんでした」

「おまけにしばらく俺が王位を狙っているという噂も絶えなかった」

「重ね重ね申し訳ございません」


 何ということだろう。6年という歳月を経て、アルフィード様にこんなに迷惑をかけていた事実を知らされるとは……。


「ま、別に怒ってはないけど」


 アルフィード様の言葉に私は驚く。

 怒ってないならそんな言い方をしなくてもいいじゃない。

 何だか一人で踊らされている気がしてきた。

 

「元々他国を見るのは嫌いではないし、国にいても義母上(ははうえ)の言いなりになるしかない。だから自由にできる外にいる方が気楽だからな。それにそこにはシルヴィア嬢がいたからな」

「……、はい?」


 目が点になる。

 もう私の頭の中は処理が追い付かない。

 誰か、助けてほしい。

 

「気がついてなかったのか?俺の行く先に君は養生していたということに……」


 気がつくもなにもそんな事は知らない。

 初耳だ。


「意味がわかりません」

「まあ、それもそうか。期間も俺の方が長かったし……」


 アルフィード様は少し考える素振りを見せて納得したかのように私を見た。


「緑の国、スインク国を知っているか?俺が庶民に扮している(・・・・・・・・)シルヴィア嬢を初めて見つけた国だ」


 サァーっと、血の気が引くのがわかった。

 スインク国は私が初めて国外へ行き、『シル』として生活した国だ。

 まさか、既にバレていたとか滑稽だ。


「尤も、見つけただけで何もしてはいない。シルヴィア嬢だとわかっただけだ」


 いや、それすごいことだからね。

 お父様とお母様ですら『シル』になった私を探しだすのは困難を極めるからね。

 『シル』の私を見つける事ができるのは『シル』の姿を知っているマリエッタとグリードくらいだから。


「何故わかったのかって顔だな」


 アルフィード様が笑う。そして私の喉を指差した。


「その声だ」

(わたくし)の声?」


 声だけで判断できるとか、どんなファンタジーなのよ。


「わかるさ。俺はあの時のシルヴィア嬢の声を絶対に忘れないと誓った。それに……」


 私の髪を指に絡ませながらアルフィード様は何かを言おうとしたけど、口をつむんだ。


「いや、何でもない。とにかく、俺には一目でわかった。彼女がシルヴィア嬢だと」

「ですが、普段(わたくし)は人前でベールをしていて(わたくし)の姿を知る者は家族とそこに仕える一部の者しかいません。それにアルフィード様が言うその人物は髪と目の色が違うはずです。声だって似ていただけかもしれません。だから絶対(わたくし)だとわかりっこありません!」


 自分でバラしているのは百も承知だ。でもそれだけの自信があった。だから私の素顔を見たことがないアルフィード様が見つける事ができたなどと到底信じられるわけがない。


「シルヴィア嬢が絶対に見破られない自信があるように、俺は絶対にシルヴィア嬢を見つけられる自信がある。ただそれだけだ」

「そんな理由では(わたくし)は納得しません」

「ならば今度試して見る?シルヴィア嬢が庶民の姿になって、俺が探しだせるかどうか」


 望むところだ!と、返事をしたくなったけど、アルフィード様の自信満々な表情を見て止めた。

 アルフィード様は『シル(彼女)』を知っている。

 そう舞踏会で言っていたもの。


「黒髪……」

「ん?」

(わたくし)が庶民になっているときの髪の色です。声で判断されたというのは未だに信じられませんが、(わたくし)で間違いないのは認めますわ」

「随分あっさりだね。もう少し粘るかと思ったけど」

「引き際を知っているだけです。無駄な悪あがきは見苦しいですもの」

「ほう……」

「それに、アルフィード様が当てずっぽうで何か言うとは思えませんわ。何か他にも確証がおありなのでしょう?」

「参ったな。流石シルヴィア嬢だ」


「お二方、そろそろ滞在城へ着きます。降りるご準備をお願いします」


 グリードの声がした。

 アルフィード様が了解の返事をし、私にそっとベールを被せる。

 そして、私の耳元でそっと囁いた。


「この御者はシルヴィア嬢の関係者なのだろう?」

「!?」

「そうでなければシルヴィア嬢がこんな簡単に話すわけがないからな」


 成る程。本当に良く見てらっしゃる。

 私は感心する。

 アルフィード様はちょっと意地悪だけど、頭も顔もいい。

 そんな人が私に婚約を申し込んできた。

 これって多分普通じゃない。

 それを簡単に受けてしまった私も多分普通じゃない。

 でもそれは仕方がない。アルフィード様から逃げられる自信がなかったんだもの……。

 

「ところで、シルヴィア嬢。滞在城に着く前に一つ教えてほしい事がある」

「何でしょう?」

「悪役令嬢とは何だ?」

「はいぃ?」


 アルフィード様の言葉に声が裏返える。

 理解していなかったのか……。

 この日一番の驚きに私は声が全く出なくなり、悪役令嬢とは何かを説明出来ずに終わってしまった。

読んでいただき、ありがとうございます。

次回も良ければお付き合いください。

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