変わる運命
どうしても深夜に投稿になってしまいます
あれから数分後、意識を取り戻した国王陛下とお妃様はクラウド様に事のあらましを聞いて青ざめていた。
魅了魔法にかかっていたとはいえ、他国の令嬢を問答無用で罰しようとしたのだ。
場合によっては国際問題になりかねない。
「シルヴィア嬢、本当に申し訳ない事をした」
国王陛下は頭を下げる。
これで何度目だろう流石にその度に首を横に振るのも疲れてきた。
別に私は謝ってほしいわけではない。ただ、悪役令嬢というレッテルさえ貼られなければそれでいいのだ。
というか、そもそもアルフィード様が私をパートナーに選んだりしなければ今回のことは起こらなかったんじゃない?
私は隣に立っているアルフィード様を恨めしそうにチラリと横目で見る。
そこには背が高くて綺麗な髪と瞳、整った顔立ち、誰もが目を止める人がいた。
爽やか王子様の姿は演技だった。
でも、今の方がいい。今の方が落ち着くし、安心する。
しかし、どうしてこんな人が私を選んだのだろう。
世間的には病弱だし、表にも出てないし、顔もベールで隠しているのに……。
「!」
もしかして、胸?胸に惚れたとか!?
いや、前世より大きいってだけで別にすっごく大きい訳じゃない。
というかサイズだけだったらクラリス様の方が大きい気がする。
私はクラリス様を見つめた。彼女は未だに固まったままだ
しかも、邪魔という理由で端に移動させられている。
顔も私を襲おうとしたときのままなので、般若のようだ。
主人公台無し……。
「気にすることはない。あれは自業自得だ」
私がクラリス様を複雑そうに見ていたことに気がついたのだろう。
アルフィード様が声をかけてきた。でも、私はまだベールをしている。
表情は読めないはずだけど……?
「そうだ。お詫びに是非、我が息子と婚約をせぬか?」
「!?」
国王陛下の突然の話にびっくりしてアルフィード様への疑問は頭からぶっ飛んでしまった。
私がクラウド様と婚約!?
どこをどう繋げたらそうなるのか意味がわからない。
アルフィード様も驚いて国王陛下を見ている。
クラウド様が慌てて国王陛下を止めに入った。
「ち、父上!!何を言い出すのですか!彼女はアルフィードの婚約者ですよ!!」
「そ、そうなのか?クラリスよりはお似合いかと思ったんだが……」
「いえ、確かに魅力的ではあると思いますが……」
何故かそこで顔を赤くするクラウド様。それを見たアルフィード様は私の腰に手を回し、グイッと自分に寄せる。
「あの、えっと、アルフィード様?」
「気にするな。こうしたいだけだ」
「……?」
私は納得したようなしないような不思議な気分になる。
しかし嫌と言うわけではない。
結局別にいいかと、アルフィード様の言う通り気にしないことにした。
勿論クラウド様がばつ悪そうに目線を反らしたのも気にしないことにする。
国王陛下は残念そうに首を振った。
「では、婚約の話は諦めるとしてだ。何故クラリスがそなたに目をつけ陥れようとしたのか、それだけは真相を調べる必要がある。申し訳ないが、しばらくの間我が国の滞在城に滞在していただきたい。よいかな?」
国王陛下の申し出だ。
断ることなどできないし、私もクラリス様の起こした原因を知りたい。
けれどあのクラリス様を熱心に推す執事長がいる滞在城に滞在するのは気が重い……。
「シルヴィア嬢。心配はいらない。俺も一緒だ」
アルフィード様が私をじっと見つめる。
その顔に胸がキュンとなるのを感じ、私は顔が熱くなった。
アルフィード様はそれを同意と受け取り国王陛下に了承の返事をする。
だから何故ベールをして顔が見えないのに考えがわかるのか理解できない。
そんな疑問を残したまま、私達は滞在城に戻ることになった。
「父上、アルフィード達を外まで送ってきます」
「あ!おい、クラウド!!」
国王陛下はクラウド様を止めようとするけれど、クラウド様は国王陛下を完全に無視して私達と共に会場を後にした。
「あの場に残ったら後始末を押し付けられるに決まっている」
成る程、それが嫌で私達を口実に逃げたのだ。
私の中でクラウド様は面白い王子様という位置に決定した。
因みに、アルフィード様は不思議な王子様だ。
別に深い意味はないけど……。
「今後のクラリスの処遇については、決まったらまた連絡する」
「ああ、頼む。気を付けろよ、彼女は魅了魔法を持ってるんだからな」
「わかっている。恐らく尋問等は俺が中心で行うだろう。俺だけが魅了魔法に耐性があるみたいだからな」
それは少し違うと私は思った。
魔法は使う者の強さによって威力が変わるのだ。けれど勘違いしてはいけない。
この世界にはステータスは存在しない。
魔法は生まれもった『才』それのみだ。
だから魅了魔法に耐性があるんじゃない。
クラウド様の方がクラリス様よりも才が優れているだけのことだ。
「しかし、父上達はいつかけられたんだ?クラリスが詠唱したところなど見たことはないし、魔法陣は魔力がなくても誰にでも目に見える。母上はともかく父上は何かされそうなら気がつくはずだが……」
「それは……」と言いそうになるけれど私は口をつぐんだ。
今口を開いたら余計な事を言ってしまいそうだったからだ。
代わりにアルフィード様がため息をつく。
「お前、俺達の話を聞いていなかったのか?魅了魔法は本人にも使用している自覚はない。クラリス嬢は魅了魔法を自分の意思で使ったんじゃない。持っているんだよ」
「持っている?」
「わからないのか?クラリス嬢自身が魅了魔法なんだよ」
「!?」
クラウド様は完全に驚きで固まってしまった。まるで、そんな魔法があるのかと言うかのように……。
「ちょっと待て、アルフィードが言うことが本当なら何故シルヴィアが気がついたんだ?」
「だから、人の婚約者を呼び捨てにするな!」
クラウド様はアルフィード様に突っ込まれつつ、私を見た。
私はどう答えていいか迷った。
まさか前世で見たシーンをたまたま思い出したとは言えるはずもない。
「シルヴィア嬢は病気がちだからな、外に出られない時は図書館の本を読んでいたと聞いている」
「成る程そのせいでお前と同じようにそういう系に強いわけね」
そういう系?よくわからないけれど、アルフィード様の言葉でクラウド様は納得したようだった。
アルフィード様を見ると人差し指を口に当てている。
ここは何も話さずにいるのが正解なのだろう。
「しかし、腑に落ちないことがもう一つある」
「まだ何かあるのか?」
「魅了魔法とは今日のように、急激に態度が変わるものなのか?」
「ああ、それはクラリス嬢の心が乱れたのが原因だろうな。自身が魔法の場合、心が乱れることによって暴走することもあり得る」
「ならアルフィード、お前のせいだな」
「あのなあ…」
そう言って二人は互いのせいにしながら笑う。
しかし私は笑ってはいられない。
多分、クラリス様がおかしくなったのは私のせいだからだ。
私の事を『ベールの女』と聞きなれない呼び名で呼んでいた。
それだけじゃない。
私を見てからのクラリス様の態度が明らかにおかしかった。
クラリス様にとって私の登場は予想外だったのかもしれない。
でもそれは何故?
私が邪魔だったから?
でもそれだけ?
クラリス様は自分の事を主人公と宣言していた。
もしかしたら彼女も私と同じく前世の記憶があって、このゲームを知っているんじゃ……。
そこまで考えて私は首を振る。
駄目よ、シルヴィア。自分の事はともかく他人の事を推測で判断してはいけない。
とにかく、私は悪役令嬢の難からは逃れた。
それでいい。
「何はともあれ、俺は晴れて自由の身になったな」
「確かに。あれだけ堂々と婚約解消を宣言したんだ。魔法にかかってたから無効だとは通用しないだろう」
クラウド様とアルフィード様の話もいい感じでまとまったようだ。
既に馬車の用意もされている。
「行こうか」
アルフィード様に言われ、私は頷いて馬車へ乗ろうとした時にクラウド様に腕を掴まれる。
「シルヴィア」
「?」
「もしよかったら、また会いに来て欲しい……」
頬を赤くしたクラウド様を見て、何となくマックスのようだと笑みがこぼれる。
「私、王子様って嫌いですけどクラウド様とは良いお友達になれそうですわ。是非、またお会いしましょう!」
「!?」
何故かクラウド様はズッコケた。
アルフィード様は笑いを堪えている。
あれ?私、何か間違えた?
肩をガックリと落としたクラウド様に見送られ、馬車は動き出す。
私は大きく息を吐いた。
アルフィード様は口元がまだ笑っている。
けれど、ここからはアルフィード様も笑ってはいられないはずだ。
今から私はアルフィード様に知っていることを話してもらわなければいけないのだから……。
読んで頂きありがとうございます。
ブックマークしてくれている方々もありがとうございます!
ここにてお礼申し上げます。
頑張って書いていきますので、ながーい目で読んでくたさい。