分岐点 その2
勢いで書きました
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「アルフィード様。遅くなり申し訳ありませんでした」
マリエッタはアルフィード様に頭を深々と下げる。
そんなマリエッタを見てアルフィード様は満足そうに頷いた。
「いや、急に頼み事をしてすまなかった。信頼できる者が君しかいなかったからな」
私と執事長は二人の会話の意味がわからず二人を交互に見るしかない。
次にマリエッタは私に近づき丁寧に頭を下げた。
「お嬢様。黙って離れてしまい申し訳ありませんでした」
私は首を横に振る。
確かに不安にはなったけど、消えた訳でないなら安心だ。
マリエッタはそんな私を見て嬉しそうに微笑んだ。
そして私に近づき囁く。
「実はアルフィード様より、明日の舞踏会用のドレスをお部屋へ運んでおくように言われたんです。滞在城のメイド達は執事長の言いなりとのことでしたので……」
成る程。さっきの二人の会話はそういう意味だったのね。
でも明日用のドレスって、アルフィード様その意味をご存知なのかしら?
男性から女性にドレスを送るのは自分の者という主張になると言うことに……。
私がそんな事を考えているとマリエッタが黄色い声を上げた。
「やっぱりマリエッタの目に狂いはありませんでしたわ!!お嬢様達はお似合いです!!」
マリエッタの突然の行動にアルフィード様は驚いたようで若干引いている。
私はアルフィード様の袖を掴んで内緒話のように小声で伝えた。
「すみません。マリエッタはいつもあんな感じなんです」
「それは大変だな……」
アルフィード様が真顔で答える。そんな姿を見て私は自然と笑みが溢れた。
アルフィード様は不思議な人だ。確かに王子様という雰囲気は出ているけれど、こうして会話をするととても話しやすい。
かといってマックスやジェフリーの様な感じはしない。
何故だろう。アルフィード様と話していると胸が熱くなる。
懐かしい。
そう感じるのは、前世の記憶があるから?
それとも………。
「さあシルヴィア嬢。もう夜も遅い。私がお部屋までお送り致しましょう」
「お待ち下さい!」
すっかり存在を忘れられて空気化していた執事長が声を上げた。
アルフィード様がまだ居たのかと言わんばかりにジョージを見る。
ごめん。私も執事長の存在を忘れてたわ。
「シルヴィア様は病弱です!アルフィード様に相応しくございません!」
「お前な……」
「アルフィード様にはクラリス様が相応しいと存じます!!」
「!」
クラリス様?
その名前の令嬢は聞いたことがない。万が一に備えてシルになる前に全ての貴族の名前を覚えている私が知らない令嬢がいるとは思えず、首を傾げた。
「成り上がりの方でしょうか?」
マリエッタが私にそっと聞いてきたけど思い当たる節がない。
ふと、見上げるとアルフィード様が険しい顔をしていた。
「執事長。その話なら後で聞いてやる。今はもう下がれ」
アルフィード様の低い声に執事長はビクッと体をこわばらせた。
アルフィード様からはこれ以上は何も言うなというオーラが出ている。
執事長は私を睨んだ後、一礼して去っていった。
アルフィード様はそんな執事長の後ろ姿を面倒臭そうな顔で見送り、大きなため息をついた。
「あの…。私お邪魔でしたでしょうか?」
「え?」
私の言葉にアルフィード様は目を見開いて私を見た。
既に「素」を見せてしまったのだ。今更この人の前で病弱を演じても無意味だし、執事長も去ったから普通に話してもいいだろうと判断した。
マリエッタも私の態度からそれを察したのだろう。黙っている。
「もし、アルフィード様に既に決まった方がいらっしゃるのであれば、私は明日の舞踏会辞退致しますわ」
「それは困る」
「何故です?」
「君と一緒になら今回の舞踏会に参加すると義母上と約束したからだ」
「お妃様と?」
それを聞いてお父様が今回の話をお断りしなかった理由がはっきりとわかった。
お妃様相手なら確かに宰相と言えど簡単に断るわけにはいかない。
というかアルフィード様も他に相手がいるなら私を指名しないでほしい。
「誤解しないでくれ。義母上に言われたから貴女を誘った訳じゃない。貴女を指名したのは私の意思だ。それに私はクラリス嬢とは何もないし特別な感情もない」
「……」
「信じてほしい」
アルフィード様が私を見る目に嘘があるようには思えなかった。
初対面の人相手に何故こうも信じてしまうのかはわからない。けれどアルフィード様はそういう人ではないと感じた。
「わかりました。私はアルフィード様を信じます」
「ありがとう。これでこの後の下らない話を流し聞きできそうだ」
アルフィード様は嬉しそうに微笑んだ。
しかし、その顔に疲れている影が見えた。
この人は色んな物を抱え過ぎているんじゃないだろうか。
そう思うと胸が締め付けられたかのように苦しくなった。
少しでもその重荷を減らして差し上げたい。今まで他人に対してそんな事は一度も思ったことがないのに何故かそう思ってしまった。
「私に…」
「え?」
「私に何かできる事があれば仰ってください。私に出来ることなんて大したことはないでしょうけれど、アルフィード様の力になりたいです」
「シルヴィア嬢……」
わかっている。ここでこんなことを言ったら私はアルフィード様から離れられなくなる。
下手をすれば主人公とライバル関係になって本当に悪役令嬢となってしまうかもしれない。
でも、それでもこのままアルフィード様から離れるのはいけない。
離れたら絶対に後悔する。
そう感じた。
「ありがとう。貴女はやっぱりあの時から何も変わっていない」
「あの時?」
私が聞き返したのとほぼ同時にアルフィード様が私の前に膝まずき、手を取った。
「シルヴィア・キー・グレイス嬢。失礼を承知で申し上げる。どうか私と婚約してほしい。今すぐ。ここで」
「ここで?」
アルフィード様は真剣な顔つきで頷いた。
その目は真っ直ぐに私を見つめている。
この方がそう言うなんて余程何か理由があるんだろう。
そう思った私はアルフィード様と同じく膝を地面につけてアルフィード様を見た。
乙女ゲームだからアルフィード様以外にも攻略対象のキャラクターがまだ存在するはずだ。
でもプレイをしたことがない私にその全部を回避するのはほぼ不可能に近い。
アルフィード様と出会ったのもそういうことだろう。
私がアルフィード様を避けようとしたから何かの力で強引に巡り会わされたに違いない。
どうせどこかで落ちるならこの人がいい――。
強く思った。
「その申し出。喜んでお受け致します」
こうして私は自ら乙女ゲームの中へと足を踏み込んだのだった。
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