滞在城にて その2
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前回の続きです。
「おやおや、嫉妬ですか?マリエッタ」
カツラを手に私に近づくサーガを私は睨み付ける。
「私が貴方に嫉妬?あり得ないわ」
私はカツラを被るためにまとめていた髪を下ろしながらサーガに言い返した。
「私のお心はお嬢様一筋なの。全てはお嬢様のため。貴方が入り込む隙間なんてないわ」
「そのわりには中々の演技でしたよ。私をよく観察している証拠です」
「本当、ムカつく男ね」
「それはお互い様でしょう?」
そう言ってサーガは私の目の前に立つ。
「そしてそんなムカつく男の女なのでしょう?貴女は……」
そう言ってサーガは私の胸に指を立て、撫でる様に上から下へと指を動かす。
「私に似せる為に目にレンズを入れ、カツラを被り、シークレットブーツを履いて身長を誤魔化す。更にはその魅惑的な胸を隠す健気さ。中々そそられますね」
顎を上げられ、頬にキスをされる。
嫌な気分ではないけれど「気持ち悪い言い方しないでよ」と言い返す。
「相変わらずつれないですね」
「場所が場所でしょ?呑気にイチャついてる場合じゃないわ」
そう答えながら私は服を脱ぎ、侍女の服へと着替えはじめた。
サーガは「成る程」と言いながら手伝ってくれる。
慣れた手付きが私を更にイライラさせる。
私とサーガは男と女の関係。
別に知らない間柄じゃなくて、幼い頃から互いを知っている。
アルフィード様が生まれた際にサーガは彼に仕えることとなり疎遠になっていただけ。
数年前、丁度お嬢様が庶民に紛れる事をし始めた頃まで……。
タイミングがいいなとは思っていたけれど、まさかアルフィード様も同じ所に『留学』をしていたなんて……。
偶然?
陰謀?
わからない。
それでも聞けずにずっとダラダラ続いて、先日ついに顔を合わせた……。
そして肌を重ねた。
「貴方みたいな男が私以外の女性と今まで何もなかったなんて、未だに信じられないんだけど?」
手慣れすぎじゃない?と服を整えて私はサーガに嫌味をぶつける。
何故か顔を見ると嫌味を言いたくなるのだ。
サーガは少し驚いた顔を一瞬見せるけど何かを察した様に軽く笑う。
憎たらしい。
「誤解があるようですね。貴女以外の女が私の欲に耐えられないんですよ」
ペロリと唇を舐めるサーガ。
私は顔が熱くなる。
「このスケベ!」
「ほら、可愛い。普段は無表情の侍女として仕えているようですが、私の前だけですよね?そんなにコロコロ表情を変えるのは」
ケラケラ笑うサーガに私はイライラを募らせる。
「そんなことないわ。私はお嬢様の前では全てをさらけ出しているのよ!」
「へえ、夜の時の顔も?」
目付きが急に変わるサーガ。
私はいくらなんでもそれはないと怒る。
あんな姿はお嬢様には見せられない。
お優しくて、聡明で、純粋なお嬢様には……。
「きっとお嬢様は私を軽蔑なさるわ……」
一時の過ちとはこの事を言うんだ。
「そんなわけないでしょう。シルヴィア様もそのうちアルフィード様にそういうお顔を見せるんです。いや、もしかしたらもうそういう顔をされているかも……」
「そんなことしたら相手が王子だろうが何だろうが、この私が殺しにいきます」
「……、馬鹿ですか?あの二人が外に出た時点で想像できるでしょう?お二人だってそこそこの年齢なのですから。寧ろ何もなかったらアルフィード様はヘタレ野郎ということになります」
くいっと眼鏡を上げサーガ。
確かにそう言うこともあるかもと想定し、覚悟もした。
けれど嫌なことは嫌なのだ。
「過保護ですね」
「うるさい!」
「心配しなくても我が主は相当のヘタレ王子なので心配いりませんよ。そもそもあの人の頭の中は6年前からシルヴィア様でいっぱいなくせに今まで見ているだけだったんですから」
「6年前……?」
「おや?覚えてませんか?第三王子が起こしたあの不祥事の事。貴女もあの場にいたのでしょう?」
「ええ……」
「あの時、シルヴィア様を助けたのはアルフィード様です」
私は驚いて固まる。
正直あの時の記憶はあやふやなのだ。
それにお嬢様を危機に立たせてしまった自分を責め立ていて……。
旦那様の話しては老師様が助けてくれたと……。
「まあ、口外されてませんし、宰相様が色々と根回ししていましたからね」
「貴方はその時何処に?」
「運悪くお妃様の使いでジャイル国の端へお使いに行かされてました……」
肝心な時にいない私は役立つですね。と眼鏡を曇らせる。
私はため息をついてサーガの手を取る。
「マリエッタ?」
「仕事だったんでしょう?仕方がないわ」
「でも、俺は……」
口調が変わるサーガ。
これが本当の彼の姿。
本当は嫌味な男でも派手なドS男でもない。
それを知るのは世界でただ一人、私だけ。
「俺はアルフィード様を命に変えてもお守りする事が仕事だ。でもそれよりも、同じ場所にいながらあの時俺はお前を守れなかった……」
「サーガ……」
「仕方がないと片付けられるものか。あの時、シルヴィア様がいなければ、アルフィード様が駆けつけなければお前は第三王子に……」
サーガは震えながら私の手を握る。
「マリエッタ、君を愛しているんだ。本当に……」
「私もよ……。勿論お嬢様とは別の意味で……」
そして私達はキスをする。
息が乱れるくらい互いを求める長い長いキス。
けれどそれも永遠と言うわけにはいかない。
名残惜しさを残しながら離れる。
「さあ行っておいで、愛しい人……」
私は静かに頷いた。
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