分岐点 その1
やっと?乙女っぽい展開開始です
女の子なら誰もが一度は夢見る自分だけの王子様。
そんな絵に書いたような人が今私の前に立っている……。
どうしよう。今更だけどつい「素」で話してしまった。
まさかこんなところであっさりと「つい」の罠に自らはまるとは思っておらず、私は青ざめた。
この時、私の頭に浮かんだ選択肢は3つ。
1.素直にときめく。
2.一目散に逃げる。
3.様子を見る。
どれも微妙な選択肢なのは気にしないで頂きたい。
我ながら悲しいくらい経験が乏しいことを心の中で嘆いた。
前世の記憶がなかったら『1』を選んだだろう。
そのくらいアルフィード様は素敵でときめいてしまっている自分がいる。
でも今の私はそれを選んではいけない。
『だって、私はそんなキャラじゃないから……』
乙女ゲームの主人公はかなりの高確率で『ふるゆわ』系、もしくは『美人』系か『無自覚モテ』系と決まっている。
どこをどう見ても残念なことに私はそのどれも当てはまらない。
胸だけは前世の時より大きいけど乙女ゲームにおいてそんなことはあまり意味がない。
逆に胸が豊かだと余計に悪役ポジションなんじゃなかろうか……。
……。
いやいや、限りなく近い場所にいそうだけどまだそうと決まった訳じゃない。
間違いさえしなければモブキャラにだってなれるはず!
そう。この場から逃げたらいいのだ。
私は『2』を思い浮かべ一目散に駆け出そうとした。
ガシッ!!
あれ?逃げれない?
何かに腕を引っ張られて動けない。
そっと視線を巡らせると、アルフィード様が私の腕をしっかり掴んでいた。
「逃がさないよ?」
何、このRPG仕様……って、ドキドキしながらアルフィード様を見てる場合じゃない。
私は無理やり腕を振りほどこうとしてバランスを崩した。
「危ない!!」
「!」
アルフィード様が私を抱き止めた。
ふわりといい香りがして、また心臓がドキドキと音を立て始める。
「あ、あの……」
「しっ!声を出さないで。執事長がこっちに向かってくる」
「!?」
アルフィード様に言われて私は彼の視線の先を見た。
確かに執事長がこちらに向かって歩いてきている。
あのまま走っていたら、鉢合わせしていたもしれない。
冷や汗がタラリとでるけれどこの状況も別の意味で問題があるような気がする。
「心配はいらない。君は今目眩で倒れかけたと言う事で問題ない」
アルフィード様はまるで私の心の声を聞いたかの様に答え堂々と私を抱き寄せた。
ち、近い。
シルヴィアとして生きてきた中で家族以外の人間とこんなに異性と近づいた事なんてない。
勿論『シル』でもない。
ベールで顔を隠してなかったらこのゆでダコの様な顔を晒すところだった。
「アルフィード様、シルヴィア様。こんな場所でお二人で一体何をされているのですか?」
執事長の物凄く嫌そうな声が聞こえた。
二人じゃないと言いたいけれどマリエッタ見当たらない以上何を言ってもこの男には伝わらないだろう。
本当にマリエッタはどこに行ったのだろう。彼女が黙って私から離れる事など今まで一度もなかったのに……。
「別に。シルヴィア嬢が目眩を起こしただけだ」
「目眩……ですか?」
執事長の声と視線が痛い。
その感じから私を疑っているのがはっきりと読み取れる事実目眩なんて起こしてないから疑われても仕方がないんだけど。
でもやっぱりこの男に恨まれる理由がどうしても浮かばないし、覚えもなかった。
「アルフィード様。私の見立てではシルヴィア様は大丈夫そうですのでお離れください。要らぬ誤解を生みます」
「誤解?シルヴィア嬢とこうしていることがか?」
腰に触れているアルフィード様の手に力が入る。
いや、そこは「そうか?」と言って離れるところじゃないですか?
というか、こんなにベッタリしてたら執事長でなくとも一言言いたくなる気がする。
そう思いながらも離れない私も私か……。
「私は別に構わないぞ?」
アルフィード様の言葉に私と執事長は驚く。
「明日の舞踏会にシルヴィア嬢を誘ったのはこの私だ。それに、シルヴィア嬢さえ良ければ婚約をしようかと思っている」
「なっ!?」
執事長が大声を上げた。
私はびっくりし過ぎて逆に声が出なかった。
「な、な、な、何ということを……」
執事長はフラフラとよろめいた。
私も頭の処理が追い付かない。悪役令嬢にこんな乙女チックな展開があるなどと聞いたことがない。
あったとしてもそれは悪役令嬢にならないために色々苦労して成し得るものじゃない?
でも私はまだ何もしていない。それどころかどうすればいいか考えただけだ。
しかも自ら攻略対象とおぼしき人間に選択肢ミスをするという間抜けをしている。
それなのにこんな展開になるなんて主人公みたいな待遇。いいのかな?
「何故シルヴィア様なのですか!」
「何故だと?お前に話す必要はないな」
「ですが…!」
「お前は滞在城を任させれている執事長でしかない。私がどう行動しようと関係なかろう?」
「そ、それは…」
執事長は言葉に詰まった。
確かに直属の側近でも専属執事でもない彼はアルフィード様に何かを言う資格はない。
アルフィード様はそんな執事長を見てニヤリと笑みを浮かべ私を見た。
「シルヴィア嬢。明日、私のパートナーとして舞踏会に参加してくれますね?」
「!」
ここだ。
ここで断れば私は悪役令嬢になる確率が下がる。
「シルヴィア嬢?」
お願いだからそんな不安そうな顔をして私を見ないでほしい。
すごく断りにくい。
私が困っていると執事長の横から人影が現れた。
「当然行きますわ。その為にお嬢様は滞在城に来たのですから」
「!!」
現れたのはマリエッタだった。
マリエッタ、謎の行動は次でわかります
よければまたお付き合いください