9話 逆夢オチ?
27日?
おかしい。
だって俺が明晰夢を見ていたのは25日から26日のはずだ。
25日に寝たから26日の朝をイメージした訳だし……
考えられる理由は……まさか丸1日寝てたとか?!
夢の中での体感時間が長かった事からあり得なくもない。
だが、仮に本当にそうだったとしたら母さん達が黙っているはずがない。
ずっと起きなかったのならば今頃病院で精密検査を受けているだろう。
起きたばかりの頭をフル回転させて色々と考えるがなかなか答えが見つからない。
目覚まし時計の表示が間違っているのかとも思い、スマホのロック画面を確認したが、やはり4月27日と表示された。
まさか……今までのことは全部夢だと思っていたけど、夢などではなく全部現実世界での出来事だったりして。
シミュレーションで朝を迎えた訳ではなく、実際に朝を迎えていたとしたら確かに辻褄が合う。
――いや無いな。
現実世界で女の子を交通事故から救ったり黒岩を綺麗に背負い投げしたりできるわけがない。
それに、雫石が現実であんな反応をすることがまずありえないのだ。
だが、そのまさかだ。
もしも夢の出来事が現実での出来事だったとしたら。
俺は全身から嫌な汗が流れるのを感じ、そのまま部屋を飛び出した。
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廊下にでると隣の部屋からちょうどパジャマ姿の雫石が出てきた。
夢の中とほとんど同じシチュエーションだ。
「奏多君、おはようございます」
「お、おはよう」
君? 雫石はいつも俺のことを奏多さんと呼んでいたはずだ。
まさか まさか まさか
「その……今日は言ってくれないんですか?」
「な、何を?」
そこで俺は雫石に言った言葉を思い出した。
『今日も雫石は可愛いな。大好きだ。愛してるよ』
『本当に雫石は可愛いな。心配しなくても俺が全部受け止めてあげるよ』
「私、昨日奏多君にああ言ってもらえて本当に嬉しかったんです」
雫石はそう言うと上目遣いで頬を赤らめてこちらを見つめている。
あぁぁぁぁ!? 夢じゃなかったぁぁ?!
どうする俺、あの台詞をもう一度言えと?
無理だ。現実だとわかった状態で言えるわけがない。
それに雫石は家族だぞ? 倫理的に問題がありすぎる。
「だ、大好きだよ雫石。家族として愛してるよ」
思考回路が凍結した俺はそんな苦し紛れの言い訳のような返答しかできなかった。
「え、か、家族としてか! な、なーんだ。そうですよね。私も家族として奏多君の事好きですよ」
明らかにトーンが落ちた声で雫石はそう言うとガックリと肩を落として階段を下って行ってしまった。
罪悪感が半端じゃない。
夢だと思っていた事が現実なら、雫石の
『奏多君のばかぁ。奏多君と同居なんて夢みたいだったけど、家族だからって、血が繋がってるからってずっと意識しないように頑張って奏多君を避けてたのに! そんな事言われたらもうこの気持ちを押さえられないじゃん。もうこれからどうすればいいかわかんないよぉ』
という言葉から俺に家族以上の感情を持っていることは簡単に予想ができる。
それに対して俺はそれを受け止めると言ってしまったのだ。
俺は最低な奴だな。
夢だと思っていたとはいえ、自分からあんな事を言い出したのに自分から逃げるなんて。
でも雫石の気持ちには答えることができない。
だって家族なのだから。
#
思い返せば不自然な点が沢山あった。
昨日の授業内容はまだ習っていない所だったし、ニュースや新聞もまだ知らない内容ばかりだったのだ。
そこですぐに夢ではないと気づくべきだった。
だが、時すでに遅し。後悔先に立たずだ。
ズキリと背中が痛み、部屋の姿見で背中を確認すると真っ青なアザだらけになっていた。
きっと昨日アスファルトに背中を打ち付けた時にできたアザだろう。
下手をしたら俺はあの時死んでいたかもしれない。
現実だったと思った瞬間その恐怖で押し潰されそうになる。
だが、裏を返せば夢だと思っていて良かったとも思える。
夢だと思っていなかったらきっとあの時俺の足は動いていなかったと思うから。
スマホでTwitttterを確認するとやはり黒岩を投げた動画がアップされていた。
リツイートが5000、いいねが2万を越えている。
本当に夢じゃなかったのか。
段々とその実感が湧いてきた。
#
朝食を囲む食卓はとても気まずかった。
うちでは食事は特に用事が無ければ家族全員で食べるのだが、俺は目の前の席に座る雫石の顔を罪悪感から直視できなかった。
母さんや父さん、咲枝叔母さん達が
「何かあったのかしらね」
「喧嘩でもしたんじゃないか?」
「まあ様子を見ましょうよ」
など話しているのが聞こえたが、気にしている余裕はなかった。
今日は吹奏楽部の朝練は休みで代わりに陸上部の朝練がある日のため、俺は身支度を済ませた後、急いで玄関を出ようとした。
早く行かないと今日も沙耶に怒られてしまうからな。
「奏多君!」
そこで俺は雫石に呼び止められた。
「私、さっき奏多君に嘘をつきました。本当は奏多君の事が家族としてではなく、一人の男性として好きです」
「え……」
わかっていた事とはいえ、突然の告白に頭が真っ白になった。
家は玄関とリビングは少し距離がある間取りのため、リビングでテレビを見ている母さん達には多分聞こえていないだろう。
「私、もうこの気持ちを押さえられないと言いましたよね。奏多君がなんと言おうと諦めるつもりはありません」
「それってどういう」
「奏多君、知っていますか? いとこ同士は結婚出来るんですよ? 私、絶対に奏多君を落としてみせます」
雫石はそう言って妖艶に笑うとタタタと走って部屋に走って行ってしまった。
ええぇぇぇ?!
俺はただ、呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。
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