8話 帰り道
学校の授業と部活を終えた俺は一人帰り道を歩いていた。
いつもは沙耶と一緒に帰っているのだが、沙耶は体調不良らしく、『体調悪いから部活休む』とLIMEでメッセージを俺に送ると学校の放課が終わってすぐに帰ってしまったのだ。
朝は学校とは逆方向に走って行ったが、とりあえず学校へは来ていたようで安心した。
朝はあんなに元気だったのにどうしたんだろうか。
「成瀬先輩」
やはり明晰夢は凄い。
俺は二時限目から授業に参加したのだが、夢の中だというのに普通に授業を受けているようだった。
これは応用すれば睡眠学習も夢じゃないかもな。
まあ、明晰夢だから夢ではあるのだが。
「成瀬先輩ってば」
本当に今日は色々な事があったな。
そういえばどうすれば夢から覚めるのだろうか?
かなり時間が経っていると予想できるため、名残惜しいがそろそろ起きる事を考えなければ。
そうだ! 夢の中で眠りにつけばまた戻れるのかもしれないな。
「童貞先輩!」
パワーワードが聞こえたため後ろを振り返ると陸上部の後輩、白鳥胡桃が頬を膨らませて立っていた。
胡桃は俺と沙耶の中学からの後輩だ。
新入生はまだ部活動体験期間だが、胡桃は春休みから練習に参加していたため、すでに本格的な練習に参加していた。
胡桃の髪型は中学の頃からずっとショートで体格もずっとそのままの小さくて可愛い後輩なのだが、体格についてイジると本気でキレるため体格の話は本人の前ではタブーだ。
「さっきからずっと呼んでるのに何でずっと無視するんですか!?」
「え、ああ。ごめん。ちょっと考え事をしててな。っていうか童貞先輩って俺のこと?」
「失礼、噛みました」
「……噛んだってレベルじゃないだろ」
「冗談に決まってるじゃないですか。パロディですよパロディ。あ、もしかして『かみまみた』まで言って欲しかったですか?」
胡桃はアニメ、ラノベ、ゲーム全般を好んでおり、俺と趣味も合うため、たまにこういうボケをかましてくるのだ。
「はぁ、まあいいや。それで、どうしたんだ?」
「どうしたんだって、こっちが聞きたいですよ。沙耶先輩は今日どうしたんですか?」
「沙耶は学校には来てたみたいだけど、体調不良で部活休んで帰ったよ」
「なんと! 彼女が弱っているときは側に居てあげるのが彼氏の役目です。先輩、早く沙耶先輩の家に行ってあげてください」
「もし明日も休んだらお見舞いに行こうと思ってたけど……っていうか彼女と彼氏って沙耶と俺のこと?」
「それ以外に誰がいるんですか」
胡桃はキョトンとした様子で聞き返してくる。
「俺達幼馴染みってだけで付き合ってないぞ?」
「またまたご冗談を!」
信じていないのか胡桃は笑いながら俺の背中をバシバシ叩いてくる。
痛い! 痛い! 痛い!
だが、やがて俺が本気で言っている事が伝わったようで笑顔が段々とひきつっていく。
「え? あ、あれ? それ本当ですか?」
「本当だけど」
「えええぇぇぇ?!」
胡桃の叫び声が閑静な住宅街に響き渡る。
「うるさい、うるさい。近所迷惑になるから!」
「あんなにずっと一緒に居るのにですか?」
「ああ。幼馴染みだからな」
「先輩と話しただけで沙耶先輩が私に嫉妬したりするのにですか?」
「嫉妬?」
「ごめんなさい。今のは忘れてください。先輩、最後に一つ質問良いですか?」
「いいけど」
「沙耶先輩のこと、どう思ってますか?」
「うーん、いい奴なんだけど暴力と暴言があるからなぁ。あ、でも暴力と暴言がなければギャルゲーヒロインとして申し分ないポテンシャルがあるよな!」
俺はギャルゲーも好きな胡桃なら同意してくれると思ったのだが、胡桃は地面に両手両ひざをついてなにかをブツブツ呟き始めた。なんか怖い。
「沙耶先輩……いつも部室であんなに惚気てたのに……全部一方的な好意だったなんて……」
「よし決めました!」
かと思ったらスクっと立ち上がりそう叫ぶ。
忙しい奴だな。
「私、沙耶先輩のサポーターになります!」
胡桃はそう訳のわからないことを叫ぶとものすごい速さで走り去ってしまった。
女子陸上部では叫びながら全力で走り去るのが流行っているのだろうか……
そんなことを考えながら俺はまた家までの道を歩き始めた。
#
家に着くとすぐにご飯を食べ、お風呂に入った俺はすぐにベッドに横になった。
夢から覚めるのは名残惜しいが、色々あったせいか、どうにも体も目蓋も重くすぐにでも寝たい気分だったのだ。
今日あった出来事を思い浮かべているうちに、体は限界を迎え、俺は意識を手放した。
#
朝日がカーテンの隙間差し込み、俺は目を覚ましす。
目に入ったのは見慣れた天井。
体を起こして辺りを見渡すといつも通りの俺の部屋だった。
ああ、戻ってきたのか。
それにしても凄く充実した夢だったな。
デジタルの目覚まし時計を見ると日付は4月27日の午前6時。
え? 27?
俺は全身の血の気が引くのを感じた。
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