7話 一件落着
「なんか大変だったね」
律が乾いた笑みを浮かべながらそう呟く。
朝の事件が一件落着し、解放された俺と律は教室へ戻るために一緒に廊下を歩いていた。
「本当……大変だったな」
俺は黒岩の涙と鼻水でどろどろになってしまった自分の制服を見下ろしながらため息をついた。
これはクリーニングに……いや、もう背中がボロボロだから買い替えるようかな。
うちに控えが一着あったはずだから当分はそれでしのぐか。
そんなことを考えながら歩く。
あの後、黒岩に泣きつかれて本当に大変だったのだ。
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『いいんですか?! こんな俺と本当に友達になってくれるんすか?!』
黒岩は差し出した俺の手をガシィと両手で掴みながら、涙と鼻水で凄いことになっている顔で俺を見上げてそう言う。
『あ、あぁ』
あまりの黒岩の勢いに気圧された俺は返事に少し詰まってしまった。
『ううっ、俺、今までそんなこと、言われたことなくて。超嬉しいっす。どこまでもついていきます!』
黒岩はそう言うと座りながら俺に抱きついてきた。
『うわっ、ちょ、お前止めろって! 汚い! 汚いから!』
『嬉しくてつい』
なんとか黒岩を体から引きはがすが、制服は鼻水と涙でどろどろになってしまっていた。
ううっ、俺が泣きたい。
そんな様子を佐渡先生と鬼塚先生は腕を組ながらうんうんと頷いて見ていた。
鬼塚先生いつの間にか黒岩の隣から佐川先生の隣に移動してるし。
『いやぁ、青春ですね佐渡先生』
『そうですね! 熱い友情って感じがします』
……うちの高校にはこんな感じの先生しかいないのか?
『黒岩君。さっきは……その、事情をよく知らずにあなたの大切な物を取ってしまってごめんなさい。でも、決して悪気があった訳じゃないの。校則は校則だし守らなきゃいけないものだから。そこはあなたにも分かって欲しいと思ってる。それでも、もし良かったら私とも仲良くしてくれたら嬉しいな』
『俺のこと許してくれるんですか?! 俺、あなたを泣かせた最低な奴ですよ?!』
『あのときはちょっと怖かったけど、悪い人じゃないってわかったからね』
律はえへへと笑いながらそう言った。
『姉御!』
『『え?』』
姉御って昭和かよ!
現実でそう呼ぶ人初めて見たぞ。
荒杉第一中ではこう呼ぶ人がいるのだろうか?
黒岩は話を聞く限りだと友達との付き合いや交流があまりなかったみたいだから周りの見よう見まねをしているのかもしれない。
だとしたら荒杉第一中ってめちゃくちゃ古風というかなんというか……
『前に読んだラノベに女の子に手をあげて泣かせたり、怒鳴り付けることは一生許されない行為って書いてあるのを読みました。俺、一生かけてこの罪を償います!』
『い、一生は重すぎるかな』
『では、姉御の使い走りになります!』
『そういうのはちょっと……』
『じゃあ、姉御の奴隷になります! いや、ならせてください!』
会話の雲行きが怪しくなってきたぞ?
黒岩は良い意味でも悪い意味でもまっすぐな奴だな。
『普通に仲良くしてくれるだけで平気だからね? ね?』
律は必死に説得するとようやく黒岩は落ち着いた。
『よし、もうそろそろ1限目が終わるから成瀬と美風は教室に戻ってくれ。黒岩は反省文を書いてからな。あと黒岩、明日からは抱き枕じゃなくて他の校則に違反しない物を持ってくるようにな。』
『わかりました!』
元気よく答えた黒岩は早速反省文を書き始めていた。
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「朝はありがとね」
階段の踊り場で少しだけ前を歩いていた律がふと立ち止り、くるりとこちらを振り返ってそう言った。
「え? ああ、黒岩意外といい奴だったけどね」
「うん。でも奏多が助けてくれて、凄く嬉しかった」
そう言いながら笑う姿はいつもの元気な律とは違い、どこか儚げで思わずドキッとさせられた。
そうだった! リアルすぎて忘れかけてたけど、これは明晰夢だから俺の願望が反映されるんだった!
「今日の奏多、格好良かったよ」
律はそう言うとタタタと階段をかけ上がり、先に教室へ行ってしまった。
ぐはっ……超萌える。
俺は膝から床に崩れ落ちた。
尊い……Twitttterの恋愛漫画を読んだ時のようだ。
脳内で保存とエアいいねとエアリツイートをする。
友達に萌えを求めるのは人間としてどうかとは思うが、夢の中だから大丈夫だよな?
まあ、友達だけでなく、幼馴染みまでにならまだしも、いとこに潜在意識下では萌え要素を求めていた時点で完全にアウトなのだが。
一限目終了のチャイムが廊下に鳴り響き、我に返った俺は急いで教室へ戻った。
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