6話 また一難?
佐渡先生に連れられて俺は生徒指導室へ移動していた。
他のクラスは授業中のため校舎はとても静かで、俺と佐渡先生の足音だけが階段に響く。
生徒指導室へは一度だけ入ったことがあった。
とは言っても何か問題を起こしたという訳ではなく、学年で一斉に進路相談の個人面談をしたときに部屋数が足りず使っただけなのだが。
ああ、緊張するなぁ......
朝の件の話で俺が呼び出されるとしたら事情確認だよな。
いや、待てよ。過剰防衛とか校内での暴力事件として処理されていたらどうしよう。
もしくは力加減ができてなくて怪我をさせてたとか?
そうなると最悪の場合、停学か謹慎の可能性もあるかも。
無言で歩く先生の背中を見ているとそんな悪い考えばかりが浮かんでくる。
「先生、話ってやっぱり朝の事情調査ですか?」
怖くなってきた俺は我慢できず、先生に思いきって質問してみた。
「ん? あー……それもあるけど」
『も』ってことは他にもっと重要なことがあるのか?!
冷や汗が背中をダラダラ流れてくるのを感じる。
「成瀬、本当に言いにくい事なんだが……」
佐渡先生は急に真剣な表情になってそう切り出した。
あ、これ終わったわ。
停学とかそういう流れですわ。
「……いや、やっぱりこれは生徒指導室に着いてから話すよ」
長い! 溜めが長い!
精神的に半殺しにされた俺はそれ以上考えることをやめた。
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「失礼しま……す?」
生徒指導室へ着いた俺は部屋へ入るとその異様な光景を目の当たりにして言葉を失った。
生徒指導室には三者面談をするために少し大きな皮のソファーが机を挟んで2台あるのだが、部屋に入って左手のソファーに律が、右手のソファーにさっきの不良と強面の生活指導担当の鬼塚渉先生が座っていた。
そこまではわかる。わかるのだが......
「ううっ、だから俺は学校が嫌いなんだ! ぐすっ」
「泣くな泣くな。男は泣いたら強くなれないぞ?」
「すいません。私が事情も把握せずに行動してしまったせいで」
「いや、美風は何も悪いことをしていないぞ。自分の行動に自信を持て」
目の前に飛び込んできたのは机に突っ伏して泣きじゃくる不良と不良の背中をさすりながら慰めている鬼塚先生、反省している様子の律の姿だった。
「あの、佐渡先生? この状況は……」
一瞬脳がフリーズしたが、俺は佐渡先生に助けを求める。
「ええと、成瀬。順を追って説明していくな」
「はい、お願いします」
「あの金髪君は黒岩忠っていう名前で、新入生だ」
やはり新入生だったのか。通りで見覚えのないわけだ。
「それで出身中学は荒杉第一中らしい。成瀬も名前くらいは知ってるだろう?」
「はい、知ってます」
荒杉第一中は隣県にある、不良が多く荒れていることで有名な中学校だ。
「そこであいつは真面目に学校生活を送っていたらしいんだが、周りが不良ばかりだったせいでクラスに上手く馴染めず、虐めにあって一時期不登校になっていたそうなんだ」
「そんな不安定な時期にあの抱き枕のキャラにハマって精神的に依存してしまったと、さっき親御さんと電話をしてわかったんだよ。あのキャラに関係するものを肌身離さず持っていないと精神的に不安定になりやすくなってしまうらしい」
「でもこのままだと将来が心配だし学校へ行ってなくても勉強は結構していたらしいから、親御さんがなんとか黒岩を説得して、地元を離れて平和なうちの高校を受験したそうだ」
「金髪にしたのは中学のトラウマから友達が居ないとなめられて虐められると思い込んでいたかららしい。不良を演じて一匹狼を装おうとしたみたいだな。ピアスは穴を開けるのが怖かったらしくてノンホールピアスにしたそうだ」
あの不良……じゃなかった。黒岩にそんな過去があったとは。
あれ? 待てよ? じゃあ俺が怪我をさせたとかそういう理由で呼び出された訳じゃないのか?
「え、じゃあさっき言ってた言いにくいことって」
「ああ、私からは非常に言いにくいのだが……」
ゴクリと唾を飲み込み喉がなる。
「あいつと友達になってやってくれ」
「えぇぇぇ?!」
そんなこと?!
めちゃくちゃ深刻そうだったからもっと重大な事だと思ってたのに。
「わかる、わかるぞお前の言いたいことは。友達って言ったら 拳で語り合ってから 『やるな』 『お前こそ』ってやり取りのあとに芽生える友情あってこそだもんな。だから言いにくかったんだ」
全然わかってねぇぇ
うんうんと頷きながらそう語る佐渡先生は意外に熱血タイプだった。
「停学とか謹慎じゃなかったんですか?!」
「なに言ってるんだ? お前は美風を守っただけだろ? それに黒岩も厳重注意だけで反省文は書かせるけど停学とかないからな?」
よかった。夢だけどひと安心だ。
「それなら全然大丈夫ですよ。さっきは自分もカッとなってしまった部分がありますし、話を聞いた限りだと悪い人ではなさそうなので」
先程の話を聞いてしまった俺には断ることはできない。
「おお! 本当か! 助かったよ」
「でも何で自分なんですか?」
「お前も知ってるだろ? 朝の動画が拡散していることを」
「あ……」
「モザイクがかかっていたが、きっとすぐに特定されて噂が広がるだろう。そうなればうちでもいじめが起きるかもしれないし、せっかく学校へ来るようになった黒岩がまた不登校になるかもしれない。だからお前があいつの事を見守ってやってほしいんだよ」
「わかりました」
俺は机に突っ伏している黒岩の隣まで移動すると右手を差し出しながらこう言った。
「俺は成瀬奏多。これからよろしく」
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