5話 一難去って
「ちょ、おま、有名人じゃん!」
教室へ入った俺を迎えたのはニヤニヤしまくっている友人、中井蒼真だ。
蒼真は中学からの友人で同じ部陸上部に所属しているため、付き合いは長い。
「俺、それ嫌いなんだよね。古いし」
「そんなこと言うなって。一回くらい言ってみたくね?」
「別に言ってみたくないけど」
「全く、乗りが悪いやつだな」
蒼真はやれやれと首を左右に振って大袈裟にジェスチャーする。
「で、有名人ってなんだよ?」
蒼真が言いたいことは大体予想できるが、あえて聞いてみた。
おそらくさっきの一件をどこかで見ていたのだろう。
あの場には30人ほどの生徒がいたため、そのなかに蒼真もいたのかもしれない。
「そうそう! ちょっとこれ見ろって!」
そう言って差し出されたのは蒼真のスマホだった。
蒼真のスマホに写っていたのは予想通り、さっき俺が背負い投げをした動画だ。
不良が律の胸ぐらに掴みかかってから俺に投げられて拘束されるまでの数十秒の動画なのだが、顔にはモザイク加工がされている。
最近はスマホアプリでこういった編集が簡単にできるらしいからな。
ん? 編集? ちょっと待て、もしかして。
嫌な予感がして画面をタップする。
するとリツイート500、いいね1500と表示された。
投稿された時間を見るとまだ数分前だ。
「これお前だろ? 『おい、お前。その子離せよ』 なんてカァッコいー」
蒼真はそう茶化すが、俺はそれどころじゃなかった。
「……マジか」
「やっぱりお前だったか!」
恥ずかしっ!?
夢の中だからって格好つけすぎた。
客観的に自分の姿を見てみると『ぼくのかんがえたさいきょうの~』みたいな設定で黒歴史ノートを見ているような感覚だ。
明晰夢は自分の思い浮かべた通りの夢が見れる。
つまり、自分の行動は自分の妄想なのだ。
心が、心が辛い。
それにSNSで拡散される夢を見てしまうとは……俺ってこんなに自己顕示欲強かったっけ……
自分の心の奥底の見てはいけない願望を見てしまった気がした。
「隣のクラスの川崎っているだろ? 」
「ああ、あのギャルっぽい子か」
隣のクラスの川崎千夏は一言で言えばスクールカースト上位のいわゆるギャルっぽい雰囲気の女子だ。
俺はよくわからないが最近流行っている『Tok Tok』? で有名らしい。フォロワーもかなり沢山いるそうだ。
「そうそう。その川崎が朝登校してきた時に撮ったらしいんだよ。でTwitttterに上げたら一気に拡散したみたい」
自分のスマホでも確認すると確かに川崎のアカウントから投稿されていた。
「おーいみんな! やっぱりこれ奏多らしいぞ!」
「お、おい! やめろって!」
蒼真が急にクラス中に響く声でそう叫んだ。
せっかく動画にモザイクがかかっているのに意味が無くなってしまう。
あぁぁぁ、俺の黒歴史をみんなに公開されてしまった――ような気分になった。
「え?! これ奏多君? すごいね!」
「校門の方でなんか騒いでると思ってたけどお前だったのか! 見に行けば良かったわ」
「っていうか制服ボロボロじゃんか! どれだけ激しい戦いだったんだよ」
……まあ、ちやほやされるのも悪くないかな。
ここは夢の中だ。この状況を思いきり楽しむか。
誉められて気分を良くした俺は手のひらをくるくる返す。
「お前らー、そろそろ席に着け。ホームルームやるぞ」
担任の佐渡先生が戻ってきた。
しかし律はまだ戻ってきていない。
「喜べお前ら。今日の一限目は諸事情によって自習になるぞ」
「やったぜ! わたりん最高!」
蒼真がそう叫ぶとクラスでわたりん最高コールが起きた。
わたりんとは佐渡先生の愛称である。
「うるさい、うるさい。お前らいつも元気だな。大人しくしてろよ。あと成瀬、朝の件でちょっと話があるからこのあと生徒指導室に来てくれ」
「わかりました」
俺はそう答えたが、何故か凄く嫌な予感がした。
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