21話 日常の変化
朝、俺の家の玄関の前はカオスな空間になっていた。
「何でまた金髪君がいるの!?」
「そっちこそ何でいるんすか!」
「私は近所にすんでるからですぅー。金髪君の家この辺じゃないんでしょ? 何でわざわざ来てるの」
「家から通うと遠いからこの近くに引っ越して来たんすよ! 悪いっすか?」
「……チッ」
「今舌打ちしたっすね!?」
「してませんよ。頭だけじゃなくて耳までおかしいんですか? 冗談は金髪だけにしてください」
「……うぅっ」
「ああっ! ごめん! ごめんってば!」
人の家の前で何やってるんだ、あいつらは……
俺は玄関の前の光景を自分の部屋の窓から見ていた。
時刻は朝の6時30分過ぎ。
今日は朝練があるためもうすぐ家を出る時間だ。
うわぁ出て行きたくねぇ。
でも近所迷惑になるから黙らせなきゃいけないし、それに……
「何してるんですか? 奏多君。早く行きましょう。遅刻してしまいますよ?」
雫石が開いているドアから顔を覗かせて不思議そうにこちらを見ながらそう言った。
「あ、ああ、うん。わかってる」
雫石に昨日、
『そうだ! 一緒に居られる時間が少ないなら作れば良いんですよ! もう遠慮する必要が無くなったので、明日から時間が合う日には一緒に登校しましょう。というかします』
と言われたのだ。
もちろん、色々言い訳をして回避しようと思ったのだが、
『奏多君が何と言おうと絶対についていきますからね』
と言われてしまったため抵抗するすべがなかった。
最近の雫石は吹っ切れたのか大胆になったというか強引になったというか……
これは早々に解決しなければいけない問題になってしまったな。
佐渡先生に電話をしたら今日の放課後にまた相談に乗ってもらえることになったため、この事を含めて相談するか。
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「ちょっとお前ら近所迷惑になるから静かにしろ」
俺は苦情が来る前に静かにさせるために玄関に出ると騒いでいる二人を注意した。
雫石は今日提出のプリントを机に忘れたと部屋に取りに行ったため、まだ家の中だ。
「あ! 奏多先輩、待ちましたよ!」
「待たせてたんじゃなくて勝手に待ってただけじゃないの?」
だって何かを約束した記憶がないし……
「やれやれ。先輩、女性を待たせておいてその反応は無いでしょう」
胡桃は首を左右に振ってジェスチャーをしながらそんなことを言ってきた。
……なんか沙耶に似てきたな。
「はいはい、遅れてすいません」
面倒なので適当に謝っておく。
「先輩、『はい』は一回ですよ?」
うぜぇ!?
朝からこのテンションは正直きつい。
「まあ、いいや。それで朝っぱらから人の家の玄関で何やってんだよ」
「奏多先輩、従姉妹さんが迫ってきて困ってるって言ってたじゃないですか。ほら、ラブコメによくある偽の恋人のふりをして諦めさせるってやつ」
「だからその事を詳しく相談するために来たんすよ」
黒岩と胡桃が交互に話してくる。
あの話って本気だったの?!
てっきり冗談かと思っていた。
「あの話ガチなの?」
「ガチです」
「ガチっす」
二人とも目がマジだった。
「やっぱり恋人役の適任は付き合いの長さからも沙耶先輩だと思いますよね?」
「いやいや! 付き合いの長さとか関係無いっすよ! 俺は姉御の方が適任だと思うっす」
「ちょっと待て! 静かにしろ! やるかどうかは別として、そもそも雫石にバレたら元も子もないだろ」
ちょっと君たち、雫石も一緒に暮らしてること忘れてるでしょ!
もう雫石来ちゃうから!
「今日は賑やかですね、奏多君」
ちょうどその時ガチャリと玄関が開いて雫石が出てきた。
一瞬の静寂。
雫石の顔を見た黒岩と胡桃は口をポカンと開けたままフリーズしていた。
そうか、黒岩と胡桃は雫石と合うのは初めてなのか。
「な、な、奏多先輩の従姉妹さんって天野先輩だったんですか?!」
胡桃が驚いたような声をあげた。
「え、知ってるの?」
「知ってるも何も、一年生のなかでめちゃくちゃ有名っすよ! 男子からの人気はもちろん、女子からの人気も高くて天野先輩目当てに今年の吹奏楽部は例年の倍の人数が入部したらしいっすし」
「なんだか照れますね。でも奏多君に振り向いてもらえるようになるためにはもっと自分を磨かなくてはいけませんね!」
すると黒岩と胡桃はポカンと開いた口をさらに開けてすごい顔をしていた。
あれ、顎が外れるんじゃないか?
「すいません奏多先輩。正直舐めてました。先輩の話がここまで本当だとは思っていませんでした。今度は本気のプランを立てて出直してきます」
「俺も正直舐めてたっす。このままだと勝ち目はなさそうなので出直して体制を整えて来るっす」
そう言うと二人は走って行ってしまった。
だが、相変わらず黒岩は遅かった。
本気のプランを立てるとか、体制を整えるとか、あいつらは一体何と戦ってるんだ?
「では、行きましょうか」
にっこりと笑う雫石に逆らえず俺達は一緒に学校へ向かった。
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