20話 雫石覚醒
雫石の俺に対する対応は父さんや母さん、咲枝叔母さんの前では以前と変わらない。
だが……
「雫石……何してんの?」
いつもと変わらない食卓を囲み、夕食を食べ、お風呂から上がって部屋に戻った俺の目に飛び込んできたのは俺のスマホのロックを必死に解除しようとしている雫石の姿だった。
「えっ?! 奏多君?! いつもより5分早い……じゃなくて、これは違うんです!」
いつもより5分早いってまさか……俺の入浴時間を把握してる?!
確かに今日は見たいテレビ番組があったから、いつもより少し早く上がったけど……ってそうじゃなくて!
「何で俺の部屋に入って俺のスマホを解除しようとしてるの?」
普通に怖いよ!
家族とはいえ、親しき仲にも礼儀あり。
これは完全にマナー違反でしょ。
「い、いや、違うんです。あの、これはですね……あっ、そうだ! 奏多君のスマホのアラームが鳴ってたから止めに来たんですよ。もう、しっかりしてくださいよね! では私はこれで……」
雫石はそう言うとソロリと俺の部屋から出ていこうとした。
「ちょっと待った!」
そこで俺は即座に部屋のドアを閉めて雫石を引き留める。
自分で『あっ、そうだ!』とか言っちゃってるし、怪しすぎるでしょ。絶対に何かある。
「正直に何をしていたか言ってほしい。今話してくれたら許すからさ」
「絶対に許してくれるんですか? これって正直に言っても結局怒られるパターンですよね?」
そういう返答をする時点で雫石がアラームを止めに来たという嘘をついていた事は確定しているのだが、雫石が何をしていたか聞き出すためにあえて触れないでおく。
「許すよ」
ただし『場合にもよる』と心のなかで付け加えるが。
「絶対ですよ? ……実はですね、奏多君に私を女として見てもらうには物理的な距離を縮めなくてはいけないと思ったんです。部活はもちろん、クラスも登下校も別なのでアタックするチャンスは家しかありません。でも家だとお母さんとか伯父さんと伯母さんの目があるので、攻めるなら休日にデートに誘ったりする必要があったのですが、それだと絶対に奏多君に断られてしまうと思ってですね……」
うっ、なんだろう。何で雫石は堂々とこんなことを言えるんだろうか。
聞いていてこちらが恥ずかしくなってしまう。
だが、次に続いた雫石の言葉で俺は一瞬で我に返った。
「ですから、奏多君の弱みを握ろうと思ったんです」
「……なっ?! は?!」
嘘でしょ?
「だってそれくらいしないと奏多君、絶対に私とデートなんてしてくれなさそうじゃないですか! 弱みを握れば口実ができて、一緒に居られる時間が増えるのでアタックするチャンスも増えます。奏多君に私を一人の女と認識させよう作戦その3です」
もう少しで弱みを握られるところだったのか……
でも待てよ? でも弱みになるような物なんて特にないはずだ。
強いて言えば小学校の卒業アルバムに『将来の夢はゴッドハンドやカメカメ波を出せるようになりたい』って書いた黒歴史があるだけだよな。
あれはまだ小学生だったことに加えて卒業アルバムに書いちゃったからもう割り切ってるし弱みにはならないぞ?
あっ?! そうだ夢日記!
あれにはあんなことやこんなことが沢山書かれているため誰かに見られた日には死にたくなる程だ。
まさかすでにバレてる?
「でもなんでそれで俺のスマホのロック解除しようとしてたの?」
俺は内心冷や汗ダラダラだったが、冷静を装って聞く。
「弱みの定番と言ったら黒歴史ノートかえっちな本ですが、ベッドの下とかクローゼットとかを探しても見つからなかったんですよ。なので奏多君のスマホの検索履歴と写真のファイルを漁ろうと思ってたんです」
良かった、日記はバレてないみたいだ。
変に隠さないで教科書とかと一緒に並べてて良かった!
「それ、人としてアウトでしょ」
「だって奏多君の好みの女性のタイプを把握するためにも必要なことだったんですよ。なのでスマホの写真と検索履歴を見せてください」
なんか開き直ってるし……
「まあ、別にいいけどさ」
夢日記が見つかっていない事に安堵した俺は謎のテンションで雫石にスマホのロックを解除して手渡した。
それに俺のスマホはアクセス制限がかかっており、超健全で超クリーンである。
頑なに拒む方が逆に怪しまれると思ったのだ。
「この写真に写ってるのって奏多君の幼なじみだという星川さんですよね?」
雫石は俺の写真のフォルダにあった中学の頃の沙耶とのツーショット写真を指差してそう言った。
「そうだよ」
「なんか星川さんとの写真多すぎませんか?」
「まあ、確かに長い付き合いだからな」
「やはりライバルは……」
何かぶつぶつ言っているが気にしないでおく。
「むむむ。検索履歴と予測変換は健全ですね」
なんでちょっと悔しそうなんだよ。
「まさか?! 奏多君って男色趣味?」
「ちげぇよ! ノーマルだよ!?」
断じて俺はノーマルである。
そうじゃなければギャルゲーなんてやらない。
「でも、年頃の男の子なのにこれはちょっと……だから私の色仕掛けにも反応が薄いんですね。これからはもっと過激にして奏多君を矯正するべきでしょうか」
「だから違うって!」
あぁぁ、天使のように良い子だった雫石は何処へ……
俺は今完全に理解した。
やはり雫石は異性としては見れないと。
このあと俺は速攻で佐渡先生に電話をかけて相談した。
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