2話 幼なじみを攻略
「行ってきます」
朝食を食べ終えた俺は制服に着替えて学校へ向かう。
雫石は吹奏楽部の朝練でもう学校へ行ってしまった。
足取りがフラフラしていたが大丈夫だろうか?
俺は陸上部でいつもなら朝練があるのだが、今日は練習が休みのため普段通りの時間に登校する。
とは言っても夢のため、あくまでシミュレーションなのだが。
それにしてもさすが明晰夢だな。
朝食の味もしっかりと感じられ、満腹感まで感じられるぞ。
そんな事を考えながら歩いていると通学路の交差点に差し掛かった辺りで声をかけられた。
「ちょっと、奏多。いつまであたしを待たせんのよ」
いつも交差点で待ち合わせをしているため声の主が誰かはすぐに分かる。
待ち合わせ場所の交差点にいたのは俺の幼なじみの沙耶だ。
沙耶は俺と小、中、高ずっと同じ学校に通っており、部活も同じ陸上部のため一緒に登下校しているのだ。
「え、時間通りだよ?」
「男は集合時間前には来るもんなのよ」
「はいはい」
沙耶と俺はずっと同じ学校、同じ部活、さらに登下校まで一緒だったため、よく夫婦だなんてからかわれたがそれはあり得ないと思っていた。
何かとすぐ怒るし、よく暴力を振るうため精神も体ももたない。
この前、アニメ好きの部活の後輩の女の子と意気投合して話し込んだ日の帰り道なんて、学校で何かあったのか沙耶の機嫌がとても悪かった。
そこで俺は元気を出させるために
『もしかして今日って女の子の日だったりする?』って冗談で言ったのに本気で殴ってきたし、そのあとに『今時暴力ヒロインは流行らないぞ』って言ったら今度は思いっきり蹴られたのだ。
確かにデリカシーが無さ過ぎる発言だったと自覚しているが、あのパンチと蹴りは痛かった。
だが、改めて沙耶をよく観察するとなかなかギャルゲーのヒロインとして申し分ないポテンシャルを持っている。
ハーフツインにしたミディアムほどの長さの髪にほんの少しだけつり目のぱっちりした目、少し小柄で幼げな印象があるが、陸上部とは思えないほど白くきめ細かい肌。制服のスカートから伸びるスラッと引き締まった足。
ふむ、今まであまり意識してなかったけど、暴力がなければ完全な美少女じゃないか。
あれ? 沙耶ってこんなに可愛いかったっけ?
夢の中だからか沙耶がいつもよりも可愛く映る。
「な、何よ。人の事ジロジロ見て」
まずい、バレた。これはボロを出したら殴られるパターンだ。
「な、何でもない」
いや、待てよ。これは夢だ。俺がそう望んでいなければ殴られることはまず無い……はず。それならば沙耶も攻略できるはずだ。
「何動揺してんのよ。あっ! まさかあんた、あたしが可愛くて見とれちゃってたりしたの?」
沙耶はニヤニヤしながら俺をからかっている。
負けてたまるか。
「ああ、沙耶が可愛くてつい見とれちゃってたよ」
「な、なぁっ?!」
ボンっと沙耶の顔が真っ赤に染まる。
ふふふ。照れてる照れてる。まったく、可愛い反応だな。
俺も恥ずかしさで死にそうだ。
多分沙耶と同じくらい真っ赤になっているだろうが、ここは夢の中。
沙耶に負けっぱなしではいられない。
「ふ、ふんっ! そうやって私をからかって。どうせあんた何か企んでるんでしょ。全部お見通しなんだから」
「本当の事を言っただけだよ。それと、そんなに怒ると可愛い顔が台無しだよ。俺は笑顔の沙耶が好きだな」
「はわわわわ」
ぐぁぁ、恥ずかしすぎて死にそうだ。
ずっと一緒に過ごしてきた沙耶にそういう言葉をかけると言う行為は余計に恥ずかしさを増長させる。
沙耶へのダメージと俺へのダメージがイーブンで精神力をガリガリ持っていかれてしまうのだ。
こんなこと現実じゃ絶対言えないな。
「べ、別に嬉しくなんてないんだからぁぁ!」
沙耶はそう叫びながら全力疾走で走り去ってしまった。
流石に沙耶の全力は速いな。
と言うか、学校と逆方向に走って行ってしまったが大丈夫なのだろうか。
まあ、それにしても助かった。
あのままだと俺の心の方が先にやられていた所だ。
俺は乱れた心拍数を整えながら通学路を進んだ。
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