19話 根はいい人
「リア充爆発しろ」
俺から事情を聞いた先生は静かに一言そう呟いた。
「お前は私に喧嘩を売ってるのか? ならばその喧嘩買おうではないか。よし! 表へ出ろ」
そう言うと指をポキポキと鳴らし始めている。
「待ってください! 真剣に悩んでるんですよ!」
「知るか! お前なぁ、私の方が悩んでるんだぞ? 何故か私はクラスの女子からも『先生って沢山恋愛してるから百戦錬磨でしょ?』って言われてよく恋愛相談を受けるし、いじめか? さてはお前らクラス全員グルだな? こちとら百戦で錬磨してるどころか磨耗して心がすでに擦りきれてるんだよ!」
恋愛絡みの相談は先生の琴線に触れてしまったようだ。
って言うかクラスの女子が放課後によく教室に残って佐渡先生と話をしていたのを見たけど、あれって恋愛相談だったのか。
確かに佐渡先生は人生経験豊富そうだからな。
現に俺が先生に相談しようと思ったのもそれが理由だし、俺と関わりのある先生の中で一番若いのは佐渡先生だ。
こういう相談は年がすごく離れているとしにくい。
「お願いします! 先生だけが頼りなんですよ。頼りがいがあって、人望も信頼もある先生だからこそ相談したんです」
俺はとりあえず先生を誉めた。
おだてて木に登らせる作戦だ。
とは言っても大体は合っている事なのだが。
「……そうか? それならしょうがないな」
佐渡先生はそう言うと険しかった表情が段々とふにゃふにゃしていく。
チョロい! チョロすぎる……
黒岩の件を任されたり、よくクラスの女子から相談を受けたりする理由を垣間見た気がする。
「とりあえず成瀬の言ったことを整理すると、同居している従姉妹の天野に異性として好きだと言われたが、お前は天野を家族としてしか見れない。それを天野にも伝えたが、それでも構わずに迫ってくるから困っている。けれども天野と溝は作らずに元の関係に戻したい。こんな感じで合ってるか?」
「はい、大体そんな感じです」
「うーん、あれだな、もう諦めろ」
「えぇっ?! もっと真剣に考えてくださいよ」
「冗談だよ。でもまあ、困っているという時点で少しは天野を異性として意識してるって事だからな。全く意識してないなら気にすらしないはずだし、お前が天野を本気で好きになるのも時間の問題だと思うぞ?」
ぐっ、確かに少し意識してるのかも……
でも誰だってあんなこと言われたら少しは意識すると思うし……
「で、でも雫石とそんな簡単に付き合ったりとか出来ませんし、自分には雫石の人生を背負ったり周りに反対されたときに反対を押しきる覚悟がありません。中途半端な気持ちで決められるような事じゃ無いですし、このままうやむやにしないで解決したいんです」
「そうだな。私から言えることは一人の女からしても教師としての立場からもお前の考え方には賛成だ。いとこ同士での恋愛や結婚には色々問題があるからな。お互いに愛し合っていて責任をしっかり取れるなら問題は無いだろうが、その場の流れに流されたり、うやむやにするのはお互いにとって一番駄目だ。それに私が親だったら、沢山経験を積んでそれでもお互いが好きと言うなら、そういう関係になるのを認めるが、まだ高校生ということもあるし反対すると思う。教師としての立場からだと、1つの屋根の下にカップルがいたらどうなるかは簡単に想像がつくし、間違った行動をしないように指導しなくてはいけないからな」
先生は口ではああ言っていたが、しっかり話を聞いて考えてくれていたみたいだ。
元々熱血タイプだから中途半端が嫌いなのかもしれない。
根は本当に良い先生なのだ。
それなのに何で結婚できないんだろうか……
「それで成瀬は天野にお前のことを諦めさせたいんだろ?」
「はい、そうです」
「お前、今好きな人いるのか?」
へ? 何で急に?
「い、いや別にいないですけど。どうしたんですか? 急に」
「いや、天野を異性として見れない背景に、従姉妹だという事以外に理由があるのかと思ってな。いないなら、お前の話を聞く限りだと天野の気持ちに答えられないという理由は天野の事を真剣に考えての事という建前で、どこか逃げるための言い訳じみてるし、断る理由としても不十分だろ。それに天野だって相当な覚悟でお前に好きだと言ったと思うぞ? 中途半端なのはもちろん失礼だが、ひたすら逃げるのはもっと失礼なんじゃないか?」
うっ、耳が痛い。
確かに色々ぐちぐちと回りくどく考えて、逃げるための言い訳にしていたのかもしれない。
いとこ同士だから駄目という先入観が心のどこかにあった。
「まずはお前自身が本当に天野とどうなりたいのかを世間体とか先入観一切なしで考えてから答えを出しても遅く無いと思うぞ?」
「そうですか……そうですね」
「それでもお前が天野を異性として見れない時はお前が誰かを本気で好きになれば天野は諦めてくれるんじゃないか? まあ、何かあったらまた私に相談してくれ。本当は生徒に連絡先を教えてはいけないのだが、これ私の連絡先だ。困ったことがあったらいつでも連絡していいからな」
先生は電話番号とメールアドレスがかかれた紙を渡してくれた。
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